1-100(終) 今世の旅
◆前回のあらすじ
一行の奮闘によってゴーシュを無事倒すことができたが……
その日、西洋域の人族都市アルボスティアに激震が走った。
街中に突如として現れた、人々が恐れ忌み嫌う“黒色”と魔獣と魔人。そしてそれらが人族に牙を剥く間もなく凍りつき動かなくなってしまったこと。そんな事態を前にして役所、冒険者養成所、自由組合アルボスティア支部のトップランカーと責任者たちがこぞって姿を消したこと。
そんな中突如としてアルボスティア上空に現れた巨大な魔人を養成所の子供達がたった数人で倒してしまったこと。
幸い誰一人命を落とすことはなかったが、平和な日常にも突如として脅威は訪れる。そしてその有事に頼るべき存在である自由組合への失望。アルボスティアはまさしく阿鼻叫喚だった。
大都市ではないとはいえその人口はちょっとした集落の比ではない。私とベル、そして人族一行の四人と手分けして事態の収拾に走ったが、それでもあの手この手で何とか街の喧騒を鎮めるに至ったのは騒動から四日も後のことである。あっちへ行っては鎮撫、こっちへ行っては鎮撫、一帯落ち着けば諸々の説明……うっかりウルハとリーナの鎮撫の練度が異様に高まるという棚ぼたな収穫もあった。
そして五日目の今日。
騒動を受けてギルド本部からアルボスティアに遣わされたのは、今度は紛れもなく人族の冒険者だった。
また魔人でも寄越されたらいつまでも事を繰り返す羽目になる上、こちらの存在と手の内を奴らに気取らせてしまうかもしれない。内心警戒していたが、奴らがこの一帯に忍ばせていた魔物を全て掃討してしまったのが功を奏したか、魔人は再び現れることもなく、アルボスティアを中心に展開した遠距離探知や索敵探知でも邪悪な反応は見つからなかった。……余談だが、招集任務でお供をさせられた数人は当然ながら魔人だったため、分身がとっくに始末をつけた。
拠点を丸々一つ潰されたためか、しばらくは様子を見るために一旦手を引いたのかもしれない。
ゴーシュの……いや、ゴーシュの今際に乗り移った何者かの言が気がかりではあるが、邪悪とその手を引く何者かが人族を使って何をしようとしているのか、その片鱗を見て取れた。
しかしまだ敵の何もかもを知れたわけではない。奴らとしても私とベルの動向全てを関知してはいないだろうが、乗り移った何者かは私の感知をすり抜けて私に語りかけた。寝起きのブランクと油断もあるが、それが参考にならない程度には強大な力を持つ何者かが敵の側にはいる。そうと知れた以上今後はあまり気を抜いてはいられない。
何よりこうなってしまった以上、この街では未然に防げた魔物による災害が今後別の都市でいつ引き起こされるか分からない。
そうならないように、出来る限りそれを食い止めるためにも、いつまでもここにのんびりと留まっては居られない。
私たちは今日にでもアルボスティアを発つため、荷造りをしていた。
今はベルとは別行動で、エドとリーナに付き添われ商店で必要な道具や簡単な日用品などを買い歩いていた。
「アイリ様、本当に行っちゃうんですね……」
リーナは名残惜しそうに呟く。このセリフも今日になってからもう何度目だろうか……
「君たちもう魔人も倒せるんだから、私たちがいなくてもどうってことないでしょ」
「でも……」
リーナは今回の一件では特に目覚しい成長を見せた。光の魔法もだが、魔人を前にしての肝の据わった立ち振る舞いは、見た目はまだ幼い少女ではあるが“聖女”たるにふさわしい風格があった。きっと彼女はあと何年もすれば大物に育つだろう。
「時間が許せば、もっと色々教わりたかった」
エドは相変わらず表情が乏しくはあるがもの寂しげにそう漏らす。
前衛であるカイルとエドも、主にベルのシゴキによって出会った当初とは比べようもなく強くなっている。当初でさえ同年代の冒険者の中では強い方だったらしいので、この一件で実戦経験を積んだことで頭一つ抜けただろう。
そして何より、彼らが“黒色”と呼び恐れる魔物を倒す術を知った。
あとはその力が正しく使われるのを願うばかりだ。
「色々って言っても、もう粗方大事な部分は教えたからなぁ」
彼らが知らなかったこと、恐らく成長を阻害するために意図して教えられなかったこと。
その基本的な部分こそが肝要であり、あらゆる物事を包括するルーツでもある。
それを知って世界の見え方が変わったのなら、今後色んなことを学ぶ中でより理解を深め、自ずと新しい気付きを得ることができるだろう。
それはそうと、人族一行の四人……剣士のカイル、戦士のエド、魔導師のウルハ、聖女のリーナはそれぞれ今回の魔物討伐の功績として、異例の好待遇でギルド所属のDランク正規冒険者として登録されることとなった。
新人冒険者の駆け出し期間は色々なところをとにかく飛び回って過酷だブラックだと言っていたが、四人はしばらくアルボスティア駐在要員として瓦解したアルボスティア首脳部の建て直し役の一端を担うそうだ。
跳ねっ返りな少年少女一行が一気に街の英雄である。子を持ったことはないので正確かはわからないが、我が子のことのように誇らしい気分だ。
「アイリ様はこれからどこに行くんですか?」
「……そうだなぁ」
ひとまずの目標地点は“大洋の墓標”だが、実を言うとこれから先具体的にどこに向かうか、どこから海の中心を目指すか、その行く宛てはさっぱり決めかねている。
そもそも私はほんの少し前に目覚めたばかりで、目覚めるにしても今世ではベルと一緒にのんびりまったりと美味しいものを食べ歩いたり美しい景色を探して旅をしたりしてみたいくらいのことしか考えていなかったのだ。
思いがけず一行と出会い、世界の現状の一端を知り、今世でも私がすべきことがあると知った。……厳密にはやり残しというか、自分自身の尻拭いとかそういう格好になるのかもしれないが。
ベルも目覚めてから世界を旅する中で魔物が犇くエリアをいくつか観測しているというので、恐らく数日前までのこの街と同じ状況にあるところが世界各地にいくつもあるのだろう。
一先ずは魔物の掃討だ。そして魔物を手を引く何者かを見つけ、叩く。
……と、それも大事だがそういえば他にやっておきたいこともあった。昔の仲間の墓参りとか、転生の際力を貸してくれた竜王たちにお礼参りとか……
「まぁでも当面は気ままにぶらつくかなぁ……」
そうする他ない。何せ私たちは今現代の情報にとにかく疎い。敵の戦力も分からない今、行く宛てを選ぶような段階にすらない。
「……何だかそれもアイリ様らしいですね」
ぼんやりと返した私に、リーナは可愛らしく笑ってみせた。
………
「わざわざ見送ってくれなくても良かったのに」
買い物を済ませた私はベルと合流し、新たな旅路につくべくアルボスティアの出口へとやってきていた。
さきほどまで一緒にいたエドとリーナ、そしてベルと行動を共にしていたカイルとウルハも集い、人族一行四人組がわざわざ見送りにきてくれている。
一行の中に仕込んでいた私の魔力は今のままでは一行の身には余る加護を施すことになるので一旦は取り除いたが、頑張った四人への餞別として先のものより簡易的ではあるが有事に彼らの身を守るだけの加護を再度施しておいた。……が、一行はこれから貪欲に力をつけるうち、そう遠くなくそれも不要になるだろう。
「お二方にはお世話になりました そして命も救っていただいて……何とお礼を言っていいのかわかりません」
リーナは深々と頭を下げる。
「そんな大したことじゃないって」
実際にやったことは大したことではないし、恩を着せようなどという思いも微塵もない。
ただ通り縋った道の途中で彼らと出会い、気の向くままの行いをしたまでだ。自己満足であり、出すぎた真似だ。結局彼らの捉え方次第なのだが……かと言ってそこまで過大に捉えられるとこちらも調子が狂ってしまう。
と思っていると、跳ねっ返り気質のカイルもリーナに倣い深々と頭を下げた。
「散々無礼な口を利いて悪かった」
「ちょっと! 態度でかい! 謝る気あるのそれ!?」
傍で見ていたウルハがツッコミを入れる。
この四人の在り方はとても眩しく微笑ましい。これからの四人の未来が今のように明るく平和なものになってほしい。
「ふふ……いや、今後この街を守っていく英雄君だから、そのくらいビシッとしててくれた方が頼もしいけどね」
言うとカイルはバツが悪そうに一瞬目を逸らすが、すぐにこちらを見据える。
「強くなる」
「うん」
「もっと色んなことを知って、色んなものを見て、生き方はそれから決める」
「それがいいよ」
カイルの表情には、もはや一片の迷いもない。
「達者でな」
「そっちこそ 鍛錬怠るなよ~?」
軽口を叩きながら歩いていく私達の背に向けて一行が笑いながら手を振る中、カイルも笑いながら声には出さず「うるせー」とだけ口を動かした。
見守り応援してくれる方がいてくれることが励みになりました。
続く第二章からまた完走に向けて引き続き頑張っていきます。
応援よろしくお願いします。
おまけ数話更新の後、新章第一話はある程度書き溜めたら更新再開します。




