5
ダックスは、地面に腰をかけるとリュックの中からパンを一つ取り出してかじった。乾いたパンの欠片を噛んでいると涙が溢れ出てくる。一度涙が零れると、もう止まらない。これからどうするべきか。降りしきる雨に心身共に押しつぶされそうだ。
四分の一だけ食べて残りのパンを残しリュックに仕舞おうとした時、塀の上から小さな鳴き声が聞こえてきた。思わず上を見上げると、一匹の猿が大きな丸い目でダックスを見つめている。
「こんにちは。君も一人ぼっちなの?」
キキと猿は返事をしたように思えた。ダックスは仕舞いかけたパンを一口千切り、手のひらに乗せて猿に見せて誘った。
「こっちにおいで。こわくないよ」
すると猿は塀の上から軽々と飛び降り、ダックスの手のひらからパンを一欠片奪って食べ始めた。
どこからともなく現れた小さな友達に、ダックスは今までの孤独や寂しさが一気に薄れていった。
「お前、今日から僕と一緒に来るかい?」
優しく背中を撫でながらそう聞いてやると、猿はダックスを見つめながら小さく頷いたようだった。
「お前、なんて名前なんだ?」
ダックスは猿に問いかけるも、猿は首を傾げるばかりだった。そこでダックスにいい考えが浮かんだ。
「今日からお前の名前はジョーク。僕の一番の親友さ。いいかい?ジョーク」
ジョークと名付けられた猿はウキッと笑って喜び跳ねた。それを見たダックスもつい笑顔が零れた。そして、ダックスはその日から誓った。
「僕はもう泣かない。だって今日から最高の友達が出来たんだ」