秘密だったはずの夜
夜半、俺は散歩に出ていた。高校までだと深夜の外出にはうるさいので大学生の特権だ。
「お兄ちゃん! 夜遊びはダメだよ!」
もちろん茜だ、どっから気づいたのか本当に不思議だ。
「高校生が夜中に出歩くなよ」
「お兄ちゃんあるところに私ありだよ」
「当たり前のごとく言うなオイ、外に出たとき部屋の明かり消えてたけど起きてたのか?」
ちゃんと確認したはずだ。もし起きてたら夜中に出歩く不良少女が一人増えてしまうからな。
「玄関にセンサー付いてるんだよ、知らなかった?」
「なんだ、ドアの開閉でもチェックしてたのか」
「ううん、お兄ちゃんの持ち物についてるRFIDを検知する専用品だよ」
RFIDって確か本屋とかで万引き防止用についてる入り口のセンサーじゃねえか!
「俺を脱獄犯か何かと思ってないか?」
「妹を捨てる罪は殺人より重いんだよ、このくらい当然じゃない」
捨てるって……ちょっと出歩くだけじゃないか……
時々茜が出かけようとした時についてくるのはただの感の良さだと思ってたんだが、どうやらテクノロジーの進歩も一役買っているようだ。
「大げさだな、あと怖いからセンサーは取ってくれ」
「そうしたら私が毎日お兄ちゃんが寝るのを見届けないといけないでしょ、流石にしんどいよ」
どうやらこの妹には兄を放っておくと言う選択肢はないようだ。
「気にしないってのはできないのか?」
「気になるに決まってるでしょ! お兄ちゃんがどこにいるのかいつでも知りたいって言う妹なら当然の気持ちじゃない!」
どこがどう当然なのだろう? この妹は異世界でもなかなかいないんじゃないかと言うレベルで思考がぶっ飛んでいる。
それはさておき、自由な外出くらい認めて欲しいので反論する。
「気にしすぎだろ、お前を捨てたりしないぞ。お前が俺を不要と言うならまた別だけどな」
「そんなわけないでしょ、私には一生お兄ちゃんが必要なの! 不要になったりしないよ!」
泣きそうな目でそう言われるとちょっと罪悪感さえ感じてしまう。
あんまり言うとマジ泣きしそうだから加減が難しい。
「そうか、じゃあ俺もいなくならないから安心していいぞ」
「ホントに?! ホントだよね!? 信じちゃうよ!? 私と約束してくれるの?」
「わかったわかった、約束するよ、だからそう悲しそうな顔しない」
「うん! 約束だよ! 一生の約束だからね!」
一生ときたか……重いなあ……でも覚悟はしておこう。言質取られた感が凄いが……
「はあ……保証はできんが約束はするよ、安心しろ」
ただの夜遊びがずいぶん高くついたなあ……
「じゃあ、帰るか」
「うん!」