1-22 魔族1
◆前回のあらすじ
あの黒いのはどうやって人の命を奪ってるんかな……
……おっと、またつい語りが長くなってしまった。
何分二〇〇年そこらの旅の話だ。幕間に語るには語るべきことが多すぎる。今のところは一旦この辺にしておこう。
………
私は一〇〇〇年前、人族による他種族への侵攻に端を発した紛争の最中魔物が発生し人々に牙を向いたこと、それに伴い世界規模の大戦が起こったこと、そして彼らが“黒色”と呼ぶ邪悪の権化が何を以って“魔物”と言わしめるのか、人族一行の四人組におおまかに説明した。
話を聞いた人族一行の反応は四者四様だった。
感情の起伏が激しいカイルについては、私の話を鵜呑みにはしないだろうと思っていたが、それでも当初の予想よりも真剣に静かに耳を傾けてくれた。
「……私たちが教わってきた“歴史”って、一体何だったの……?」
ウルハは何とも定まらぬ表情でうろたえる。
「……では“黒色”は命ない邪悪な魔力の塊であって、命ある他種族とは本質的には全く別物、ということですか」
「まぁ要点はそんなところだね」
もちろん彼らが“マモノ”と呼んだ他種族と区別し魔物を駆逐すべきというのは、そこに命があるかないかで差があるからだけではない。種族によって考え方こそ違うものの、この星に存在するあらゆる種族はそれぞれの領分を弁えた上で積極的に他種族と争おうと考えている者は圧倒的に少ない。……もしかすると一〇〇〇年のうちに変わってしまったのかもしれないが、だとしても恐らくベルが目覚めてから旅をする中で情報を得られなかった程度の小規模のものだろう。
とにかく本来は互いに滅ぼしあう意味も利点もないのだ。そこにきて命ある者を無差別に狩って回る奴ら魔物は、この世界における明確な“異物”だ。
このコロニーのゴブリンたちは人族の襲撃に対し反撃せず、今こうして人族を自らの拠点に留まらせていながら私たちの隙をついて命を狙ってやろうという素振りを微塵も見せない。この在り方こそが本来あるべき姿なのだ。
「……あんたの言うことはよく分かった」
重く感情の乗った声で話し始めたのはカイルだ。
「あんたは強い 俺たちよりも色んなものを見て色んな修羅場をくぐってきたんだろうけど、それでも世界の全てを見たわけじゃないだろ」
まぁ、一〇〇〇年前には“二ヶ所”を除いて大体全部見て回ったんだけど。
「俺たちはずっと“マモノ”は狩るべきだと教わりながら育ってきた あんたの話は筋は通っているが、出会って間もないあんたの話をすぐに信じろって言われても無理だ それに……」
カイルはなるだけ気取られないようにと自分の感情を押し殺したのだろうが、私は視覚ではなく魔力感知で空間丸ごと認識しているので、彼が少女二人の影で見えないところで強く強く拳を握る様が見て取れた。
「……ちょっと外の空気吸ってくる」
カイルはそのまま一人小屋を離れていった。感情を押し殺したつもりなのだろうが、やはり何か思うところがあり彼なりに葛藤しているのだろう。下手にここを離れると秘匿結界で拠点を見失う恐れがあるのを恐らく放念しているので、ベルに目配せして後を追わせる。
「……もしかして君たちは、君たちが“マモノ”と呼ぶ何者かと何か因縁があるのかな?」
問うと、席を外したカイルの様子に同様に何か思うところがあったのか表情を曇らせていた一行は、俯いて黙ってしまう。
「……俺たちが生まれ育った村は、“マモノ”の襲撃で滅んだ」
話し始めたのはエドだった。
そしてそれは私にとって衝撃の告白だった。
「君たちの村を襲ったのが何者か覚えてる?」
「……大鬼族だ それもたった一体の」
“大鬼族”……ゴブリンの中から稀に生まれるゴブリンの上位種族だ。
ゴブリンより遥かに大きな体躯と圧倒的な力、引き換えに知能面ではホブゴブリンより劣る。もし大鬼族が本気で人族を襲おうとするならば、単体で村一つ滅ぼすのもさほど難しくはないだろう。だが大鬼族はその強面な風貌とは裏腹にゴブリン同様本来は好戦的な種族ではないし、何のきっかけもなく唐突に人族を襲うようなことは考えにくい。
「……嫌なことを思い出させたら申し訳ないんだけど、その大鬼族は何か“特徴的な見た目”をしてたなんてことはない?」
大鬼族“らしきもの”が人族を襲ったのであれば、心当たりがなくもない。
「俺たちが大鬼族を実際に見たのはその一回きりだから、特徴と言われても……」
まぁ大鬼族自体は基本的には群生する種族でもないし、人族の生活圏ではそうそう出会うこともないだろう。
「“思念映写”」
私の記憶にある大鬼族の姿を、見た目から大きさからそのままの虚像を生成する。
枯れ草色の体色に、ガッシリとした骨格と隆起した逞しい筋肉、一般的な人族の三倍ほどはある体躯の天辺、頭部には二本の反り返った象牙色の角を持つ。大鬼族の“一般的”な形態だ。
嫌な記憶のある種族を改めて見せるのも忍びないと思ったが、三人は予想と反し意外な顔をした。
「大きい……けど、村を襲った奴は確かもっと大きかったと思います」
ウルハが首を傾げる。
「それに、何だか雰囲気も違うような」
彼らが村を襲われたのももう何年も前であれば、恐怖で記憶に補正がかかっているということも十分に考えられる。だが私の予想通りであれば、そんなぼんやりとした記憶ではなくもっとハッキリと分かる特徴があるはずだ。
「例えば、腐ったようなくすんだ体色をしていたとか、黒い角が生えていたとか……あと目が黒かったとか」
次回分は明日更新予定です。




