1-23 魔族2
◆前回のあらすじ
それは本当に大鬼族だった?
私が列挙した“本来の大鬼族とは異なる特徴”を聞いた三人は目を見開いた。
「そ そうです! 確かあのときの大鬼族はこんな体色じゃなかったです!」
「確か角も黒くて……目もこんな普通の感じじゃなかった」
ウルハとエドがそれぞれ大鬼族に抱いた印象を語る。
予想通り、そして忌むべき事態だ。
「ならそれは大鬼族じゃない “大鬼族だったモノ”ではあるけど」
含ませた言葉に三人は固唾を呑む。
「それともう一つ……大鬼族っていうのは基本的にはゴブリンとそう変わりない性格の生き物なんだ 今君たちがこうして間近で見ているゴブリンと何ら変わりない そんなゴブリンを見た上で、その大鬼族っぽい奴はそれと同じ風に……理性や知性があるように見えた?」
次いで三人は、今度は三人ともハッキリと首を横に振った。
「……とても理性のあるような暴れ様ではなかったように思います」
辛い出来事を思い出しているだろうに、それでもリーナは気丈に答える。
「魔物は命ある者を狩るのが基本的な行動指針だけど、稀に命ある者の身体を奪って受肉することがある」
魔物が自らの魔力で成す薄っぺらい殻ではなく、命ある者の身体に入り込むことでそれを殻とし、さらには元の体の魂と魔力までも自らのものが如く掌握してしまう。
一〇〇〇年前にも人型種や亜人種に受肉した魔人、獣種に受肉した魔獣など、受肉した魔物……“魔族”が世界各地で猛威を奮った。そしてそれらは単体で単純な魔物の軍勢を遥かに凌駕する甚大な被害をもたらす、まさしく災害のようなものだった。
「……実は理性も知性も持たない魔物が何で受肉するのか、そもそも“どうやって”受肉しているのかは私にも分からない」
一〇〇〇年前、最初に魔族を発見して以降世界各地を巡る中で多くの魔族と対峙した。魔物や魔獣を率いていた魔人たちもそうだ。出会ったときには既に魔族と化していた者がほとんどだったが、中には魔族に変容するその瞬間を見た者も居た。だがそんな場面を何度か観察した上で、それでも魔物が受肉する術は結局分からず終いだった。
「魔物が人々の命を狩る仕組みはさっき話した通りだけど、それと同じことが起きたときに、稀に命を落とすことなく魔族に変容する個体が現れる」
「それは……何かきっかけや条件などがあるわけじゃないんですか?」
ウルハは首を傾げる。
無論私も同じ疑問を抱いたが、結局私が観察した限りではそうなる決定的なトリガーは見つけられなかった。
ただ、受肉した魔物のその後については二通りのケースがあることが分かっている。
一つ目は私が最初に出会った獣人、そして恐らくこの四人の故郷を襲った大鬼族だったもののように、心を完全に蝕まれ魔物と同様に理性も知性も感じさせない個体だ。
だがそちらは所詮は愚直な魔物が人並みの力を得ただけのようなものなので大した問題ではない。より深刻なのは理性も知性も生前のそのままを保った状態で魔物が受肉したケースだ。人型種や上位の亜人種など、より深い思考力を持つ種族では特に後者が多く見られる。
そして元が人族の場合は特に多い。
「分からない……ただどちらにしても、今の君たちが対峙するとひとたまりもないだろうね」
魔物数匹を見て腰を抜かしていたくらいだ。今の修練度では魔族はおろか単純な魔物単体ですら相手取るのは骨が折れるだろう。
「それに……」
ベルは「人族社会には相当数の魔人が紛れ込んでいる」と言っていた。実際には見ていないが、もし人族社会に問題なく溶け込んで生活しているのであれば、それらはより厄介な後者の魔人であると見て間違いないだろう。
もしかするとこの子たちのすぐ傍にも気付かないうちにそういった脅威が潜んでいるのかもしれない。それらと対峙する必要に迫られたとき、恐らくこの子たちは次こそ生き残れない。
だがそれを教えるのは今じゃない。教えることでこの子たちをみだりに疑心暗鬼にさせてしまえば、魔物の付け入る隙を生むかもしれない。まずすべきことはこの四人が自分たちで光を見出せる力をつけることだ。
“ベル”
思念に魔力を込めて呼びかける。
基礎魔法“念話”体系の一つだ。心の距離が近いもの同士であれば、ある程度であれば距離が離れていても思念で対話ができる。
私の念話を受け、すぐ次の瞬間には今さっきまで立っていた位置にベルとカイルが転位で現れた。
「……」
カイルはベルの傍でむすっとした顔をしている。
「今の話ってそっちに聞こえてたの?」
「つつがなく、聞かせてました」
言うとベルは結界の媒介となった魔石の欠片を取り出して見せた。
魔石の本体と鍵となる破片は同じ波長の魔力で結界が持続する限り共鳴している。結界の状態と結界内の様子を簡易的に見聞きできるのは、その共鳴の拡張機能の一つだ。
せっかく冷静を取り繕って席を外したのに、後を追われた上故郷を襲った者の真実を聞かされては相当にバツが悪かったのだろう。カイルの何とも形容しがたい不貞腐れた表情から察するに余りある。
「君たちに力の使い方を教える」
言うと、特にエドとウルハは目を輝かせた。
「その力をどう使うかまでは指図しないけど、少なくとも君たち自身が自分たちの命を守れるくらいの力はつけておくべきだと思うから」
「俺たちが力をつけて、あんたらを倒そうとしたら?」
「ちょっとカイル!」
カイルは憎まれ口こそ叩くが、今では言うほどそう思っている風でもない。
「……まぁ、五〇〇年くらい頑張ったら一撃くらいはもらうかもしれないね」
カイルは今度こそ心底うんざりした様子で深くため息をついた。
次回分は明日更新予定です。




