1-15 救世主トライソル
◆前回のあらすじ
魔王かと思ったら救世主?間逆……
“太陽が如し三つの輝く眼で混沌の世界を照らす者”
と、ホブゴブリンは得意げに言ってのけた。
そちらも“特徴”に心当たりがあるので、まぁまず間違いなく私のことだろう。
魔王の次は救世主……
確かに大戦のカタを付けたのは私と私の思想に賛同し集った仲間たちではあるが、救世主とまで言われるのは何だかむず痒い。実際には救世とまではいかず、邪悪の根源を滅ぼした(しかもつもりでいた)だけのことで、荒んだ世界を全て平穏へと導くことまでは叶わなかったのだ。
それに一連の冒険は私一人では成し得なかった。もし私一人の偉業のように取り立てて語り継がれていたのであれば、それはそれで訂正しておきたい。
「御名をアイリ様と仰るのでもしやとは思いましたが確信しました 此度の加護とその強靭な魔力……そして我が同胞を救ってくださった慈悲の心 よくぞこの森にいらっしゃってくれました」
ホブゴブリンは今日何度目かも分からない、とはいえ何度見ても見がいのあるキレのある動きで華麗に跪き、私を見上げた。
本当に、そんな大層なことをしたつもりもないんだけど……
「そんなかしこまらないで 昔ゴブリンの友達も居たから放っておけなくてさ ……それより、何で魔王とかって噂が流れ始めたか心当たりはある?」
訊ねるが、ホブゴブリンは首を捻る。
「特段のきっかけがあったかどうかは存じません……ただその一時期を境に人族社会でのみそのような思想が持たれ始めたということくらいで」
ベルは一〇〇〇年前から今日に至るまで、世界規模の大戦はなかったと言った。何かそのような大きなトリガーが無かったとすれば、誰が何を思い、どうやって人族社会に刷り込みを行ったのか……
「では、人間社会では元々アイリ様のことはどのように語り継がれていたのですか?」
「リーナ殿は一〇〇〇年前に世界規模の大戦があったことをご存知で?」
「人間と……それ以外の種族との間で起きたという戦争のことでしょうか?」
そこから認識が違うのか……と、恐らく同じことを思ったであろうホブゴブリンも眉間に皺を寄せる。
「人族とそれ以外の種族との間で起きた大規模な抗争は、確かに発端ではあるがそれが全てではない その後に魔物が……今の人族たちは“黒色”と呼ぶのだったか 奴らが突然現れて人族であろうがそれ以外であろうが種族を問わず殺戮を始めたと言い伝えられている 魔物とそれ以外の命ある全ての種族というのが恐らく正しい」
ホブゴブリンの説明は私の認識とほぼ相違ない。
「あなたたちも大戦のことは知ってるんだ?」
訊くとホブゴブリンは畏まって答える。
「我が一族においても一〇〇〇年前の大戦のこと、我々の祖先があなたに救われたという言い習わしは当然語り継がれております もっとも、少なくとも私が生まれて以降我々のコロニーは魔物を前にしても言い伝えにあるような襲撃に遭ったことはないのですが」
なるほど、人族以外の種族にとって今現在魔物はさほど脅威と捉えられていないというベルの証言と合致する。
「魔物はもうずっと昔から普通にいるの?」
「私が生まれたときには…… 襲われないとは言っても気味の悪い存在ではあるので、あまりみだりに接近するなとは昔から言い聞かせられております」
先ほど掃討した魔物はやはり、一〇〇〇年前とは違う行動指針を持っているようだ。
しかし理性も知性もない魔物共が襲う相手を選択するとは思えない。人族だけを襲うことに何か意図があるのか、あるいは誰かが裏で手を引いているのか……
「そういえばアイリ様はゴブリンは魔物ではなく黒色が魔物というようなことを仰っていたように思うのですが、それはどういうことなのでしょうか?」
リーナは先ほどよりいくらか落ち着いた様子で訊ねる。
彼女も土台に自分が育った環境で培ってきた価値観があるのだろうが、それでも私たちの話によく聞き入ってくれている。さすが社会性の高い人族だけあって、幼いながらに話が通じていい。
「どういうことも何も、言ったその通りなんだけど……」
と言っても、そもそもこの人族一行はことの経緯をさっぱり知らないのだろう。まずそこを説明して理解してもらった方が話は早い。
「カイル、エド! ちょっとこっちに」
ゴブリンに倒され続けて心身共に疲れきったのだろう、いまだ肩で息をする二人を呼び寄せる。
魔物にまつわる事情はこの二人にも知っていてもらう必要がある。……魔王トライソルがどうとかって話は、特に直情型のカイルは聞いた途端斬りかかってきそうな(武装凍結してあるので全く無意味ではあるのだが)予感がするので改めて二人に説明するのは今は端折ろう。
私は“魔物”というもの、それが発生し世界に猛威を奮った経緯について私が知ることを四人に説明した。
次回分は明日更新予定です。
次回は新話『人妖交雑』です。




