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ダックスの話を聞いて、レインドは同情の意思を一欠片も覚えなかった。幼少期の頃の環境など、大人になった今関係ないと思っているからだ。レインドも少なからず環境のいいとは言えない育ちをしてきた。だが、大人になっても過去の言い訳をし、周りが甘やかすように接する事自体が馬鹿げている。
何もない長細い廊下を歩いてレインドは考えた。奴から何とかバレないようにあの猿を実験に使えないものかと。そんな事を考えながら実験体の管理室へ向かう途中、当の本人に出くわした。
「ああ、ダックス。おはよう」
挨拶をするついでに、ちらりと下を見てみると、ダックスの手はやはり猿の手と繋がっていた。
「おはようございます」
ダックスはクチャクチャとガムを噛みながら軽く挨拶をした。怒るな、冷静になれ、レインドは自分に言い聞かせてなるべく自然な笑顔をつくった。
「散歩か?」
「ええ。たまには皆と遊ぶのもジョークにとっていいかなって。そっちは?」
「私は猿の観察をしに行く。No.18の様子も気になるしな」
「ああ、ミスターレインド。貴方が当番でしたか。それじゃあごゆっくり」
わざとらしく腰を屈めて見せながら、道を開けると左手で管理室の向こうを指した。その所作を見てこめかみがピクピクと震えるのが分かったが、どうもありがとう、と紳士らしく立ち振舞う事で自分を落ち着かせた。
「そういえば、この前ジェージェーに聞いたよ。君の過去をね」
この、いけ好かない男に一発ジャブを入れてやろう。レインドは触れられたくないであろう過去の話を持ち出して、にやりと笑った。
「過去?一体どんな過去です?」