1-13 アイリ・トライソル
◆前回のあらすじ
ゴブリンって実は結構力持ち でもってホブゴブリンは理知的。
「あの……失礼を承知でお願いするのですが」
人族の聖女リーナが私に問いかける。
「アイリ様のステータスを見せていただいたり……なんて」
「あ、私も見てみたいです!」
ウルハも同調する。
「ステータスってさっきの数値化魔法?」
「はい アイリ様のような方、今後出会えるか分からないなって思うと……ダメでしょうか?」
「ダメってことはないけど……」
どうやらウィンドウという転写タイプの量産魔道具は人族の間では重宝されているようだが、人の力量を数値化して視て何が面白いのだろうか?
それと……別にどうでもいいがこの少女二人はいつの間にか私のことを様付けで呼んでいる。私のことも上級精霊か何かと勘違いしているのだろうか。だとしても大袈裟な気がするが。
まぁ別に減るものでもないし、感覚で分からなくもないが転生したてのブランクで本調子とどれだけ差があるかを数値で具体的に見られればより分かりやすくもある。
「ベル、ちょっとお願いしていい?」
あの魔法を正しく起動するには相応の媒介が必要だ。半端な媒介を使えば最初のウィンドウのように破損することもあり得る。まだ本調子ではないのでベルのミスリルソードぐらいであれば用いても差し障りないだろう。
「ローブは脱いでくださいね」
「あ、そうだった」
三軸剣と同様三大希少魔鉱石を繊維状に加工して織り上げた特製のローブにこれでもかと付与した魔法の中には“受動索敵妨害”も含まれている。これは感知系の魔法を退ける反魔法の一種なので、数値化転写魔法もうっかり弾いてしまうかもしれない。
「そのローブ、とても神聖なものですよね」
リーナはローブをまじまじと見ながら目を輝かせている。
「神聖って大袈裟じゃないかな」
「いえ、私如き者ではぼやけてさっぱり視えませんが、ローブ自体がとても高貴で強靭で……まるで“竜”がローブの形をしているみたいです」
“竜”……この世界における圧倒的強者である最上位の種族だ。
この世に存在するあらゆる生命には大きく分けて二種の区分がある。魔素で構築された肉体に固有魔素である魂を閉じ込める一般的な種族と、魔素は魂である固有の一つとそれに連なる魔素形状のみを有し自身が孕む膨大な魔力と漂流する魔力を以って殻を成す種族だ。
両者とも単一の固有魔素である魂は壊れないものではあるが、前者は肉体の損傷や崩壊に伴い殻を失うことで一旦その生は終了し輪廻転生するのに対し、後者は魔力によって殻を成しているので殻の損傷や崩壊により一時的に活動を抑制することはできるが、通常は致命的なダメージを負わない。現実的ではないが再生が困難なレベルで魔力を散らすか魔力を枯渇させ核である魔素形状を分散させれば、或いは望んで輪廻の流れに乗らない限りは個としての死という概念を持たない。そのため後者を“死を克服した者”であるとして上位種と区分する。
上位種にも色々な種族があるが、その中でも特に強大な魔力を持つ種は強者たる証としてその種族名に“竜”の文字を冠する。といってもその姿態は様々あり、中には竜らしからぬ姿態を持つ者も居たりする。
確かに三大希少魔鉱石で織り上げた上にアレコレ魔法を付与してはいるが、たかだかローブを竜のように例えられるとは。
まぁミスリルもオリハルコンもヒヒイロカネも竜王の住処近くで竜王の強大な魔力に中てられて変質したものではあるので、竜という響きにより馴染み深いといえばそうではあるのだが。
「では、転写します」
ベルは先ほど私が行使した魔法様式を追憶し、私に向けて魔法を展開する。
吸着した私の魔力に反応し一瞬ミスリルソードが強く光を放ったがすぐに収まり、次いで刀身の上に先ほどと同様の文字の羅列が表示された。
―――――
◆アイリ・トライソル
半人妖第二累代・竜 性別:無 ランク:EX
Lv.5 / 118
HP 80000 / 80000 / 564000
MP 110800 / 112000 / 計測不能
職業:剣闘士、賢者、疎通者、竜司
属性:炎、水、氷、雷、地、実、光、闇、竜
竜王の加護-炎、水、氷、雷、地、実、光、闇
スキル
魔力感知 A / EX
魔力操作 A / EX
魔力識別 A / EX
思念伝達 D / EX
物理耐性 D / S
魔法耐性 D / S
武纏(U) C / EX
竜王の加護 使用不可 / EX
竜殻 使用不可 / EX
剣術 A+ / S
体術 A+ / S
仙術(U) D / S
基礎魔法 D / EX
属性魔法 D / EX
ステータス
無視力、無聴力、生殖能力欠如、調和不良
―――――
表示された羅列はベルのそれ同様奇妙な分数表示となっていた。
なるほど全盛期と比べ、さすがに一〇〇〇年起きぬけのブランクだと一一八分の五程度の力量しかないようだ。
「あ~やっぱりまだ寝起きだから全然本調子じゃないね~」
「とか言って、もう私より余裕で強いじゃないですか」
まぁ九〇〇年寝ていたベルも数十年程度の旅である程度調子を取り戻せたようだし、今後旅をする中でゆるくリハビリしていけばいいだろう。
と、呑気に話していたが、ステータスが見たいとせがんだ少女二人の方は羅列のまだ上の方を見たまま固まっていた。
「…………アイリ様、名を“トライソル”と仰るんですか?」
リーナが恐る恐る口を開く。
「うん 珍しい名前でしょ」
「……先ほどから寝起きがどうとか仰っていたのは」
「あぁ、私ついさっき転生したばっかりで……一〇〇〇年ぶりに」
言いかけたところで少女二人は腰を抜かした。
「……? どうしたの二人とも」
「……あの、間違いだったらそう仰っていただきたいのですが」
リーナは出会い頭の怯えようが可愛らしく思えるほど豪快に足を震わせながら、何か巨大な蛇にでも睨まれたような顔をしている。
「アイリ様は“魔王”ですか?」
「まお え? “魔王”?」
何だか感じの悪い響きの呼び名だ……そういえば一〇〇〇年前に葬った邪悪を率いていた魔将シグルドが魔王がどうとか言っていたような気がするが……
ともあれ、私は魔を束ねたこともどこぞの王を名乗ったこともない。
が、恐らく疑念やら恐怖やら色々な感情が入り混じってか、リーナは顔面蒼白で腰を抜かしたままとんでもないことを口にした。
「……“トライソル”というのは、この世を破滅に導く“魔王”の忌み名なんです」
急な出張のため次回分は明後日更新予定です。
次回は新話『魔王トライソル』です。




