初デート
「お兄ちゃん、デートをしましょう!」
そんなことを唐突に茜が言い出した。
「ちょっと待ってくれ。デートってあのデートか?」
「そう、付き合っている男女がするアレですよ、ほかに何があるんですか?」
この妹はよく思いつきで喋る、どこまで本気かわからないから困る。
「まず俺たちは付き合ってないんだが」
「一つ屋根の下で暮らしている男女がなんの関係もないなんてわけないじゃないですか!」
「誤解を招くだろうが、そりゃ兄妹なんだから一緒に暮らすわ!」
変なこと言うからちょっと意識したじゃないか……そうだよな、一応年頃の男女二人が同じ家で……うん、兄妹だから当たり前だな。
「お兄ちゃんは私が嫌いですか……?」
泣きそうな目で訴えかけてくる。わかっててもこう言う顔されると罪悪感を感じてしまう。
「はあ、わかったよ。で、どこに行くんだ?」
「お兄ちゃんの物分かりのいいとこ大好きです!」
可愛いんだよなあ、この笑顔は掛け値無しに可愛いと保証できる。
「じゃあ、ベタですがが映画はどう? 今面白いミステリやってるってCMやってたし」
「映画か、そういえば久しく見てないな、わかった、じゃあ映画デートってことでいいのか?」
「う、うん。お兄ちゃんとデート、うふふふふふふ……」
「おーい、もどってこーい」
「は!? 私は何を?」
「いい感じにトリップしてたぞ、お前。可愛いんだからあんま顔を崩すなよ」
「可愛い!? うんうん!! お兄ちゃんもだんだんわかってきましたね!」
何がわかってきたというのか? というか自信家だなあ……悪いことじゃないけど、実際可愛いし。
「じゃあさっき言ってた映画を観に行くってことでいいな? 土曜日の朝でいいか?」
「はい! 一緒に行きましょう、本当を言うと待ちあわせのベタベタなやりとりも惜しいのですが、やっぱりはじめからラブラブのほうがいいですね」
「よく分からんが……飯とかも食べて帰るのか」
俺たちが行こうとしているのは、いわゆるショッピングモールで済まそうと思えば、映画、食事、ショッピングが全部済んでします。田舎と言ってしまえばそこまでだが便利だからしょうがない。
「もちろんじゃない! デートなんだからできることは詰め込んじゃおうよ!」
デートか……自慢じゃないが女の子とデートなんて行ったことが……ん? そういえばスラスラ計画を立てているが……
「なあ、お前は誰かとデートしたことあるの?」
「あるわけないでしょう、いつかお兄ちゃんとデートしようと思って入念にシミュレーションしてたんじゃないですか、ついにその成果が……って何を言わせるの!?」
勝手にベラベラ喋っただけじゃねえか……
ともかく一つわかったことがある。俺も茜もデートは未経験、多少下手打ってもそれが失敗なのかわかる基準がないってことだ。
まあ……だったら気楽に構えるかな。
「じゃあ、楽しみにしてるよ」
「私もすっごい楽しみです、期待してますよ、お兄ちゃん!」
こうして兄妹デートをすることが決まった。