イエローブリックロード
今までもそうだったが、最近妹のブラコンはそろそろやばい領域に入ってきていた。
「お兄ちゃん! 今日のデート楽しかったですね! 次はどこにする!」
これを言ってるのが家族揃って食べる夕食中ということで、俺は針のむしろ状態だった。
しまいには
「お兄ちゃん、一緒にお風呂入りましょう!」
「いや明らかにアウトだろ、お互い何歳だと思ってんだよ」
「大丈夫です、アウトな描写は神の見えざる手が問題ない表現に謎の修正を入れるはずです」
「その話はやめようか……危険だ」
「そうですね、ちょっとアレでした、失言でした」
もはや錯乱の領域に入っているんじゃないだろうか?
ところで今の問題は、妹がパジャマを欲しがっている事だ。
もちろん店頭で売られているものが欲しいなどと普通のおねだりではない。
俺の「お下がり」が欲しいようで、母さんに俺の昔の服でそのまま部屋着にできそうなのはないかと聞いていた。
先日、なんというか……茜の裸ワイシャツ……を見てしまったわけだが、どうやらそれは自分で買ったもので、あくまでお下がりにこだわってガサ入れをしているようだ。
そして現在、季節物の服をしまっているクローゼットに現役の衣服しか無かったのに不満を覚えて、俺の部屋の家捜しを絶賛強行中だ。
いや、止めはしたさ。
でも、この時の茜は「執念」にも似たオーラがまるで見えるようでちょっと怖かった。
止めなかったのは妹の鬼気迫った感じだけが理由ではなく、もしここで部屋から追い出したら俺のいない隙に部屋を探しそうで困るんだ。
幸い今回は宣言してからのガサ入れなので色々と肌色分多めな本は全てクローゼットから退避させ、今はベッド下というど定番の場所に置いてある。
見つかるんじゃないかという恐怖はあるが、そのままにして100%見つかるよりはどんだけ薄い可能性でも見つからなそうなところに隠しておく方がいいはずだろう。
茜はクローゼットを漁りながら「ダサい」とか「センスがおかしいんじゃない」とか「どこで売ってるのそれ?」という独り言を言っている。
独り言でナチュラルに人を傷つけるのはやめてくんないかなー。
「あのさ、パジャマだったら他人が見るわけじゃないし、ちょっとくらいダサくてもいいんじゃない?」
「でも……お兄ちゃんも見るんでしょう?」
「いっつもパジャマ姿なら見てるだろうが、今更問題ないだろ?」
「むう、お兄ちゃんは妹心がわかってないです。私が普段着ているようなパジャマだってお兄ちゃん受を狙って選んだんですよ」
「一つ聞いていいか?」
「なんです?」
「さっき俺の服をダサいとかばっさりと切ってたけどさ、あれを俺は普通に外出にも使ってるんだぜ。つまりお前が俺のお下がりから何を選ぼうと俺はそれを貶さないぞ」
「えっっと……つまり何着ても似合うと!?!?」
「いや、そうでなくて、お前が俺のお下がりを着てそれをダサいと言っちゃうとそれを元々持ってた俺のセンスが疑われるんだよ」
うわっ、俺の服ダサすぎ……とかいう自虐はやりたくないのだ。
「そう、ですか。じゃあこのスウェットにします」
「動きやすいもんなスウェット」
「いえ、お兄ちゃんの香りが一番残ってそうだったか……何を言わせるんですか!?!? 誘導尋問は嫌いです」
「いつ誘導したんだよ……」
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その夜、 妹はスウェット姿でお風呂から出て着た。
「残念系美少女」という言葉が思い浮かんだのは一生黙っていよう。俺はそう心に誓った。




