花火
「お兄ちゃん! 今夜は花火ですよ!」
そうだった。今日は花火大会があるんだった。
ぶっちゃけ俺はアレがあまり好きではない。
わざわざ出かけてまで見なくてもいいんじゃないかと思う。
ただ、毎年茜が行こう行こうと騒ぐので付き添いで行っている。
「花火好きだよな、お前」
「花火っていうか、堂々と夜にお兄ちゃんと一緒に出かけ……ナンデモナイヨ」
「そ、そうか。準備しとけよ」
茜は毎年気合の入った浴衣を着ていく。可愛いのでやっぱり一人にするのは心配なものがある……しゃーない、いくか。
「お兄ちゃん、準備できたよ! 行こっ!」
一方俺はいつもと変わらずTシャツとジーンズだ。特に気合いを入れる理由も見せる相手もいないからな。
「お兄ちゃん、せっかく妹とお出かけなんですよ、もうちょっと格好に気をつけませんか」
「別にいいだろ、お前以外花火が上がってるなか俺を見る奴なんていねーし」
「いないの? お兄ちゃんには花火に一緒に出掛けようって人はいないの?」
「いない」
「へ、へー」
何やら茜が小さくガッツポーズをしている、なぜだ? 優越感か?
「じゃ、いくぞ」
「うん!」
こうして俺たちは花火会場に出かけた。
「ところでまだ日が沈んだばかりだから時間が余るんじゃないか?」
「あっ、あーそうだったねー。よそうがいだったよ。しょうがないから始まるまで一緒にお祭りを回ろう!!」
花火大会にはつきものの出店などがあるので時間が余るのはいいんだが、こいつ頭いいのになぜこういうところが抜けてるんだろうか?
「分かったよ、あんまり使いすぎてまた泣きつくなよ」
「大丈夫! 今日はお金そんなに持ってきてないから」
毎年そうは言ってるが俺の持ち出しがあるのが恒例だったので釘を刺しておく。
「何から回る? 金魚すくい?」
「アレは昔やってたけど、すぐに死んじゃうからあんまり好きじゃないかな。綿あめからにしよ!」
「ああ、お金は俺が払うよ」
「悪いよ、お兄ちゃん」
「この前スマホのことで世話になったからな」
「やっぱり私が払う! お兄ちゃんはいいよ!」
「いや、でも」
「私の貸しはそんなに安くないんだよ! 綿あめ一個じゃごまかされないよ!」
どうやらこの前の貸しをもっと大きく使いたいらしい。
「じゃあ何が欲しいんだ?」
「じゃ、じゃあ……手を……つないで」
いつもは勝手に抱きついてくるのに顔を赤くされたら意識するじゃないか。
「ほら」
茜の手を握る、夏だからだろうか、ちょっと暑い。
茜が握り返してくる、心地よい圧力が手に伝わってくる。
「そろそろ始まるな……」
「うん! うん!」
どーん、ぱちぱち
夜空に火薬の絵の具で花が咲く。
なんだかんだ言って、きてよかったなあ……
「お兄ちゃん、ごめんね」
「なんだよ急に?」
「私知ってるんだ。お兄ちゃんって花火好きじゃないよね? ごめんねワガママで……」
「いや、きてよかったと思うよ、今は」
「それは私と一緒だから? あ! ごめん、なんでもない」
「お前と一緒に来れたのはよかったと思うよ、てか一緒じゃないと来なかったろうな」
「ほんと!? 信じちゃうよ!? 私はちょろいんだよ!?」
「信じていいよ。それより、今は花火みようぜ」
「そうだね!」
そう言って握る妹の手に、さっきより少し力が入っている気がした。
次回更新で完結です




