7
「君とジョークの馴れ初めだよ。ダックス、君が傷ついた過去を持っていたとは知らなかった。猿に執着するのも頷ける」
レインドはわざと嫌味たらしく言ってやった。これには流石の相手も大打撃を受けるだろうと、心浮つかせながらダックスの顔をチラリと見てみた。だが、レインドの予想と裏腹に、ダックスの顔からは白い歯が主張している。
「ああ、何だ。そんな事ですか。てっきり、僕がこの前間違えてNo.18のおやつのバナナを食べてしまったことを言ってるのかと思いましたよ」
ヘラヘラ笑い、頭を掻きながらダックスは言った。それから、やってしまったと言わんばかりに目を丸めていたが、レインドはそういうことでは無いと突っ込みを入れたい気分だった。
「もう私はそろそろおいとまするよ。実験動物達がお腹を空かせたら可哀想だ」
そう言って、一番奥に位置する部屋まで歩こうと背を向けようとしたが、その前にダックスの次ぐ言葉に立ち止まっ手振り返った。
「そういえば、研究所に手紙が届いてましたよ」
「どこからだ?」
「動物愛護団体からです」
「ああ、後で読んでおく」
読んでおくというよりも、さっと目を通して後でシュレッダーにかける予定であった。愛護団体からのあの長ったらしい手紙を一枚一枚丁寧に読んでいたら、日が暮れてしまう。
「それからもう一通あったんですけど、多分イタズラか何かかと」
ダックスは噛んでいたガムを大きく膨らました。鮮やかな紫色から察するに、今日のメニューはグレープ味だろう、レインドは呑気に考えてしまっている自分に嫌気がさしてきた。
「それも読んでおく。それじゃあ今度は猿のバナナを横取りするなよ、ダックス」
念を押すかのように、ダックスに指を差した。だが、甲高く返事をしたのはジョークの方だった。苦笑いを浮かべレインドはその場を後にした。