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「お前の猿が利口なのは分かっている。したがって今、その猿が必要な時がきたのだ」

「猿じゃなくって、ジョークです」

すかさず口を挟んだダックスに対して、ぐっと堪えるレインド。

「ジョークを、今度のプログラムに適用したいと思っている。どうだ?」

「プログラム?プログラムって何の事です?」

ジョークにおやつのクラッカーをやるために腰をかがめているダックスは、間の抜けた顔でレインドを見上げた。明らかに目上の人に対する態度ではない。だがもうこんな事で、この男を叱っていたら自分の神経が先に参ってしまう。

レインドは、背中を向けて何歩か歩くと、ゆっくりとした口調でサルでもわかるように説明してやった。

「先程も言った通り、実験体である猿を使っての新たな試みだよ、アンダースキー。近年、若者の集中力が激しく低下している。ネットの弊害によって、彼らは現実世界への興味が失せ、コミニュケーション能力が落ち、不登校や引きこもりといった者が増えている。それから犯罪率も年々カサ増しする一方だ」

「へえ、それで?それがジョークにどう関係するって言うんです」

「正直No.18では不安だ。そこで、猿……ではなかった、人馴れしているジョークを起用したいと考えている」


レインドの提案に、ようやく真剣に捉えたのか、立ち上がって真面目な顔で見詰めながらこう言った。

「待って下さい。それはダメです。こいつは僕の相棒であり親友なんですよ?猿なら他にもたくさんいるでしょう。森に行って捕まえてきたらいいじゃないですか」

「野生の猿を捕まえる事は禁止されている。この付近の森は動物愛護団体の管轄下であるしな。それに一匹増やすだけで世話と費用がかかる。少しでも無駄な労力は使わないに限る。理解したか?アンダースキー。嫌なら、その猿を自宅へ連れて帰れ。ここは無料の飼育所では無いのだ」

レインドの嫌味っぽい口振りにも、当の本人はケロッとした表情を浮かべたまま風船ガムを膨らまして割った。

「この研究所は別に貴方のものでは無いでしょう。それに、僕を説得しようったって無駄ですからね。僕とジョークは固い絆で結ばれている。無理だと言ったら無理です。さあ、行こうジョーク」

小さな猿を両手で抱き抱えると、ダックスは研究室Aの部屋を後にしようとした。

「どこへ行く、ダックス。まだ話は終わっていないぞ」

レインドの声に、ダックスは振り向き、

「もうすぐジョークの昼飯の時間でしてね。冷蔵室へバナナを取りに行ってきます」

と言ってドアノブを掴む。レインドは「待て」と呼び止めた。

「これだけは言わせろ。私はこの研究に全てを捧げるつもりだ。この最新型のボイスコンバータα‬を使用すれば、どんな猿でも巧みに会話をする事が可能になる。世の中に革命が起きる。猿と共同生活をする事によって、人類は再び豊かな心を取り戻すのだ」

ダックスはもう一度だけ振り向いて、最後に言い放った。

「それなら猿の惑星でも見せればいい。あの映画は何年経っても名作だ。ティム・ロスがいい味を出してる。パッケージだけは少し残念だけど」

そうして、ジョークを抱えたまま部屋から出ていった。

取り残されたレインドは、静寂の中、扉を睨みつけ、やり場のない感情に唇を噛んで呟く。

「クソ、ダックス=アンダースキーの奴め。今に見ていろ。私は諦めるつもりはないからな」




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