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忌み子、のんびりパワフル世界救済(1000年ぶり2回目)  作者: 憩葱助
第一章:アルボスティアの少年少女
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1-14 魔王トライソル

◆前回のあらすじ


私いつの間に魔王になったん?

 “トライソル”が“魔王”……?

 

 “トライソル”という名は私と、今は生きているのかもわからない私の両親であるハーフエルフ姉弟の固有名だ。もしかすると他にそう名乗る者がいるのかもしれないが、少なくとも一〇〇〇年前の段階で私は出会ったことも聞いたこともない。

 

 「で でもアイリ様人の形してるし……」

 

 「でも種族のところに“竜”って……」

 

 あ、本当だ。ちゃっかり(ドラゴン)の表記も連なってる。

 全然竜っぽくない竜種はいくつも見たことがあるが、私なんて完全に人族と同じ形態をしているのに“竜”なのか……

 

 少女二人は表示を見た途端完全に萎縮してしまった。

 二人の怯えようは相当だが、それほどの恐怖を感じるような何か人族に仇なす存在がいるのだろうか? 


 「……ベル、私魔王なの?」

 

 もし私が魔王だなどという眉唾(まゆつば)な噂がこの二人のような幼い冒険者が本気で怯えるほど人族社会に深く浸透しているのであれば、凍結魔法の眠りから覚めた後、途中いざこざがあり断念したようだが人族社会に潜入して情報を収集していたベルが知らないということはないだろう。

 

 「“魔王トライソル”がどうとかって話は聞いたことありますが」

 

 あるんかい。

 

 「アイリが世界を破滅に導くような邪悪な王であるはずがないでしょう 一〇〇〇年前に世界を救った張本人なんですから 多分人違いですよ」

 

 「いや、私も人違いじゃないかと思うけど……」

 

 人違いだと思いたい。だがベルの口ぶりがどことなく当てずっぽうに思えて、不安に拍車がかかる。

 

 「その……“魔王トライソル”ってどういう奴なの?」

 

 すっかり足が立たない……何だかそのまま失禁してしまいそうなくらい体を震わせ身を寄せ合う少女二人に問いかけると

 

 「……全ての原初属性魔法を好きなように操り、」

 

 操れる。それはもう好きなように。

 

 「八種の竜王さえも従え」

 

 従えっていうか、友達ではあったと思うし全員から加護ももらったけど……

 

 「時空を割って現れる、三つの目と八つの角を持つ巨大な竜で……」

 

 ……ほんの、ほんの一瞬ではあるが、シグルドとの戦闘中にそのような形態になったことはある。

 

 「一〇〇〇年の封印から近く目を覚ますと……」

 

 「……それって多分私じゃない?」

 

 正確には一〇〇〇年も封印されるなんてしくじりは犯していないが、転生に一〇〇〇年要したという点ではその解釈もあながち間違ってもいないような気はする。

 

 「はは 何をバカなことを」

 

 が、ベルはそんな私の推測をあっさり笑い飛ばした。

 

 「第一アイリが人に仇なす魔王なら、あなたたちとっくに生きてはいないでしょう」

 

 「た たしかに」

 

 ベルの一言で少女二人はいくらか不安を削げたようだが

 

 「にしてもあなたたちビビりすぎですよ “鎮撫(カーム)”」

 

 ベルは先ほど襲われていたゴブリンのメスに展開したのと同じ精神感応魔法で二人の心を落ち着ける。

 二人はいくらか顔色も良くなり震えも止まったが、まだ立ち上がれそうな雰囲気ではない。

 

 「それに、アイリ様目は三つないし、角も生えてないし」

 

 「でも属性魔法全種と八種の竜の加護……」

 

 何だかハッキリ否定しておかないと埒が明かなそうだが

 

 「ねぇその……世界を破滅に導く魔王って一体何をするの?」

 

 そもそも“魔王”とやらが何を以って人族に対しそこまで恐れられる対象となっているのか。人族は魔王が何を成すことを恐れているのか知らなければいけない。

 私は人族を滅ぼそうなどとは微塵も考えてはいないが、もし私がこれから成そうとする何かが人族にとって脅威であるならば予め知った上で手段を再考する必要がある。……と言ってもこれからの当面の予定で思いつくものといえばこの時代に再び蔓延(はびこ)る魔物を駆逐するくらいだが、それはむしろ人族にとっても都合のいい話のはずだ。

 

 「……伝説では“マモノ”を率いて人間を滅ぼすと云われています 特に邪悪な“黒色(こくしょく)”は魔王の直系の眷属であると」

 

 私が魔物を率いて人族を滅ぼす?

 私は別に人族は嫌いじゃない。人型種はなまじ賢い分気難しい一面があるが、それくらいで嫌うほど私は度量も狭くないし、嫌いだからといって滅ぼしにかかるほど安直でもない。当然魔物を率いてもいない。

 これはいよいよ私とどこぞの魔将とを誰かが取り違えて語り継いだとしか考えられない。

 

 「でも、そう言えばアイリ様さっき“黒色”倒してたような……」

 

 「そりゃあ魔物……君たちで言う“黒色(こくしょく)”?は私にとっても敵だからね」

 

 ついさっき一〇〇〇匹ほど掃討したところだし。

 

 「人族の間で“魔王トライソル”の話が語られ始めたのは一〇〇年ほど前のことになります」

 

 唐突に話に割って入ってきたのは、コロニーの長のホブゴブリンだ。

 

 「あなたも聞いたことがあるの?」

 

 「……我々は元は何コロニーも連なる大規模な一族でした 別段人族と親しかったわけではありませんが、その頃はまだ一部の人族を含む他種族との交流もあり、人族の文化の一部にも触れておりました 何せ唐突なことだったので、私も当時まだ幼いながらハッキリと記憶に残っています」

 

 「人間とゴブリンの間に交流があったのですか!?」

 

 ホブゴブリンの言にリーナは驚きの声を上げる。

 ゴブリンは人型種ではないが、それでも亜人種の中では比較的人族と近い形態をしている方だ。そんなゴブリンですら今の人族は“マモノ”扱いしているくらいだから、その異種間で交流があったと聞いて驚くのも当然かもしれない。

 だが一〇〇〇年前、少なくとも大戦前の段階では人族とゴブリンの関係は良好なものだったと聞いている。森の働き者であるゴブリンは森の恵みを、様々な知識を取り入れ文明を築いた人族はその中で得た様々な気付きや独自に栽培した作物を、それぞれ供給しあうことで互いに持ちつ持たれつの関係を築いていた。

 またそのような一般的な交流とは別に、人族とゴブリンが同じ街区に共生している地域も存在した。

 

 「それこそ、今となっては昔の話ですが……」

 

 「まぁでも、大昔は全然珍しいことでもなかったけどね」

 

 そんなわけで、前世では私にもゴブリンの友人がいくらか居た。さすがにもう生きてはいないだろうが……

 

 「……しかし随分と妙な思想転換で、我々だけでなく他種族の中にも訝しむ者は大勢おりました 何せ我々全ての種族にとってアイリ・トライソル様は一〇〇〇年前の大戦を終結し世界を平定した張本人、……まさしく救世主として語り継がれていた存在なのですから」

 


次回分は明後日公開予定です。

次回は新話『救世主トライソル』です。

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