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忌み子、のんびりパワフル世界救済(1000年ぶり2回目)  作者: 憩葱助
第一章:アルボスティアの少年少女
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1-36 冒険者5

 カイルは最初に飛び掛かった狼をいなし、遅れて出たもう一匹の首元に斬りかかる。

 立て続けに襲い来る狼の対処は仕留め損なわないことが肝心だ。今回は二匹だけだが、無理に一匹目から対処しようとして仕留め損なえば一気に畳み掛けられる。カイルは一匹目はいなして二匹目を先に仕留め、立て直すもう一匹と仕切り直す戦法に出たようだが

 

 「くっ……!」

 

 カイルの剣はすんでのところで狼にかわされた。

 すぐさま正面の狼に追撃をかけるが、最初にいなした狼は既に体勢を立て直し背後から飛び掛かり、カイルの左肩に咬みついた。

 

 「ぐっ!」

 

 パット状に肩を覆う防具が邪魔をして骨まで噛み砕かれはしなかったが、狼の牙はカイルの肌に浅くない深度で食い込んでいる。カイルは咬みつく狼を背負ったまま前転し狼の上に立つと、その首元に至近から剣を突き立てた。

 咄嗟にしては悪くない動きだが、掴みが甘いまま狼を背負ったため咬みつかれた肩の傷を広げただろう。カイルの肩周辺が血で赤く染まっていく。

 立て直すカイルに背後から狼が迫り、咄嗟に出したカイルの右腕に狼が咬みついた。鋼鉄の手甲と鎖帷子のおかげで今度は牙を通すことはなかったが狼の渾身の咬撃だ。カイルの腕には尋常でない圧力がかかっているだろう。

 カイルは苦痛に顔を歪めながらも既に左手に持ち替えた剣を今度は狼の腹部に正面から突き立て、狼が怯んで離れた隙に首元を斬りトドメを刺した。

 

 カイルの攻撃を受けた狼二匹はそれぞれ絶命し土に還った。だが小型の狼二匹程度を相手取って、上げた戦果に対して負った傷が大きすぎる。

 それに本物の野狼の咬撃を食らったとき、本当に怖いのはその傷だけではなく野狼が媒介しているかもしれない病質の方だ。ほんのささいな傷を受けただけでも、場合によってはそのまま命を落としてしまうほどの猛毒級の病質に感染してしまう可能性がある。清浄魔法が使えればそのような心配はいらないが、一行はそのような救急手段の練度が心もとない。

 

 カイルが二匹を仕留め終わった頃、他方ではウルハの燃焼魔法とエドの追撃により残りの二匹も仕留め終わっていた。

 だが戦果は散々だ。何とか狼四匹を倒せはしたものの、リーナ以外の三人は無傷ではないし、ウルハに至っては重症だ。

 四人は決して侮っていたわけではないだろう。三匹のときは悪くない対処ができたのだから四匹であっても出方によっては無傷に近い状態で切り抜けられたかもしれないが、一〇〇回に一度でもこのようなケースがあればパーティーは瓦解してしまう。

 

 「リーナ!」

 

 「はいっ!!」

 

 リーナはそれぞれ怪我を負った三人を見て顔を青くしているが、今こそ聖職者たる彼女の働き時だ。

 

 「何ボサッと見てるの 早く治さなきゃ」

 

 「だって……私……!」

 

 彼女は言っていた。人族の聖職者が使う治癒魔法は、一般的にはちょっとした切り傷を治せれば良い方だと。だがそんな焼け石に水な治癒魔法では肝心なときに役に立たない。

 

 「治せない? これから冒険に出て、こんな風に仲間が傷を負ったらどうするの? できないと諦めて見殺しにするの?」

 

 リーナは弱々しく首を横に振る。

 

 「他に誰がやるの? リーナがやらなきゃ」

 

 言っている内に、カイルの肩からはドクドクと血が流れている。ウルハの方は恐らく咬撃が骨まで入ったのだろう。涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃに汚しながら、声も出せず苦痛に悶えている。

 

 「恐れる暇があるならやりなさい! あなたが治す以外に道はない!」

 

 ベルの叱責にリーナは泣きながら唇を噛み締め、特に傷のひどいウルハの前に跪く。

 

 「“癒治(ヒール)”!!」

 

 ウルハの体に輪がかかるように魔法陣が展開すると、リーナの体から金色の魔力が溢れ出し魔方陣に収束していく。鬱血し痛々しい傷穴が連なる腕は瞬く間に傷が塞がり、一切異常がない綺麗な腕に戻っていく。

 

 「リーナ……お前」

 

 リーナの魔法の効能に一行は皆、リーナ自身でさえも目を見張っている。切り傷が治せたらいい方という癒治であれだけの重症が綺麗さっぱり治ったのだ。まるで奇跡でも起こったかのような表情で一行は魔法の展開に見入っている。

 

 時間にすれば一瞬のことだが、四人には体感では長く感じられただろう。やがてリーナから噴出する魔力が止み、傷が完全に治ったところでリーナは息を荒げながらその場に膝をついた。

 

 「リーナ……!」

 

 すっかり傷も治り、顔色も元通りになったウルハが泣きながらリーナに抱きつく。

 リーナの方も感極まったのか、ウルハを抱き返しながら声を上げて泣きはじめた。

 

 「“癒治(ヒール)”」

 

 ベルがリーナの背中に手をかざすと、リーナの体が一瞬暖かい金色の光に包まれる。

 

 「え…? あの、私は怪我は……」

 

 「あなた、魔法の組み方が効率悪い上に出力を上げすぎです 命を削ってまで治すほどの傷じゃありませんよ」

 

 「命を削って……?」

 

 ベルの一言に、一行の安堵の表情がまたも曇る。

 

 「身に余る大魔法や魔力の過剰消費はそのまま術者の命に負担をかけます ……今は私の魔力を補填したので問題ありませんが、今後魔法の使い方は考えてください」

次回分は明日更新予定です。

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