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デートの始まり

 バスに乗ること30分、この地域で一番大きいショッピングモールについた。

 余談だが、このバスは乗るときに整理券−乗車証明のような物−を取り、降りる時に乗ったバス停からの料金を支払うシステムになっている。

 都会ではバスは定額で走っていて乗るときに運賃を払うと聞いたときには少々驚いた。

閑話休題

 俺はもうすでにクタクタだった。夜行性で人の多いところにはいかないのに今日は真っ昼間から人混みに揉まれたので人に酔ってしまった。

「お兄ちゃん、デートの前に外出の練習が必要そうですね……」

 妹の視線は冷たいのを通り越して優しくなっていた。その優しさは哀れみのようなもので、すっかりかわいそうなものを見ているように声をかけてくる。

「お兄ちゃん、私がいるから大丈夫ですよ、私はどこにも行きません、一生お兄ちゃんの面倒を見ますから安心してください」

「惨めだからやめて」

 妹のヒモをやる兄ってどうなんだろう……うん、ないな!

ーーーーーーーーーそんなやりとりをしばらく続けるとーーーーーーーーー

 ようやく映画館に着いた。映画館といってもショッピングモールにあるシネコンだ。

「何を見る?」

「うーん、兄と妹の恋愛映画ってないのかなあ……」

「家族連れの多い映画館でそんなニッチなのやるわけないだろうが……」

「でもほら、ああいうのはいいのかな」

 そういって茜が指差す先には……今オタク業界で大人気の魔法少女アニメの劇場版のポスターが貼ってあった。

「あれがセーフなら兄妹ものだってギリセーフだと思いませんか?」

「思わないよ! むしろ売れまくってるあのアニメが例外なだけだって!」

「じゃあこれ! これがいい!」

そういって妹が指差すのはーーー子供向けの特撮だった。

「え!? これでいいの!?」

「うん、昨日ワクワクして上映中の映画全部調べたんだけど、この映画主人公の妹が大活躍するんだって! 私のためにあるようなものでしょ!」

 どう考えてもお子様向けだと思うのだが……

 まあいいか……チケットを買って上映までの1時間弱の暇をどう潰そうかと考えていると。

「お兄ちゃん! ここの書店ってすごく大きいらしいですね。私、買いたい本があるから始まるまでに買っていい?」

「もちろんいいぞ」

と安請け合いしたのだが……

 茜は書店コーナーから紙袋いっぱいの本を持って出てきた。

 重そうにしているので持ってやる。しかしどんな本ならこんなにたくさん買えるんだ?

「何買ったのか聞いていいか」

「妹モノの小説、漫画、ラノベだよ、これ全部ね」

「どんだけ妹もの好きなんだよ!?」

「ちゃんとお兄ちゃんのいる妹ものを選んでるんだよ! 姉妹ものは買ってないから!」

 それから10分ほど兄妹モノの作品の良さについて語られ、やっと話が終わったと思ったらまた10分ほど「妹物がラノベメインで一般向けにないんだよ!」という愚痴を聞かされた。

「ほら、そろそろ映画始まるぞ」

「うん! 早く行こ!」

 係員にチケットを切ってもらい入場する。

 あれ? 子供向けの特撮だと思ったんだけど子供がいないな?

「ほらほら、早く座って」

「ああ、悪い」

 そしていつもの盗撮禁止のCMが流れた後本編が始まった……始まったのだが…

 一言で表すならその映画は「殺し合い」だった。

 人間と怪物の戦い、一言で言えばそうなのだがここに主人公たちの信念や怪物を殺すことへの葛藤、ラストには主人公が死ぬという衝撃的な終わり方をしていた。

 ちなみに妹は兄のただ一人の理解者という立場だった。

 上映が終わり俺があまりの展開に衝撃を受けていると、

「すごいよかったね! やっぱり最後は妹が必要なんだよ! うん」

 何やら勝手に納得していた。

 そうして俺たちのデートもあとは帰るだけと思っていた……

「じゃあお昼ご飯と晩ご飯はどこで食べよっか?」

「えっ!? 夜までいる気なのか!?」

「もちろん私は未成年だからそれなりには帰るけどさ、せっかくお兄ちゃんと外出できたんだもん! もっと一緒にいようね!」

 というわけで、デートはまだ続くようだ。

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