1-27 魔力操作1
「さ、疲れてるだろうけど魔力感知も触りが身についたことだし、次のステップに行こうか」
視力を制限することにより感知能を刺激し、今四人の感覚は経験したことのないレベルで研ぎ澄まされているはずだ。
色々な魔力が最も明確に捉えられている今のうちにそれを“掌握”する術を教えておかなければならない。
「今使った清浄と癒治が自分の魔力にどう作用したか、ちゃんと観測できた?」
一行は難しい顔をする。恐らく何か感じはしたのだろうが、それを形容する言葉が分からないのかもしれない。
「毛羽立った魔力が滑らかになったような……感じですかね?」
ウルハが何とか捻り出すように答える。
実際に私が使った魔法の効能は大雑把に言えばそんなところだ。
「皆の身体の内に魔力が巡っているのはもう分かるよね?」
「はい」
「自分の身体の内に魔力が巡っている 心が動く時、身体を動かす時に魔力がどう動いているか、まずは自分自身をよく観察してみて」
魔素で構築された肉体を持つ者は、その体内を巡る魔力によって生命機構を維持している。つまり魔力の巡りこそが命の仕組みだ。その命の炉を自覚し巡る魔力を掌握することによって、肉体活動を活性化させるだけでなく自然に漂う魔力と絡めて魔法効能をより効率的に作用させることもできる。
魔力感知に疎く魔力操作の概念を持たない者であっても、その身体を思うままに動かしている以上は少なくとも無意識下において魔力操作を行っている。だがそんな無意識下で行われる肉体活動は日常生活を送るための最低限のものだ。その魔力操作に自らの意思を介在させて行うことによって、通常の限界を超えた活動が、それでいて通常の活動より疲労を抑えることも可能となる。
「今は歩き疲れてクタクタでしょうが、自分の身体を傀儡で動かすように魔力の流れで制御するんです」
ベルの助言を頼りに、それぞれが自身の内にある魔力を探り始める。本来ならば魔力の掌握は一般的な人族では一朝一夕で習得できるほど容易い技能ではない。だからこそ、今感知能が活きている間に踏ん張ってその糸口を掴んでほしい。
一行は座り込んだまま、或いは仰向けに寝転びながらしきりに四肢を動かしたり手を握ったり開いたりしてみたりと模索している。
傍から見ていると何だか滑稽な光景だが、一行はそんなことを気にも留めないほど集中しているようだ。
「……こんな感じか?」
最初に光明を見出したのはエドだった。
先ほどまでは地べたに座り込んでいたのに、軽やかな所作で立ち上がったかと思うとその場でピョンピョン飛び跳ねている。
次第に飛び跳ねる高さが高くなっていき、座り込んでいる他の三人の頭上くらいの高さまで助走も振りもなく跳ねるようになった。
「ちょっ……! 何で今そんなに軽快に動けるの!?」
そんなエドの様子にウルハは目を見開いている。
「動きはできてるみたいだけど、あんまりピョンピョン跳ねてると着地の衝撃で脚にクると思うから、ほどほどにね」
「なるほど」
言うとエドはピタリと飛ぶのを止めた。
「どういう感じかわかった?」
「……まぁ、何となくは」
さすが戦士風……体術に覚えのあるエドだからこそだろうか。もしくは、その概念を知るより前から無意識のうちに身体の内に自分の意思で魔力を巡らせる感覚に触れていたのかもしれない。
「すごいな……疲れてるのに、動くのが苦じゃないような感じがする」
「自分の身体の魔力を掌握すれば無駄な体力を使わずに効率よく身体を運用できるから、慣れてくれば今までよりも強い力を振るえるし、今までよりも疲れにくくなるよ」
「……ただし、魔力操作が慣れていないうちはやりすぎると身体が負担に耐えられずに痛い目を見ることになります ただ力を強化するだけでなく身体全体に気を配るようにしてください」
ベルが付け加えたアドバイスは、実は彼女自身の痛い体験談だったりする。
魔力操作を心得て身体能力が向上した者が陥りやすいミスだ。それまで自分が振るえなかった力を得ると際限なく力を振るうようになってしまう。うっかり万能感でも抱いてしまった日には、調子に乗ってやりすぎては知らず知らずのうちに身体に負担をかけ、身体が悲鳴を上げてしまう。なまじ魔力操作で運動を補助しているせいで消耗に気付きにくいのだ。
だがまぁそうして一度痛い目を見ておくことも大事な経験ではある。自分の限界を知っておくことでより安全で効率的な運用が可能になる。
「まぁ、そういうときこそヒールだね」
「……よろしく」
「……修練します」
表情は薄いながらもどことなく目を輝かせるエドの期待の眼差しを受け、恐らく先の苦労に思いを馳せたリーナは苦笑いした。
次回分は明日更新予定です。




