1-97 VS邪猿将ゴーシュ
◆前回のあらすじ
追い詰められたゴーシュが転成召喚で変容し……
魔法陣から顔を出した漆黒の体躯。
大鬼族よりさらに二回りほど巨大なその身体はアルボスティアでも比較的高層な建物をもゆうに超えるほどの人型に、歪な一角と筋肉質な太い腕、背にはコウモリを思わす翼を持つ野猿将軍に似た形状の魔人だった。
「ガキどもが! 許さんぞおぉおおお!」
建物を揺らすほどの咆哮に、一度は安堵に包まれていたアルボスティアの人々が再び悲鳴を上げる。
「なるほどねぇ~……」
「アイリ様! あれ大丈夫なんですか!?」
「ん? あぁ、大丈夫大丈夫 大したことないからアレぐらい あ、ほら」
と、悠々と浮遊していたゴーシュ目掛けて小さな人型が宙を駆けていくと
「やっとマシなのが出てきたじゃないですか」
言いながらベルは純ミスリル製の魔法剣ルミナスでゴーシュに斬りかかる。
パァン
その美しく弧を描いた斬撃は自身の何倍も巨大なゴーシュの身体を斜めに一刀両断するが
「おぉおおおおお!!!」
両断された身体はすぐに黒い魔力で元通りに修復され、何事もなかったかのようにその大きな拳でベルに容赦なく殴りかかる。
……が
ドゴォン!!!
ベルの方も自身の身体よりも大きな拳に拳で応え、拮抗し空に逸れた衝撃がビリビリとアルボスティア中の建物を揺らす。
「覚醒してこの程度ですか? これでは消費されていった命も浮かばれませんね」
「貴様ぁああああああああああ!!!」
ゴーシュはその巨体からは想像もつかないような速度でひたすらにベルに殴りかかるが、ベルの方は何ら焦ることなくその全てを流し、受け、ときに打ち返し、斬り捨てて拳撃を凌ぎきっている。
「ベル様……すごい……」
「ベル様何か笑ってませんか……?」
時折ゴーシュの巨木のような腕の隙間から覗くベルの表情には半ば狂喜を感じさせる笑みが浮かんでいた。
ベルも大概戦闘狂だからなぁ……風船割ってばっかりで鬱憤溜まってたんだろうなぁ。
「ウルハ! リーナ!」
と、そんな様を見上げている二人を呼びながらエドが駆け寄ってくる。
「エド!」
「無事か……!」
二人の安息を確認するとエドは胸を撫で下ろす。
「エドも頑張ったね 観てたよ」
そういうとエドは照れくさそうに、同時に何となくバツが悪そうな顔をする。
「いや、俺の力だけじゃどうにもならなかった……俺はまだまだだ」
「エド……カイルは?」
と、リーナはそこに居ないカイルの方が気がかりのようだ。
「カイルは……」
「無事だよ 北東のすみっこの方で結界に閉じ込められてるけど」
何と説明したものかと言い淀んだエドに割り込んで現況を説明すると、少女二人の方は何とも怪訝な顔をした。
「まぁ……大丈夫なものは大丈夫だから、安心して」
「アイリ様がそう言うなら……」
まぁカイルのことは付き合いが遥かに長い一行の方がよく分かっているだろう。ぼんやりとだろうがカイルが身動きを取れない状況にいる事情を理解しているのか、一行はそれ以上気にかけることはなかった。
「さ、じゃあこれから冒険者として歩む皆に試練を課そうかな」
「試練、ですか?」
この危機を前に何を……と訝しむエドとウルハの後ろでリーナがまさか……と眉を顰めている。
「皆で協力してゴーシュを倒してもらう」
………
ゴーシュは魔人化して人族を超えた力を得たときを凌駕する高揚感の中に居た。
飛躍したと思っていた自身の力が可愛く思えるほどに膨れ上がった竜の力。そして怨嗟と怒りが後押しするこの理性のタガが外れたような感覚。
力とはこういうものか。
力を持つ者が暴君たるのはこういうことか。
そして自分がその暴君たる段に登った。
だがそんな高揚感はほどなくして冷え切ってしまう。
(なんだこの女!? こちらの攻撃が全く通用しない……!!)
突如目の前に現れたこの女。アルボスティアに突然現れた新参冒険者の片方。招集任務で外に追いやったのを確認したはずが、何故今ここに居る?
いや、そんなことは今はどうでもいい。この女はなぜこうも強い!?
圧倒的な力を手にしたはずの身体から繰り出す攻撃は全て流れ作業のように完璧にいなされ、或いはこれだけ体格差がありながら的確な位置に的確な威力で打ち返され、その上でこの身体を斬ってさえくる。現状は互角で渡り合っているような格好だが、向こうの方が数段ならず余裕がある。
この魔力が形作る身体を得た今はただの斬撃ではダメージとならない。だが恐ろしいのはそのただの斬撃の威力だ。濃密な魔力でできた硬質な身体を易々と切り裂いてくるその剣裁き。今まで見てきた剣士の中でこれほどの使い手は居ない。
(これがCランクだと……!? 自由組合の奴らは何をしていたんだ……!!)
しかも
「ふふ ふふふふ……」
この女、この極限の戦いの中で息を切らさないどころかまるで戯れているかのように笑っていやがる。
正気じゃない。人の形こそしているが、こいつは異常だ。何としても葬っておかねば……
と、目の前のベルに気を取られているゴーシュに一筋の矢が迫る。
バギィ!!!
「ぐぉお!!」
鋭い矢となった雷撃がすんでのところで挟み込んだ右腕に刺さると、腕全体に炸裂するように雷撃が走る。
つい先ほど食らったばかりの術。使い手は……探すまでもない。すぐ真下にいる元教え子であった魔導師ウルハだ。
そしてその周りにはエドとリーナが居る。
「余所見している暇があるんですか?」
と、そんな一瞬の意識の逸れに女の斬撃が容赦なく炸裂する。
パパパパパ
「おぉおおおお!!?」
ほんの一瞬で身体を細切れにされん勢いで凄まじい斬撃を浴びせられるが、切り裂かれた身体はすぐに修復を始める。
「舐めるな女ぁ!!! “大黒炎弾”!」
ゴーシュの体躯ほどもある黒い炎弾で至近から女を焼き払うと、
「“黒炎散弾”!!!」
次は憎き元教え子を見据え、子どもたちと街全体に向けて無差別に炎を放った。
次回分は週明け月曜日0時頃更新予定です。




