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お返し

 妹に看病してもらって風邪が治った翌日---茜が風を引いていた。

「お兄ちゃん、いるよね」

「いるから安心して寝てろ」

 茜の看病のお礼はもうしばらく考えてからと言うことになっていたのだが、風邪をひいたということで、その看病がお礼の品ということになった。

 朝に茜と会うと顔が赤くなっていて、照れてるんだろうかとはじめは思ったのだが、ふらつく、会話がうまくできない、目の焦点が合っていないということで体温計で測って見ろといったら見事な風邪だった。

 タイミング的に俺がうつした風邪だろうし看病は当然と思っていたのだが、

「お願い! 今日は一緒にいて!」

 という強い頼みで今日は看病することに決めた。

 さあて、おかゆを作るかな。

「茜、おかゆ作ってくるからちょっと寝てろ」

「あーんもつけてくれる?」

 あれをやるのか……された時もとても恥ずかしかったがする側に回ってもやっぱり恥ずかしいと思うのだが。

「わかったよ、だからちょっと寝てろ」

「うん!」

 じゃあおかゆを作るか、どうやってだ?

 ずっと茜が料理をすると言って聞かなかったから俺の料理スキルは絶望的に低い、とはいえおかゆだ。ご飯を煮ればできるのだろう、多分。

 炊飯器の中にご飯がまだあるのを確認してお湯を沸かす。

 湯が煮立ったのでご飯を投入する、どのくらいだ? 濃ければ後から薄めればいいので濃いめに作っておくか。

 鍋をかき混ぜながらちょっとだけすくって味見をする。

 あれ? なんか昨日茜が作ったような味にならないな?

 しかしこれ以上煮ても焦げ付きそうだし茶碗におかゆをつぐ。

 あとは梅干しっと……こんなもんだろ、できたじゃないか。

 茶碗にスポーツドリンクとおかゆ、水を並べて部屋に持っていく。

 ノックをすると「いいよ」と返事が帰って来た。

「おかゆできたぞ」

「ありがと! お兄ちゃんお手製のおかゆだ! お兄ちゃんが食べてくれるのもいいけどお兄ちゃんの料理を食べるのもいいね!」

「そりゃどうも、さあ食べろ」

「あーんは?」

「やるのか? やらなきゃダメか?」

「ダーメ、私がやってあげたんだからお兄ちゃんもしてよ」

 頼んだわけではないのだが風邪の時くらいは優しくしないとな。

 レンゲでおかゆをすくい茜の口元に持っていく。

 小さな唇におかゆが吸い込まれていく。

「あつ!」

「ごめん! 熱かったか?」

「大丈夫、ちょっとびっくりしただけ。でもまだ熱いからフーフーして?」

「ちょっと調子に……」

「あついなあ、なんで風邪なんか引いたんだろ。そういえばうつすと治るっていうよね、風邪は」

 それを言われると俺も弱い、すくったおかゆを吹いて冷まして口元に運ぶ。

「うん! 美味しいよ!」

「そっか、お前ほどうまく作れなかったんだが、美味しいんならよかった」

「おかゆもコツがいるからね、でもお兄ちゃんが私のために作ってくれたんだからなんだって美味しいよ!」

 要はそんな美味しくないけど俺が作ったから嬉しいとか言うやつだろうか?

 もうちょっと料理はしたほうがいいようだ。

「ところでお兄ちゃん……汗をかいたんだけど……」

 その続きは察していたが流石にそれはないだろうと思いたくて茜に聞いた。

「まさか……体を拭いてとか言うんじゃないよな?」

「わかってるならやってよ。私は気にしないよ」

 俺が気にするんです……

「流石にそれはちょっとできないかな」

「もう……いいですよー。しょうがないなあ」

「そうだぞ、俺に度胸がないのは知ってるだろ」

 しょうがないなあ、と言った風に服を脱ごうとする。

「ちょ!? 何やってんだよ!?」

「何って、自分で拭けって言ったのはお兄ちゃんでしょ、ちょうど頭を冷やすタオルの予備があるんだし」

「普通そう言うのは俺が出ていってからするだろう!?」

「お兄ちゃんはチキンですねえ」

 いや、世間一般の兄なら部屋から出てくだろう、だよね?

「じゃあ、いいって言ったら入って来てね」

「ああ、そうしてくれ」

 俺は部屋を出る。

 胸が高鳴っている、相手は妹だと言うのに何興奮してるんだよ俺……

 多少の自己嫌悪も持ちながら部屋の前で待つ。どのくらいそうしていたのかはわからないが「いいよ、入って」と言う声が意識を現実に引き戻した。

 部屋に入ると、上気したような顔で茜がベッドに座っている。

「……お兄ちゃんが私の着替えを部屋を出たところで見てたと思うと……いいね……」

「さらりと変態発言をするな、あと俺は見てないぞ、待ってただけだ」

「お兄ちゃん、それは紳士なんじゃなく臆病って言うんですよ」

 きついこと言うなあ、むしろドキドキしたほうが不健全だと思うのだが。

「さてお兄ちゃん」

「なんだ?」

「私はお風呂の代わりに体を拭きました」

「ああ」

「あとは寝るだけです」

 ちょっと待て、話の流れが読める!

「お兄ちゃんはこの部屋で寝てください」

「やっぱりそうなるのかよ!? 何もしないよな?!」

「流石の私も風邪だから何もしないよ、ただ風邪で不安なの」

 思いの外まともな理由に肩透かしを食らう。

 そうだよな、病気になったら誰だって不安だよな。

「わかったよ……布団持ってくる」

「うん! お兄ちゃんのそういうとこ好きだよ!」

 もし一生見た景色を一つだけ残しておけるとしたらこのシーンだな、という笑顔にまたドキドキする。

 こうして俺は妹と同じ部屋で寝ることになった。

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