1-98 アルボスティアの戦士
◆前回のあらすじ
ベルはゴーシュを圧倒する力で折衝するが、その裏で……
「皆で協力してゴーシュを倒してもらう」
アイリの提案に三人は身が縮むような思いだった。
「……私たちにできますかね」
ウルハはその不安を正直に口にするが
「できなきゃ、アルボスティアが滅ぶだけだよ」
アイリが突きつけた現実に自身のおかれた状況、自身が成すべき仕事の重さを再認識する。
「大丈夫、今回は私たちも力を貸すから」
………
ゴーシュが放った無数の黒炎弾がアルボスティアの街へと降り注ぐが
「“冷遮幕”」
即座にベルが展開した冷気の幕がアルボスティアの街を覆い、黒炎弾を全て中和していった。
「あの程度の魔法で足止めできたとでも?」
「この女ぁあああああ!!!」
………
「そうそう、今みたいにベルが注意を引いている隙に着実にダメージを与える でも今の雷槍撃じゃまだ有効打にはならないね ……習ったとは思うけど、一個の強敵を相手取る時はパーティーの各々が役割を分担するのがセオリーだね」
上空で折衝するベルがゴーシュの放った黒炎散弾を冷遮幕で一気に無力化する様子を見上げながら
「通常は盾役が相手のターゲットを取りながら味方への攻撃を防ぐ 盾役が居ない時には誰かがその役割を追うか、ベルがやっているように近接戦闘で折衝する カイルは盾持ちじゃないから、今はエドが最適かな」
「……分かった」
「纏殻で防御に集中して 無理に自分で決定打を入れようと焦らず、味方が動きやすいように敵を自分のペースで誘導する ……まぁ今はベルがそれをやってるから、よく観察するようにね」
エドは纏殻の才能がある。まだ若い分身体の方は仕上がってはいないが、現状で使える纏殻でも人族の大人や人族よりも力の強い種族との差を埋められるだけの力は発揮できるのだから、今後どんどん固く逞しく伸びていくだろう。そこに魔法属性の添加などが加われば盾役としてだけでなく、敵へ的確にダメージを与える両刀盾役として有能な戦士になっていく。
「一人で抑えきれないときには誰かがカバーする……これも今ベルがやったような感じでね まだ無理だろうけど、いずれそれができるように ウルハは飛行もできるようになったから、臨機応変に動きながら攻守を使い分けてカバーするように そして機動力を活かして、隙在らば決定打を狙う」
「分かりました……!」
ウルハも飲み込みが早く、何より好奇心が旺盛だ。この短期間でも使える魔法の幅は大きく広がったが、今後は指南書も併せて学んでいけば間違いなく強力な魔導師として開花するはずだ。
後は実戦の中で使い方、使い分け、タイミングを見極めて実戦レベルに研ぎ澄ましながら新しい学びを得ていくだけだ。
「リーナは他の皆ほど機動力がないから、自分の身を守りながら他の皆のサポートを重視すること ……それから」
………
至近から放った黒炎弾はおろか街全体に放った魔法も容易に凌がれたことに焦りを超えて恐怖すら抱いていた。
(この女……! 何としても……何としてもこの場で殺す!!!)
出し惜しんでいい相手ではない。兎にも角にもこの場を切り抜ける。
と、次の一手を考えようというゴーシュの視界に飛び回る黒い点のようなものが映った。
「“散氷冷弾”」
そして黒い点から突如放たれた氷の弾丸がゴーシュの身体にバチバチと激突する。
それ自体は気に留めるほどの威力ではない。だがこの土壇場で意識を逸らされたことに対しダメージ以上に怒りがゴーシュの心を塗りつぶしていく。
「ウルハ……貴様ぁあ!!」
怒り狂ったゴーシュは黒炎弾を飛び回るウルハに放つと、ウルハはそれを避けきれずに直撃してしまった。
これで邪魔はいない。今は何よりもこの女だ……!
と、そう向き直ったゴーシュの後頭部に
「“大雷槍撃”!!」
バギギギギギ
「ぐぁああああ!!」
特大の雷槍撃が炸裂した。
身体の深部に容赦なく炸裂する雷撃がゴーシュの意識を停滞させる。
ゴーシュが撃墜したと思っていたのは、ウルハが戦線に繰り出す直前に展開した認知妨害魔法で作り出したダミーだった。
期せずして二度も偽者のウルハに欺かれる格好になったが、もはや冷静ではないゴーシュはその事に気付く由もない。
と、抜群に効かされた一撃に息を整えるゴーシュの元へもう一つ小さな影が飛び立つ。
魔力操作と纏殻、そしてリーナによる光の補助魔法によって身体強化と黒い魔力への抵抗を施したエドが建物の屋根を伝って跳躍し、ゴーシュの背後まで迫っていた。
ゴーシュが冷静であれば感知によって背後に迫るエドに気付くのは他愛もないことだっただろうが、ベルとの戦闘での焦りとウルハに食らわされた一撃の反動で近付くエドにまで意識を割く余裕がない。
「おぉおおおおおおお!!!」
ドゴォ
と、そんなゴーシュの背にエドは光の魔力を纏った渾身の拳を食らわせる。
「ぐぉおお!!?」
ゴーシュはすぐさま後ろ向きに巨木のような腕を薙いで応戦するが、闇雲に振るわれた一撃をエドは容易く受け流し、そのまま地面に降り立った。
(クソが……! この女の相手で手一杯だというのに……邪魔なハエ共め……!)
ゴーシュはふつふつと怒りを滾らせているが、目の前のベルに意識を集中してばかりで肝心なことを放念していた。
ゴーシュが最も警戒し意識を割いているベルこそ、ゴーシュに何らダメージを与えていないのだ。ただ折衝し、効かない攻撃を派手に見せて相手を煽っているだけだ。
本当に真っ先に対処すべきは自身に有効打を当ててきている子どもたちであるとは気付かず、ゴーシュはされるがままに一行の術中に嵌まっている。
こっちはしばらくこのままでいいかな……あとは
私はそんな前線の四人を傍目にアルボスティアの北東の方へと飛んだ。
………
「やぁ ごめんね、置いてけぼりにして」
「おい! 早くこの結界何とかしろ!!」
ベルの結界に閉じ込められたカイルは今にも爆発しそうな勢いで激高していた。
「あれ、見える? 今皆がゴーシュと戦ってる」
指した方角の空では、魔人化したゴーシュと折衝するベル、そして着実にダメージを与えていくエドとウルハの姿が小さく見える。
「あれがゴーシュ教官……!? ウルハ達が戦ってるのか! 早く……俺も……」
「カイル」
だが、まだ逸るカイルの望み通りに向かわせるワケにはいかない。
「戦う動機は人それぞれだから、君が生まれ育った村や養成所の仲間の無念を晴らすために力を振るうのは勝手にすればいい だけど君は自分の怒りを飼い殺せていない 怒りのままに奮う力は“暴力”だ それじゃ君が忌み嫌う“魔物”とやってることは一緒だよ ……あのゴーシュと同じ」
「…………」
カイルは遠く上空で人ならざる魔物へと変貌した元教官が暴威を振るう姿を険しい顔で見つめている。
「力に溺れたら、怒りに呑まれたらカイルもいずれああなる 君にああはなってほしくない だから約束して欲しい」
カイルは未だ心に炎を燃え盛らせてこそいるが、ゴーシュの姿を見て思うところがあったのかその熱さを失わないまま次第に小さく青く波立つ心を研ぎ澄ましていった。
「正義を掲げて戦うなら信念を持って 君がその剣先を何のために、誰に向けるのか よく見定めて」
次回分は明日更新予定です。




