1-25 魔力感知2
「じゃあ今から“明かり”を灯すね 最初は大きく、徐々に小さくしていくから、それを頼りに……後は自分で頑張ってね」
視覚を制限されている四人と、制限されてはいるがまぁ大して問題もないであろうベルの感覚に寄り添う。彼らにとって今この森は暗闇だ。そんな闇に光を照らす。一瞬強く照らせば、その光が焼きついて後は簡単には見失わないだろう。
ローブの隠遁効果があるので特に必要ではないが、普段は身体の内に押し込めている魔力を一瞬だけ体外に発散する。
「あっ……!」
魔力の照射を浴びた一行は声を上げる。
視覚を閉ざされ他の感覚が研ぎ澄まされているところに高純度の魔力を照射する。森特有の魔素と|自然魔力《マナの中に突如発散した異物の魔力に、感知能が育っていない人族の感覚であっても否応なく知覚させられるだろう。
「今皆が漠然と感じているのが魔力 この世界は魔素で満たされていて、それらが巡る中で絶えず魔力が発生している 漂う魔力を、魔力がぶつかる形状を、魔素の連なりを知覚するのが魔力感知だよ」
今はまだ私の魔力がぼやけた光のように知覚できる程度だろうが、慣れていけば人の形や周囲の地形だけでなく、一帯のエリアを俯瞰して視ることもできるようになる。
さらに感知能を磨けば、魔素や魔力の性質や特製を区別する識別能力の習熟にも繋がる。特に魔法や各種加工技術にそれらの能力は多大なアドバンテージをもたらすので、冒険者であれば鍛えておくべき技能だ。
「じゃ、私の後をついてきてね 最初は木の根に足取られたりするだろうけど、まぁ慣れたら多分大丈夫だから 私の魔力を感じているのと同じ感覚で周りを視て頑張って」
「ふわっとしすぎだろ!」
カイルはそういうが、感覚を磨こうとするのに理屈をどれだけ難しく語ったところで結局は考えすぎて肝心な感覚は養われない。実地を踏むのが上達への一番の近道だ。……ということを言っても、今の彼らにはまだ分かりようもないだろう。せいぜい転んで怪我する程度で済む訓練で感知能をしっかり磨いて欲しいところだ。
………
視力を制限した状態で一五分ほど歩いただろうか。
気持ち早足で歩いたせいか森ももう出口に近いところまで来ているが、人族一行四人組は不憫なくらい全身が泥だらけになっている。
まぁ当然といえば当然だ。視力を奪われた状態で、ぼんやりと知覚できる魔力のみを頼りに森の中を歩かされているのだから。
四人とも木の根に足を取られては転び、泥濘に滑っては転び、とにかく転びまくっていた。ウルハは最初こそ転んだ衝撃や装束の汚れに泣き言をこぼしていたが、次第にそれもなくなった。
だが泥臭い鍛錬は無駄ではなく……といっても四人の場合は持ち前の感知能が弱すぎたのもあるが、この一五分そこらの短時間で四人の感知能は着実に磨かれていた。
特に目を見張る成長を見せているのは意外にもリーナだ。彼女は四人の中で最も早く自分の歩く足場の形状を知覚し、転ばず歩けるようになった。
「どう? 皆視えるようになってきた?」
「目で視えるほどハッキリじゃないが、何となく……」
「不思議な感じです 視えていないのに視えているような」
一行は感知能の鍛錬のあり方に懐疑的だっただけに、自分たちの成長と知覚できるようになった新たな視点・景色に感嘆しているようだ。
「リーナはよく視えてるみたいだね」
「はい ベル様が仰っていたことも今となってはよく分かります こんな風に視えるものなんですね」
恐らくリーナは既に自分の視界だけでなく、俯瞰での感知も習得しつつあるのだろう。ベルほどではないが、もはや視覚を完全に奪われているとは思えないほど軽やかな歩みで森を闊歩している。
そしてそんなリーナの様子を視えないながらも感知し触発されてか、他の三人も自分の知覚の範囲を広げようとより集中して歩むようになった。
「視界をどんどん広げるようにね 自分の周りのことがわかることになったら、次は自分の“内”に巡る魔力の流れも視てみたりしてね」
「はい」
体外に発散し照射した魔力は最初こそただ四人の身体にぶつかって反射するくらいだったが、今では四人が各々の魔力を体外に漂う魔力と能動的に通わせることで私の魔力を正確に捉えられている。既に発散する魔力は最初とは比べようもないほど矮小になっているが、それでも彼らの魔力としっかりと咬み合う感覚がある。
四人ともセンスがある。そして何よりひたむきだ。教えるべきことを真っ当に教え修練に励めば、いずれ人族の中では頭抜けた実力をつけることができるだろう。
力の使い方にまで指図はしないと言ったが、できればこの四人には正しく力を奮える人になってほしい。
いつぞやの勇者みたいにならなければいいのだけど……
次回分は明後日更新予定です。




