1-26 魔力感知3
「さ、無事森を抜けたね お疲れ様」
視力を奪われ他の感覚を否応なく叩き上げられながらの森からの脱出は三〇分ほど要した。余程気を張ったのか、人族一行は深く息をつくとその場に座り込んでしまった。
「こんなキツい訓練初めて……」
「養成所も大概キツいと思ってたが、これもなかなか……」
「四半刻程度森を歩いたくらいで何音を上げているんですか 貧弱ですね」
ベルは一行と同じ条件で歩いていたが、それでも一人だけ息を切らすこともなくピンピンとしている。そして相変わらず一行に手厳しい。
「え!? そんなに短い時間だったんですか!?」
ウルハが驚きの声を上げる。
「まぁそれくらいだね」
あれだけ集中していれば、体感では実際よりも長く歩いたような気になっていても何ら不自然ではない。が、実際より長く感じたということは短い時間にそれだけの学びを得たということで、成果としては喜ばしいことだ。
それに経験上、ダラダラと長いだけの鍛錬よりも短い時間集中し実の濃い鍛錬を積み、休むときに思い切って休む方が効率的だ。新しいことを学ぶときは体力を使うものだ。一行は短時間でそれなりの成長を見せたのだから、その頑張りを評して今は労おう。
「さ、自分の身体の魔力に意識を集中して…… “清浄” “癒治”」
人族一行の装束と身体に清浄魔法とを施すと、それまでそこら中泥まみれで汚れていた装束が新品のようにくすみなく清浄されていく。さらに失明薬の薬効も中和した上で、感知能を鍛えるために張り詰めていた四人それぞれの魔力のピリつきやささくれを均し、体内の魔力の流れをスムーズにする。
次いで行使した治癒魔法により、転んだ時に負った擦り傷や打撲を治していく。
「ヒールまでしてあげる必要はないんじゃないですか?」
ベルは苦言を呈すが
「まぁまぁ…… 治癒魔法の仕組みも実際に体感する方が分かってもらえるかなと思って」
「……アイリは甘いですね」
まぁ甘いのだろうなぁ。自覚はあるが、何だか起き抜けのせいかいまいち危機感に欠けている気がする。
一行はほんの三〇分ぶりとはいえしばらく絶たれていた光の受容に思わず目を瞬かせる。
「ただの“癒治”でこんなに傷が治るのかよ……」
一行の中で一番転んであちこち傷だらけだったカイルはさっぱり綺麗になった自分の身体に驚嘆する。
「ヒールってそんなもんじゃない?」
「私たちの知っているヒールはせいぜいちょっとした切り傷が治せたらいい方なものです」
リーナは苦笑する。
治癒魔法にも段階があるが、最弱の“癒治”でも標準ではちょっとした部位欠損くらいであれば完治させられる魔法という位置付けのはずだ。
そもそも切り傷程度、長くても数日放っておけば治るような傷ならわざわざ魔法で治す必要もないだろう。その程度にしか使えないのであれば治癒魔法の名折れである。
「私でもこんな風にヒールが使えるようになるでしょうか?」
癒治を初めとした治癒魔法などの聖属性魔法は当然魔力特性や魔法技能の習熟度にも左右されるが、人の善意も大きく反映される。治したいという気持ちが強ければ強いほど効能もそれだけ強くなる。
彼女が彼女の魔法を救いに使いたいと強く思えば、自ずと魔法の質も向上するようになるだろう。
「そうなりたいと思う気持ちを大事にしていれば、すぐに上達するよ」
「……頑張ります!」
「勇敢なお仲間が練習台になってくれるんじゃないですか? いくらでもお手伝いしますよ」
言いながらベルが剣を抜き切先を向けると、カイルは座ったまま後ずさる。
「絶対やらねぇぞ!!」
そんなやり取りを見ながら一行は笑っている。
「そういえばベル様、出会い頭にカイルの首を斬ってたような……」
ウルハの一言にその一幕を思い出したのか、カイルはギクッと身を強張らせる。
「あれは何が起こっていたんですか?」
「斬ってすぐ治しただけですよ」
「そんなことができるんですか?」
「そう難しいことではありません 刀身にヒールを纏わせて斬っただけです」
汎用魔法領域になっているミスリルの刀身にヒールを付与すると、ヒールの効能が刀身をコーティングし、触れたものに作用するようになる。
ベルのミスリルソードは単純な鉄の剣とは比べ物にならないほど鋭い切れ味を持つ。そのため斬ったものの斬り口が歪にならず繋げやすく、魔力を絞ったヒールでも跡形も傷を残さず治すことができる。
「……え、ただのヒールですか?」
「ええ」
ベルが掲げた剣の刀身に魔力を通わすと、澄んだミスリルの刀身がほのかに金色の輝きを纏う。
「あ、何だか剣が輝いて見えます」
「魔力ってこういう風に視えるんですね~ ……っていうか、すごい剣」
一行はカイル以外の全員が感心した様子でミスリルソードに見入っている。
やはり一度斬られた剣に何か思うところがあるのか、カイルだけは何とも険しい表情でその刀身を見ている。
一方、よほどおちょくるのが楽しいのかベルはそんなカイルを見て悪い顔をしている。
「何ですか物欲しそうに もう一度斬りましょうか?」
「やめろ!!」
カイル本人にとっては死活問題なのだろうが、もはや板についたベルとカイルのやり取りに一同は和気藹々と笑うのだった。
次回分は明日更新予定です。




