1-92 エド VS バモス
◆前回のあらすじ
ベルは小剣使いを泳がせて追い、エドは残った戦士の魔人バモスとの一騎打ちに
バモスの蹴りはエドの胴に炸裂した……かと思いきや、そのほんの手前で加護による障壁で食い止められた。
だがその強烈な一蹴はエドを丸ごと覆う加護ごと薙ぎ、そのままエドを建物の外壁に叩き付けた。
無論その衝撃すらも障壁は完全に中和したが、経験したことのない不快な浮遊感は着実にエドの気力を削いでいく。
加護がなかったら死んでいたかもしれない。その緊張感がエドの心の恐怖を増幅させる。
これが本気の戦闘。本物の戦闘。
森で風船のような魔物を軽々屠ってきたのとはワケが違う。
だがここを意地でも乗り切らないと次はない。アイリの加護があるからと言って心の芯までは守ってくれない。
エドは震えそうになる脚を魔力操作で何とか抑え、二撃目を振りかぶるバモスへと向き合う。
振り下ろされた無造作な叩きつけがすんでのところで避けたエドの真横を通過し、外壁に大きな穴を穿った。
「きゃああああああ!?」
と、その建物の中にいた住人と思しき悲鳴が聞こえる。
そうだ。普通に戦闘を繰り広げているがここはアルボスティアの街中だ。当然事情を知らない住民は自分に危機が降りかかることなど考える由もなく日常生活を送っている。
そして本来ならそんな市民を守る役割を担うはずの自由組合所属の正規冒険者が、こうもなりふり構わず街中で暴れられる異常さに気付くと身が引き締まる。
「……っあぁああ!!」
エドはかろうじて残った外壁を思いっきり蹴ると、振り下ろされたバモスの腕を取り、全体重を唸らせて投げる。
「ぐおっ」
横一文に振り回されたバモスはそのまま十メートルほど離れた開けた路地に投げ飛ばされる。
「ははっ とんでもねぇ力だな!」
バモスは余裕の表情で体勢を立て直しエドを見据えるが
「!?」
ドゴォ
そんなバモスの顔面に向けてすぐさま追撃に出たエドの拳が炸裂する。
濃密な魔力を纏い、魔力操作により威力を増幅させたエド渾身の一撃は、投げられてなお余裕を見せていたバモスに直撃した。
……かに思えた。
「ったく……とんでもねぇ奴がいたもんだな 潰すのが勿体無ぇ」
エドの拳はバモスの一回り巨大な掌に受け止められていた。
だがエドの渾身の一撃を一身に受けたその掌は当然無傷とはいかない。嵌めていた手甲は粉々に砕け散り、その衝撃によってバモスは肘の辺りまで痺れを来たしていた。
「まだ若いお前が何故こうも強い?」
バモスはそれでも痺れる手で力いっぱいエドの拳を握り返し、そのまま至近で鍔を競り合うように睨み付ける。傍から見ればさながら熊が山猫を押さえつけているかのような格好だ。
「……力の使い方と使い道を考えてるからだ」
エドの返答にバモスは心をくすぐられるような思いだった。
前情報では、この度帰還した首席パーティーの一行は道中何者かと接触して予期せぬ力をつけた可能性があるという推測が挙がっていた。力をつけただけならその高揚感に心躍らせていそうなものだが、目の前のこの少年は違う。信念を持って力を振るっている。そしてそれが自分の思想とは道を分かつものであるとバモスは確信した。
「惜しいな……こちらに招き入れたいくらいなんだが、それも無理そうだ」
言うなりバモスは空いたもう片方の腕でエドの肩を掴み
「“雷震”」
至近から雷撃の魔法を放ち、エドを感電させようとするが
バチィ!!!
「ぐぅ!?」
アイリの加護によって弾かれた雷撃がそのままバモスの両腕に炸裂した。
バモスが感電の衝撃で動きを止めた一瞬の内にエドは距離を取る。
加護に甘えてはダメだ。今の魔法は加護がなければ間違いなくこちらにとって致命的な一撃だっただろう。相手は戦士でありながら魔法も操る。そのような使い手がアルボスティアのような辺境に複数いるなどとつい数日前まで考えようもなかったが、この数日間の出会いとこの戦闘でそのような固定観念は既に取り払われている。
ベルとの訓練で思い知ったはずだ。敵が教科書や演習のセオリー通りに向かってきてくれるわけがない。何をするか、何を使うか、その場その場で臨機応変に対応できなければ生き延びられるはずがない。
着実に攻めて相手を討ち取る。
決意したエドは未だ雷撃の余波で調子が戻っていないであろうバモスへと距離を詰める。
腕の上がらない奴はどう動く?エドは自身の持てる経験と知識を頭の中でフル回転させる。
焦るな。確実に当てて着実にダメージを蓄積させる……!
エドはまずバモスの左中段に思いっきり蹴りを入れ、今最もダメージが蓄積しているであろう右腕で受けさせる。
バモスの方ももはやエドの放つ打撃がただの肉弾技の範疇に収まるものでないと認識してこそいれど、自分の知る人間の子供の動きを超えた躍動に未だ思考が対応できず、エドの思惑通り右腕でそれを受けざるを得ない。
「ぐぅう……!」
だがバモスとて戦闘の素人ではない。蹴りの衝撃は完全には受け止めずいなしながら、逆に力を流され一瞬停滞したエドの頚部を巻き込む射程で回し蹴りを放つ。
バチッ
が、蹴りはまたも障壁に阻まれてエドまで通ることはなかった。
(何か強力な防御魔法でも使っているのか!?)
自身の攻撃が悉く通じない様子のエドに、バモスの心に焦りが生じる。
予想外に強い相手ではあるがそれでも格下だと侮っていた。
メイド風の方は底が知れない。だが所詮は人間だ。最悪応援を呼べば袋叩きにできるだろう。一戦士として戦士風のエドに興味があったのは事実だが、ほんの少し痛めつけて拘束できればいいと思っていた。
(……それがこのザマだ 俺も力を得て驕っていたということか)
バモスは昔……ただの人間だった頃とは比べ物にならないほど膨大になった自身の魔力を左拳一点に集中させると、拳を中心に魔法陣を展開する。
「……恨むなよ、エド “雷鎚拳”」
※急用のため明日更新お休みします。




