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忌み子、のんびりパワフル世界救済(1000年ぶり2回目)  作者: 憩葱助
第一章:アルボスティアの少年少女
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1-番外2 忌み子1

 『おい そこの(わっぱ)よ』


 不意に何者かの声が脳に直接響いたのは、追っ手の襲撃から両親を殿(しんがり)に一人逃げ出し、深い森を当てもなく彷徨っているときのことだった。

 

 ……誰だろう?


 獣種や追っ手との接触を避けるために常に感知を展開しながら移動している。

 というのに、何の前触れもなく唐突に語りかけてきたこの何者か。

 どこからともなく現れた。いや、そもそも最初からそこに居た。そしてどこにでも居る。それが大きすぎて知覚できなかった。この声の主に感じたのはそんな印象だった。

 

 『そう無理して捉えようとしなくても良い ずっと観ておった お主が産まれてからずっと わしはお主の敵ではない』


 『……あなたは誰ですか』


 声の主がそうしたように、直接思念で語り返す。


 『ほう さすがに器用じゃの…… 何、わしはただの通りすがりの老いぼれよ』


 するとそれまで全貌を捉えられなかった声の主は人一人分ほどの小さな光の玉となってすぐ目前に収束した。

 

 『お主はどこへ向かう?』

 

 と、声の主は唐突に問いかける。

 が、問いの意味がよく分からない。

 私自身はどこへという目標はなく、ただただ遠くまでとだけ思いながらひたすらにこの森を迷い続けている。そんな死に損ないがどこへ向かっているかというのはこの人が気にするところなのだろうか。

 

 『どこへ行けばいいのか分からない』


 分からないというよりは、知らない。生まれてからずっと両親の庇護の下小さな世界で生きてきた私にとって外の世界は、今この歩いている一歩一歩さえがまるで未知の世界だった。

 どこに何があって何が居るのかも分からない。光もなければ音もない闇の中をただ魔力で探りながら適当に歩き続けているだけだ。


 『……お主はどこへ向かいたい?』


 『分からない』


 即答で返した私に何者かはしばし口を噤んだが、


 『……では、お主は世界をどのようにしたい?』


 『どのように……』

 

 次いで投げかけられた漠然すぎる問いに今度はこちらが口を噤んでしまう。


 『……嫌なことがない世界』


 『ほう…… お主にとって何が“嫌なこと”なんじゃ?』


 嫌なこと。

 私の世界は小さくて平和だった。

 目は視えにくく、耳は聴こえにくい。だが身の回りのあらゆるものに触れることができた。私たちは皆それを許されている。

 大きく漠然とした魔力の流れの中を漂うように生きている。それが当たり前でそれが摂理だ。

 そんな中で両親との穏やかな日々が私にとっての喜びだった。

 両親が笑えば朗らかな魔力が私を包む。両親が喜べばむず痒くも心地よい魔力が私を包む。そんな木漏れ日に照らされるようなささやかな幸せに柔らかく包まれたい。

 そしてそれを阻害するもの、奪おうとするものが無くなればいい。


 『……なるほどのう そういう風になったのか』


 声の主は私の思考を勝手に読み取ると、しばし考え込んだようだ。

 

 『……そうなると、果たしてお主の思う“幸せ”のみを享受し続けて、世界は回るのかの?』


 『それは分からない でも嫌なことばかり起こるよりはいいと思う』


 声の主は『確かにの』と一言言うと柔らかく笑い出した。


 『お主が求めるそれを人々が何と呼ぶか教えてやろう それはの……』


………


 ……何だか懐かしい夢を見たような気がする。


 あの暗闇を歩き続ける日々で出会った、あれは結局何者だったんだろう?

 何か大事なことを教えてくれた。私が成すべきこと、私が創りたい世界。


 迷うことはない。私が求めているたった一つがブレることはないから。


 忌むべき生まれを持った私自身が、私の生を意味あるものとする。

 忌み嫌われても私は与える。拒絶されても私は歩み寄る。そうしてあらゆる垣根を取り去る。


 この星に生きる星の数ほどある命の小さな一つとして、それでも私にしかできないことがある。


 そうだ、前世では邪悪を滅ぼした気になっただけで、そこまでは結局成し遂げられなかった。

 今世でこそ成し遂げる。私の手で。また仲間を集って。広く声を聞いて声を届ける。

 

 平和な世界を……

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