第二話 死
書くのつかれてきた。
「よくもやってくれたなと言ったもののどうしようか」
そこで鏡に映った自分の醜態に気づく。
「ふふっ!」
自身の醜態に思わず笑みが漏れてしまう。
「取り敢えず歯を磨き終えるか。」
ジャーーーーーーーーーーーー
シャコシャコシャコシャコシャコ
歯を磨く音と蛇口から出る水音。
シャコシャコシャコ
シャコシャコシャコ
シャコシャコシャコ
何故か歯を磨く音が大きくなっている気がする。水は流しっぱなしで歯磨きの音と混ざった音のはずが、どんどんどんどん歯磨きの軽い音が水音を飲み込む感じ。軽い音のはずが重々しく感じる。
あの寒さとは違うが何か不気味な感じがする。それとも俺の気のせいか?いいや!違うやっぱり少しずつ歯を磨く音が増えているッ!やっぱりおかしい!も、もうやめよう!
ジャーーーバシャバシャバシャ、、、トッ。
歯ブラシを棚に洗い戻す。
「気持ち悪い、顔でも洗おう。」
ジャーーーバシャバシャ キュ!
「フゥーーー」
顔が冷水で濡れたまま洗面台をボーーと見つめる。
顔が冷たく心地よい。すぅっと思考が透き通ってゆく。ふぅ。アイツは誰だ?何故俺を攻撃する?いや!こんな事を考えるのは不毛か、犯罪者の考えを読めない様に幽霊も何のためにやってるかなんて分からない。問題はどう対処するかだ。、、、分からない。俺は探偵だ。決してゴーストバスターでは無いのだ。まぁ良い。死など早いか遅いかだけの話だ。訳も分からずやってくれたなと言ったもののどうしようもない。
「そう、楽しもう。一度きりの人生だ
幽霊に殺されるなんて面白いじゃないか!よし!」
そう決意し、顔を上げ自分の顔を覗く。
その決意を踏みにじり、嘲笑う。
顔を見上げ、鏡を除いても自分の鏡の中の自分は見上げない。あるのは奴の沈黙と水の滴る音。一定のリズムでピチャ、、、ピチャ、、、自身の鼓動もリズムを上げていく。
「っっぅ!ハァハァハァ」
息が乱れる。体験した事の無い光景そして恐怖。思わず生唾をゴクリと飲み込みゆっくりとゆっくりと後ずさる。すると奴もゆっくりとのろりと後ずさる、しかし奴は決して俺と顔を合わせようとせず、そのため不気味なほど首がへし曲がり今にもごきりとへし折れそう。またゴクリと生唾を飲み込む。俺の息は乱れ恐怖で息をするのが許されない。
「ッッ!はぁはぁはぁぅんぐ、はぁはぁ」
そんな乱れる呼吸に合わせる様に洗面台の電球は乱れ、ついては消えついては消えの繰り返し。俺の呼吸に合わせる様にその感覚が短くなっていく。
ピンピンピンピン
という電球のつけ消しの音。
そして
バンッ!という共に暗転。
漆黒の暗闇が視界いっぱいに広がる。
(怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い)
そんな思考の混乱とは裏腹に体は迅速に電気のスイッチに手を伸ばしバチッとつける。
しかしそこには俺が、いや奴が居なかった。
(どこにいった⁈どこだどこだどこだ⁈)
ゾゾゾと恐怖で身体中に鳥肌と悪寒が襲う。前の背中に押し付けられたカミソリを首まで一気登り切り裂かれるよりも、ゾッとする様な感覚。
「どこだぁ!!!」
絶叫する。
すると後ろ鏡に映った風呂の扉からぬぅと細く青白く鋭い爪を持った手が伸びてくる。
(動けない!!!やばいやばいやばい怖い怖い怖い怖い怖い怖い)
血液が沸騰するかの様に流れ心臓は爆発するかの様に鳴る。目は血走り奥歯を噛み締め必死に体を動かそうとするが動かない。
(何故何故何故何故何故何故何故何故⁈クソクソクソクソクソクソクソ)
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
ピトッと細く青白く鋭い爪を持った手が喉を掴む。氷の様に青白く手は冷たく、まるで生命が死に失われてゆく虚無感が喉から伝染していく様だ。掴まれた喉は
少しずつ
冷たく
少しずつ
冷たく
少しずつ
喉を握る力が入っていく。
少しずつ
俺の呼吸が乱れ、苦渋の表情を楽しむ様に、、、
「っっぁはぁっっはぁっっはぁ」
(体にち、力に入らない。く、苦しい握られた所が恐ろしく冷たく痛い。だがその反面熱くも痛い。)
少しずつ
少しずつ
しかし唐突にガッ!と喉を握られる。爪が皮膚を突き破り血がツーーーと垂れる。
(うぅこ、呼吸がぁ!!!苦しい息ができない!!!爪から血に血管に冷気が流れてくる!冷たい!命が凍っていく。)
パッと手がゆっくり離れる
そして
その手は頬にのろりと移ってゆく次はどこを握ろうかとどこを引き裂こうかと模索する様に見えた。
そこで
新たな手が増える。
バッとまた喉を細く青白く鋭い爪を持った手が喉を握る。
そして先ほどまで虫が這う様に顔をはっていた手が暗闇の奥にゆっくりと戻っていく。
暗闇の奥から
ペチャペチャペチャペチャ
と何かを舐める音
少しして静寂。
そして
手が伸びてきた。さっきよりも早く。
両手で喉を掴もうとする。
この時だけは恐怖より勝るものがあった。それは 死。これが最後のチャンスだとそう感じた。そして死を目の前にして人間は二つのどちらかの行動をとる。
ひとつは、死を受け入れること。
ふたつは、死から逃れるため足掻くこと、シンジは後者だった。
シンジは奴の両手が触れる前に大声で叫んだ。
「ううゔおおおおおぉおうゔうっ!」
腹の底から出した雄叫びだった。そして
その雄叫びのお陰で一瞬だけだが奴の片手と金縛りが解けた。
瞬間後ろを振り返り、臨戦態勢をとる。
しかし
そこには何も居なかった。
全てが嘘かの様に喉の傷も苦しさも恐怖も何も何も無かったのだ。
そこから俺は記憶が無い。
知らず知らずのうちに寝ていた。
極度の緊張、恐怖から解き放たれた反動だろうと思う。今わかるのは、俺が生きている事と。今立っている洗面台で血塗られた文字で「私の負け」とおぞろおぞろしく書いてある文字。それだけだった。
ほんとめっちゃ時間かかった。