1-96 邪竜転成
◆前回のあらすじ
自身の攻撃がリーナに全く通用せず驚愕するゴーシュにウルハが強烈な一撃をおみまいし……
「“雷槍撃”!!」
リーナはゴーシュに杖をかざすと、鋭利に研ぎ澄まされた雷の槍が高速でゴーシュに迫る。
これまで平静を保っていたゴーシュだが、さすがに予想だにしない出来事の連続で足が止まっていたところをその高速さが持ち味のウルハ渾身の雷槍撃は容赦なく捉え
バギィ!!!!
凄まじい音を立てて炸裂した。
「がぁああああああああ」
さらに炸裂した槍はその創部を中心にゴーシュの全身に放射状に雷撃を分散させ、全身をくまなく感電させていく。
……自分で教えておいてなんだが、こんな少女になかなかえげつない魔法を仕込んでしまったなぁ。
予想だにしなかった強烈な一撃を食らい、ゴーシュはその場に膝を着く。
「ご…… ぎ ざま……!」
つい数日前まで赤子に毛が生えたような粗い魔法しか使えなかった少女が、飛行魔法どころかこのような強力な攻撃魔法を、しかも無詠唱で展開速度も申し分ないレベルで行使したことにゴーシュの思考はかき乱されていた。
(一体何がどうなっている…… 何だこいつらは……! 何が起こったんだ!)
だがあれだけの雷撃を食らっておきながらまだ意識がある。腐っても魔人ということか。
さて、ゴーシュはこれでろくに動けないだろうし、こっちはこっちで片をつけるとしよう。
「“聖癒治”」
聖堂の地下、見渡す限りを埋め尽くすほどの魔族と化した子供たちに行き渡るように聖なる癒しを振り掛ける。
子供たちの心を覆っていた邪悪な魔力を中和し、ゴーシュの攻撃によって焼け焦げた子供たちの身体を修復する。
「アイリ様……」
そして力なくただその場に横たわっていくかつての同志の姿をウルハとリーナはやるせない表情で眺めている。
「蘇生はできないんですか?」
切な声色で搾り出したウルハの問いに、私はただ無言で首を横に振った。
蘇生には時限がある。遡及蘇生を使用する際の魂を捕捉できる時限と、回帰蘇生を使用する際の魂の活きの時限だ。
魔物の邪悪な魔力に巣食われた魂は肉体を巡る魔力による正常な生命活動から隔離されてしまう。その隔絶状態が一定期間続くと元の肉体と魂との間に結ばれていた縁が薄れてしまい、その縁を前提として行使する回帰による蘇生は構造上不可能となる。
魂がそこにある限りは魂を肉体に憑依させることで擬似的に生前と同様の生命体として機能させる術はあるが、それは本来の命の理から外れる術であって、元通り人族として生き返るわけではない。
つまり口惜しくはあるが、今この場で彼らを蘇らせる術はない。
「聡い人族らしくない……こんな蛮行 でももう終わりだよ」
未だ内側から焼かれた身体から煙を上げながら跪くゴーシュに告げる。
「ここだけじゃない 役場も自由組合も養成所も、全部片付けてきた 貴方たちの計画は失敗だよ」
(役場も……だと!?)
しかし、アイリがゴーシュの心を折ろうと告げた言葉は期せずしてゴーシュの思考に光明を射すこととなった。
(役場が既に陥落したということは、ナビラも既に……)
アルボスティアの街議長ナビラ、冴えない中年で底意地の悪い奴だが魔法の才だけはあった。アルボスティアの計画の要であったナビラが既に落とされた……それなら……!
「おぉおおおおおおおおお!!!!」
ボゴォ
思い立つや否や、ゴーシュはありったけの魔力を込めた火炎弾ですぐ真下の地面を焼き払った。
「なっ……!?」
ウルハとリーナは一瞬たじろぐも、それが自身に向けて放たれた攻撃でないと理解すると構えをとりなおす。が、
「……逃げたかぁ」
既にその場にゴーシュの姿はなかった。
「黒幕が誰か聞きだしておきたかったんだけどなぁ……」
と、ゴーシュがその場から姿を消したことで緊張の糸が切れたのか、リーナがその場にペタリと座り込んだ。
「……怖かったよね ごめんね一人にして」
そんなリーナをウルハが後ろから抱きしめる。
「ううん……」
それだけ言うと二人は動かなくなったかつての同志たちの亡骸の山を見ながら静かに涙を流した。
………
今やもぬけの殻となった地下道を死に物狂いで駆けながらもゴーシュは勝ち誇っていた。
少々予定とはズレたが、手筈通り地下に寝かせておいた魔族達は地上に顔を出しているようだ。
それに自由組合、養成所、役場の地下にもそれぞれ十分なストックを蓄えておいた。いくら片付けたと言っても、結界が問題なく作動していれば糧としての使いようがある。
計画などどうでもいい。死んだであろう同胞たちのことももはやどうでもいい。
今この場を切り抜けるために、その命を糧として使う。俺がこの土地の“竜”になる。
と、人族離れした脚力で一気に街の中心部まで駆けると、地下階段から一気に地上の時計塔へと駆け上った。
ゴーシュはこんな事態を想定してこそいなかったが、万が一が脳裏にチラついてから温存していた魔力を、足元の半分だけ起動した魔法陣にありったけ注ぎ込んだ。
「“邪竜転成”……!」
………
聖堂側から地上に出たアイリたちが目にしたのはアルボスティアの中心に聳える時計塔のさらに上、街中に張り巡らされた魔法陣のいくつかが共鳴し上空に出現した巨大な魔法陣だった。
「あれは……!」
空に描かれた魔法陣を見てウルハとリーナは顔を強張らせる。
この街全体に仕込まれていた生贄献上との複合で展開する転成召喚。
街全土を囲む結界魔法、そしてこの街で殺戮を起こし、解き放たれた生の魂と駒とされた邪悪すらも閉じ込めて贄とする。そしてそれらの莫大なエネルギーを取り込んで人為的に竜として転成する様式。
つまるところ敵の目的は、街一つを肥やしに肥やした後でそれを糧として邪悪な魔力で形作られた竜を生み出すことだ。
空に描かれた魔法陣が、この街に漂う命の源と怨嗟を取り込んでいく。……かと思われたが
「!?」
贄として想定していたであろう地上に現れた魔族共はベルの凍結結界により凍りついたままぴくりともせず、当然魔法陣に吸い込まれることはない。
そしてそんな魔族共が狩り損ねたアルボスティアの人々の命もまた彼らの身体に正常に宿ったまま、魔法陣が織り成すゆるやかな魔力の奔流をただワケもわからず見上げている。
魔法陣はそれぞれの要所に倒れている氷付けになっていない魔族と、聖堂の地下に居た子供たちの生命力だけを申し訳程度に吸い取っていった。
「皆が……!」
そうしてかつての同志たちの魂がゴーシュによって吸い上げられる様を二人はやるせない表情でただ見守ることしかできない。
「大丈夫 私が全部、ちゃんと還すから」
邪悪の糧として消費させることはしない。解き放って、必ず正しい輪廻転生の環に帰す。
そしてこの街に漂っていた魔力を吸い上げるだけ吸い上げた魔法陣の中心から、闇のように漆黒な巨大な体躯が顔を出した。
今日は残業(暫定)のため次回更新は明後日予定です。




