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忌み子、のんびりパワフル世界救済(1000年ぶり2回目)  作者: 憩葱助
第一章:アルボスティアの少年少女
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1-99 深淵より覗く者

◆前回のあらすじ


エドとウルハとリーナは協力してゴーシュを追い詰めるが、アイリは結界に閉じ込められたカイルに接触し……

 「おぉおおおおお!!!」


 ゴーシュは依然執拗にベルへの攻撃を続けているが、ベルはそれをいなしつつ街に逸れた攻撃は魔法で全て防ぎきる。一方リーナが時折補助魔法や閃光による視界の遮断でサポートしつつエドとウルハが的確にゴーシュにダメージを与え、その黒い魔力で形作られた凶悪な躯体に着実にダメージを蓄積していった。 

 

 (何故だ……!? 何故強大な“竜”の力を得たはずの俺がこんなゴミ共にこうもしてやられている!?)


 ゴーシュには三つの誤算があった。

 

 計画決行を目前に控えたこの時期に得体の知れない強者がアルボスティアに紛れ込んでいたこと。

 しかもそれが実は全人族共通の敵とする“魔王”とその従者であろうとは、それがアルボスティアのような王家や貴族すらもたない小規模な街にやってくるなどとは思ってもいなかったことだ。

 目の前のこの女がその直属の従者ともあればゴーシュは早々に逃げに転じていただろう。逃げたところで逃げ切れはしないが、黒い魔力を大量に取り込んだことで敵の底が知れないことを冷静に分析できるほどの理性が働かなかったことがゴーシュにとっての不幸だった。

 

 そして所詮は子どもと捨て置いていた元教え子たちが自身の想像を上回る成長を遂げていたこと。

 否、誰が想像できようか。遠征で一行が街を空けていたのは一週間にも満たない、ほんの数日のことだ。その短期間でこれほどまでに力をつけることなど考える由もなかった。

 しかしそれは仕方のない話でもあった。今の四人の子供達はアイリの加護の上ではあるが、それぞれ単体でも通常状態のゴーシュを遥かに上回る力を持っている。自身の及ばない領域の力を手にした一行を前にした時点でゴーシュは既に追い詰められていたのだ。

 

 そして最も重大な誤算は、ゴーシュが“竜の力を手にした”と()()()()()()()ことだ。

 アルボスティアは小規模な街ではあったが、それでも潜ませていた魔物と魔族、それにアルボスティア市民全ての命を以ってすれば、竜の中では下位に位置づけられるが竜の名を冠するのに相応しい力を得ることも叶ったかもしれない。

 だがその目論見はアイリらの機転によって阻まれ、ゴーシュが現に取り込むことができた力はせいぜいが野猿将軍(ジェネラル・コング)程度の体躯を具現するのがやっとのものだ。

 それを元の自身の力から飛躍したからといって竜の力を得たと勘違いし慢心していたからこそ、今ゴーシュはこんなにも痛手を負う結果になっていた。


 「ご……あああぁぁあああああああああああ!!!」

 

 だがタダではしてやられない。

 着実にダメージが蓄積していくのを感じたゴーシュは一旦ベルへの攻撃を止め、すぐ近くから今にもこちらに向かって跳ぼうとしていたエドへ向き直り、思いっきり拳を振るう。


 「エド!! ……“氷壁(アイシクル・ウォール)”」


 それに気付いたウルハがすぐにエドの前方に回り氷の壁を発現するも、ゴーシュの拳はそれを易々砕き割るとウルハごとエドを地面に叩き付けた。


 「ふはははは!!! 舐めるなガキ共!!」


 その衝撃すらアイリの加護によって完全に緩和されているなどと知る由もなくゴーシュはしたり顔で嗤う。

 と、そんな様子を事も無げに眺めているベルの方へ向き直ると、ゴーシュは再びベルに殴りかかろうとするが

 

 「……この期に及んで“ガキ共”と舐めているからあなたは負けるんですよ」


 ベルの方は振りかぶった拳を気にも留めず剣を収めると、ゴーシュの斜め後ろを指差す。

 

 その言葉を気に留めることなく目の前の女に殴りかかることもできた。

 だがゴーシュは突如背後から浴びせられた濃密な殺気に、思わず拳を止めて後ろを振り向いた。


 「おぉおおおおおおおおおお!!!」


 そこに居たのは炎を纏い赤く変色した剣を振りかぶったカイルだった。


 (カイルだと……何故ここに ……いや、それより)


 ゴーシュは自身が舐めていたカイルに恐怖を感じた事実に衝撃を受け、一瞬動きを止めた。

 そしてその一瞬で勝負はついた。

 

 カイルは剣に纏わせた炎をより強大に濃密に剣に押し込め、莫大な熱量を持った刀身は白く変色していた。

 

 (あれは不味い……!)

 

 ゴーシュは確信した。火炎剣(フランベルジュ)如き扱えない半端者と侮っていたが、目の前のこの振り下ろされるモノはまともに受ければひとたまりもない。今これを受けたら負ける。

 ゴーシュはカイルを止めるべく手を伸ばすが、先の一瞬でカイルの剣の方が速くゴーシュに到達し


 シュッ


 カイルの一閃は迷いなく綺麗な弧を描き、超高温の炎の刃は空そのものを焼き斬らんばかりの熱量でゴーシュの身体を縦一文字に焼き斬った。

 

 見ていた誰もがそれが決定打であったと確信した。

 だが


 「オォオオおおあああああああああ!!!」


 縦に裂けたゴーシュの身体から黒い魔力が無作為に溢れ出し、形を成さないままにアルボスティアの街中に降り注いでいった。


………


 「……で、こうなるから 最後の仕上げだよ」

 

 しかしそんな黒い魔力の奔流を、さらに上空からアイリと、アイリに伴われ浮遊するリーナが見下ろしていた。

 

 魔力体となった魔人がその身体を維持することが叶わなくなったとき、矮小な魔力しか持たない魔物とは違い、その黒い魔力は浄化されずに溢れ出し触れた人々の命を奪う死の雨となる。

 それを浄化するのがリーナの仕事だ。


 「今回は私がお手本を見せるから、リーナは私に意識と感覚を同調させて、祓う感覚をしっかり観察してね」


 「はい……!」


 上空からアルボスティア全域を捕捉する範囲に照準を定め魔法陣を展開する。


 「空から降り注ぐ光の魔力を魔法陣に凝縮して押し込める 心は真っ直ぐに 強く気高く」


 リーナはそうして魔法陣に押し込められていく光を真っ直ぐに見つめながらコクリと頷く。


 「“聖裁(ジャッジメント)”」 


 アイリが正面に展開した魔法陣が金色に輝くと、アルボスティア全体を照らす巨大な光線を発現し、無情な光がアルボスティアを飲み込んだ。

 神々しく澄んだ光がアルボスティアの街に降り注ぐと、街を混乱に陥れていた魔族たちは光の粒子へと浄化され祓われていった。


………


 ゴーシュはその邪悪な魔力を取り込んだ魂ごと膨大な光の奔流に祓われ、アルボスティアの中心部に元の人族の姿となって横たわっていた。

 

 「次は争いのない世に生まれてくるといいね……」


 リーナをエドたちの下へ飛ばし、地面に降りたアイリが事切れたゴーシュに語りかけたそのとき


 『……相変わらず呑気で能天気で……惚けた顔だね アイリ・トライソル』


 突如それまでのゴーシュとは全く別人の、まるで少女を思わせる幼い声がゴーシュの口から漏れ聞こえた。

 この街で名乗った覚えのない名を呼んだ何者かを問いただすべく、呼び終わるが早いか横たわるゴーシュの()()に馬乗りになり、その眼前に掌をかざす。


 何者かがゴーシュの亡骸を介して接触してきている。……というのに、この私がその何者かを気取ることすらできなかった。


 「……今日が初めましてだと思うんだけど」

 

 『初めましてとはご挨拶だね 永いこと待ってあげたっていうのに』


 一〇〇〇年前に前世で会った何者か……


 「……シグルド?」


 一〇〇〇年前の大戦で魔族側の総統として動いていた魔人シグルド。討ち漏らしたつもりはなかったが、まだ本調子ではないとはいえ、私の感知網を掻い潜って接触してくるほどの力を持つ魔族ともあればそれ以外に心当たりがない。


 『シグルド…………あー、あの間抜けかぁ』

 

 だが何者かはそんな推測をあっけなく否定してみせた。


 『まさかあんな咬ませ犬と間違えられるとは心外だけど……そうか そうだね まぁいいよ』


 ゴーシュの肉体にはもはや生命は宿っていない。だがこの何者かはそんなゴーシュの亡骸を突き動かすように目を見開き、瞳孔の開ききった瞳でこちらを真っ直ぐ見据える。


 『思いがけずハンデを与えることになったけど……君が永く寝ていてくれたおかげでこちらもそれなりに駒を揃えられたから、まぁいいとしよう』


 「誰だ 答えろ」


 お茶らけた様子で語りだす何者かはかざした掌に込めた魔力にも動じることなくただ真っ直ぐにこちらを見据えている。

 

 『アイリ・トライソル 今この瞳に何が映っている?』


 だが問いには答えることなく、何者かはてんで的外れなことを口にする。


 「……? 何を」

 

 見開かれたゴーシュの瞳には反射する私の姿が映るだけだ。


 『これはゲームだよ 君が望む平和を実現したければ私たちを止めてみろ 私たちとこの世界(アストラ)を奪い合おう』


 何者かは事切れたゴーシュの顔のままニタリと意地悪く微笑むと


 『サンクトゥス諸島……大洋の墓標で待っているよ』

 

 最後にそう言って今度こそ事切れてしまった。


 「……」

 

 事態を甘く見ていたわけではない。だが当初の想定よりも事態は既に重く、一刻を争う段階にきているのかもしれない。

 大洋の墓標……サンクトゥス諸島と言えば“竜王レヴィ”の管理する領域だったはずだ。そこが敵の巣窟となっているのであれば……考えたくはないがレヴィが敵の側に立っているとしても、或いは何者かがレヴィとその軍勢からあの海域を奪い取ったのだとしても、それほどに強大な戦力が敵の側に居るということになる。


 (……これは骨が折れるなぁ。)

 

 アイリはアルボスティアの中心でゴーシュの亡骸を見下ろしながらため息を吐いた。

次回分は明日更新予定です。


※次回分で第一章本編完結予定です。

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