1-33 冒険者2
「カイル!」
ウルハとリーナが驚愕の声を上げる。
エドも制止に動くが先に動いたカイルの剣が数瞬速くベルの後頭部を捉えた。
ガキン
「えぇ!?」
だがその結果にウルハは全く毛色の違った声を上げた。
カイルの剣はベルの後頭部にいい角度で直撃したが、まるで麩菓子で殴りかかったかのように易々と砕け散ってしまったからだ。
「……はぁ!?」
一方のベルは無傷どころか、後頭部に“鉄の剣”で斬撃を食らったにも関わらずその衝撃すらものともしていない様子でピンピンしている。
「あーあ、剣がもったいない……」
「“無機再組成”」
ベルが砕けた剣の破片に再構築魔法を行使すると、粉々に砕け散った破片が元の刀身に収束していき、元通りの鉄の剣を綺麗に再生した。
「何を停まっているんですか、行きますよ」
そして自身が背後から不意打ちをされたというのに、欠片も歯牙にかけず何事もなかったかのように出発を促した。
カイル以外の三人はカイルの方を気にかけながらも歩き出す。カイルの方は不意打ちでしかも思い切り打ち込んだ自分の剣撃が全く通用しなかった上、それを受けた張本人が全く気にも留めていない上に砕け散った剣を再生までするという格の違いを見せ付けられ、さすがに堪えたのかその場に立ち尽くし唇を噛み締めている。
「……まぁほら、ベル強いから」
今でこそ本調子ではないようだが、ベルは一〇〇〇年前の大戦や魔将討伐でも数々の戦果を上げてきた歴戦の猛者だ。カイルに限らず並みの剣士では、ただの鉄の剣でいくら斬りかかっても傷一つ付けることはできないだろう。
「……強くなりたい」
カイルの頬を一筋の涙が伝う。
「“強さ”って何だと思う?」
問うがカイルはすぐに答えが出ない。
それはそうだろう。カイル自身自分が思い描く強い冒険者像がきっと定まっていないだろうから。
「強さって難しいものだよ 力が強いとか、剣の腕がすごいとかだけじゃない」
「俺はどうすれば強くなれる……?」
きっと本心からそう望んでいるんだろう。
まだ若い彼をそこから導くのが指導者の役割のはずだ。というのに、一丁前に養成所などと云う施設では彼らになにを教えているのだろうか。
「カイルは剣の腕もそうだけど、自分の中に芯を作らないとね」
カイルの背中に手を当て、気取られない程度に鎮撫を施す。
「そしたら剣も折れにくくなるから」
カイルは強く鼻をすすると、涙を拭って三人の後を追い歩き出した。
………
一行が現在拠点としているアルボスティアは出会った森から徒歩で四日間、リスリアとは90度違う方面にある人族の街だという。
少年少女のパーティーに碌な仕込みもせずにそんな僻地に冒険に向かわせるとは現代の人族の考えることはよく分からない。
「養成所の卒業試験なんですよね……」
「卒業試験ねぇ……」
卒業という割に、一行はその修学期間に何を修めたのか、何を教わったのかというくらいに冒険者としてはいささか拙すぎる。今回は一行の標的が幼いゴブリンでしかも反撃に出なかったから良かったものの、慣れない一行が監督する者もいないまま森を散策すれば下手をすればゴブリンよりよほど危険な獣種や森に棲息する固有種、そして何を置いても危険な“魔物”に出会っていた恐れがある。
もしくは、一行が下手に死んでしまったところでどうでもいいと思っているのだろうか。
「でも卒業試験もパスできるか分からないな」
「そうだよね~」
エドとウルハは言いながら溜息をついている。
もし彼らの卒業試験の要件がゴブリンの討伐だったのであれば、それを阻止してしまったのは私たちなので責任の一端はこちらにもある。
「でも討伐の成否なんて向こうは判定できるの?」
一行の冒険者としての練度を見るに、彼らの直属の教育係も大した能力を持っていないのではないだろうか。だとすれば、一行が嘘をついているか否かを判定する術も持たないのではないか。
「討伐部位を提出しなきゃいけなくて……無くてもパスできることはあるんですけど……」
「討伐部位ぃ?」
「討伐の証として、どこかしら体の一部を回収して提出するのが推奨されるんです」
そんな古典的な方法で討伐照明をしなければいけないとは……現代を侮っていた。
「討伐って具体的な要件は?」
「種族や討伐数は特に指定を受けていません」
「雑だなぁ……」
卒業試験というのに。
……いや、むしろ討伐ではなく単にあの森に赴かせることが目的なのだとしたら
「“魔石生成”」
路傍の小石に気持ち程度の魔力を流し込み、魔石を生成する。
「“偽装”」
そこに秘匿結界同様知覚を歪める精神感応作用を持つ形質変換魔法で魔石を腕のような形に変形させる。
「ホブゴブリンの腕」
「そんなイカサマがありますかアイリ様……」
ウルハは私の行使した魔法にまた苦笑するが、それでも有難そうに腕(偽物)を受け取るのだった。
お待たせいたしました~
次回分は明日更新予定です。




