1-番外3 アウローラ・ノヴァ1
“アウローラ・ノヴァ”
戦乱のこの世において知らぬ者は居ないと云われるあるパーティーがあった。
ならず者の村より発進したならず者のパーティーは、世界各地を練り歩きながらさらに癖のあるならず者を拾い上げては強大になっていった。
掃き溜めの村が名を掲げたところでと実態を知らぬ者は蚊帳の外から石を投げた。そしてそんな掃き溜めの孤児たちが高尚な使命を掲げ歩いたところで高が知れると人々は侮った。
だがそんな浅はかな偏見は、この戦乱の世を健やかに練り歩いては世界各地で武勇伝を残していく彼らの在り方を見た後には、彼らを評する要素としては何の価値も成さない。
一つ、人々の心を掴んだのは彼らの親しみやすさだ。
驕らず、媚びず、我が道を征く。
その中で縋る者がいれば救い、悩める者がいれば導き、和を乱す者がいれば叩き伏せる。
単純にして明快なその行動原理は暗雲立ち込め疑心暗鬼となった戦乱の世を生きる人々にとってはまさに恒星のごとく輝かしい光だった。
そしてもう一つ、彼らの名声を世に知らしめた最大の要因はその圧倒的な強さだ。
肉弾戦において敵う者は居ない、当代最高峰の戦士と名高い霞虎人族“白虎王”
暗躍する強大な裏稼業ギルドを取り纏める若き暗殺者の頭、影豹人族“紫雷の刃”
ありとあらゆる魔法を自由自在に使いこなし編み出す歩く魔道書 妖人族“魔道炉心”
炎の竜王直属の眷属であり灼熱を操る業火の申し子 龍人族“緋焔”
天空を駆けときに恵みをときに腐敗をもたらす摂理の守り手 雨竜“雨の女神”
魔・剣・武を三位一体で使いこなし、氷の竜王の加護を背負う 人族型有体精霊“氷結女帝”
そしてそれらの猛者を取り纏め、八柱竜王の加護をその身に授かりし忌み子 半妖人族“八陽の竜司”
各々が一騎当千の猛者であるアウローラ・ノヴァの戦闘隊形は利己的な単騎の絡み合いだ。盾役もいなければ回復役もいない。補助も連携も一切ない。だが突き詰めた各々の最善は自ずと戦闘における最善解へと収束するため、無駄が無ければいがみ合いもない。
そしてその強さで戦地ではもはや戦闘と呼ぶのもおこがましいほどの圧倒的で一方的な蹂躙を体現していた。
「アハト、もう少し湿度上げてください 肌が渇きます」
「あなたそれぐらい自分で何とかできるでしょお! この雨竜サマを小間使いか何かと思ってるの!?」
「肌なんて気にしたところでアンタみたいなおっかねー女に寄ってくる物好きいないよ」
「そもそもあなたが暑苦しいから空気が乾くんですよ! 自重してくださいガーネット!」
「霧なら私が出しましょうか? ちょうど試したい新魔法があるんですよ~」
「毒霧やめろエマ! 燃やすぞ!」
「ははは あはははは」
地の果て――星の南端にあるアウストラリウス大陸を目指す道中、野営のために毎夜校外に拵えては土に還している定型寄宿舎の居間で私たちは寛いでいた。
戦地での風評から殺伐としたイメージを抱かれることも少なくない私たちだが、蓋を開けてみれば戦を知らぬ民と何ら変わりはない。ただ楽しく明るい未来を求めているのにそれに恵まれなかった大勢の内、力だけには恵まれ、それを平和のために振るい動く一握りというだけだ。
「ただいま~」
「シオン、バイフー、おかえり~」
と、寛ぐ私たちの下に黒豹型の獣人と白虎型の獣人が大量の魚を箱型結界にしまって帰ってきた。
「今日はご馳走だぞ サウザントラウトが大漁だ ムニエルにするか?」
「やった~~!!!」
「いくつか燻製にして備蓄しようか」
「アタシ焼きがいい~」
私たちはもう直、敵の総統が待ち受ける最終決戦の地へ向かう。
私たちに希望を託してくれた人たちがこんな様子を見たら緊張感がないと怒るかもしれない。だが私たちが望むものも、そのために成したいこともずっと変わりはない。私たちはこんな緊張感の欠片もないような平和で朗らかな日和を望んでいるのだ。
蔑まれ忌み嫌われてきた私たちには馴染みのなかったこの束の間の幸せがこれからずっと続く。これはその予行演習だ。
「みんな、今日も一日頑張った! 明日も一日頑張るためにいっぱい食べよう!」
「お~~!」
一晩限りの即席寄宿舎に猛者たちの笑い声が明るく響いた。
※登場人物一覧を更新しました。




