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俺のアイドルは○○○○  作者: ぎゃわれ
1/1

俺の人生の展開期

 春、桜の芽吹く季節に突然社長から呼び出されて言われたことは

「わが社の新事業として地下アイドル部門を作ってほしい、そこでこの度今井くんはプロデューサー兼スカウトマン兼マネージャー兼その他雑用係に任命する。事務所はこのマンションを使って、あとは...」って感じに言い渡され、俺は新事務所に向かうべく車を走らせていた

 就職したのはパソコン系の専門学校を卒業してからのことだった。インターネット系の会社に就職したのが今の会社だ。だがこの会社はさまざまな事業展開をしててその度に社員はいろいろなところにかりだされていた。そして俺は2年目で名刺が「制作」から「プロデューサー兼マネージャー兼スカウトマン」になった。

 それで今の状況の確認、私、今井正弘は虹色エンターテイメントのアイドル部門のマネージャーとなった。

 事務所にはまだ殺風景な状況だ、会社が用意してくれたパソコンなどが宅配で支給された。そこでまだ謎なことが一点ある。うちの会社にアイドル部門なんているのだろうかと、社長によると新時代の波に乗りたいとのことらしいが、俺はいまいちピントきていなかった。それはアイドルなんてテレビで何回か見たくらいだし、ましてや地下アイドルや地方アイドルなどは実際に見たことも見に行こうとも思っていなかったからだ。それにこの後の流れとして何をしていいのかさっぱりわからなかった。まずは会社の売り上げに貢献しないといけない。まずはやることはアイドルを集める事、どういうアイドルにするのか、営業先をどうするのか、ホームページをどういう形にするのか、運営資金やどういう形でお金を回していくのか、必要な機材などはあるのかどうか、まったくの素人の俺には1週間パソコンとのにらめっこだった。

 とりあえず俺は新アイドルグループ立ち上げのためのアイドルの女の子1人のスカウトをすることにした。

 でもただ声をかけてしまってはナンパと勘違いされやすいし、ましてやこんなこと一度もやったことない俺にはハードルが高すぎだった。とりあえず町でスカウトすることはやめ、適当にネットでエゴサーチでもしていた。そんなときだった。アイドル志望の女の子が偶然見つかったのだった。そこでDMで連絡してみた。

『はじめまして、私虹色エンターテインメントの今井と申します。突然ご連絡して申し訳ございません。あなた様がアイドル志望の文面をみてご連絡しました。この度弊社でアイドル事業と立ち上げる事となりまして、興味がありましたら弊社でアイドルしてみませんか?』と虹色エンターテイメントのアイドル部門のSNSで声をかけてみた。すると

『ご連絡ありがとうございます。とてもうれしいです。是非やってみたいです!!』

 そして連絡していくうちに面接の日になってしまった。面接は社長同行でカラオケにて行われた。彼女は緊張しているのか顔が引きつっていた。そして彼女は合格となった。

 打ち合わせということで土曜に会うこととなった。だがその時彼女がこういったのだ

「あの時声かけてくれてありがとう、お兄ちゃん」

 その言葉で俺ははっとした。それは俺が8歳のときに親の離婚で絶対会うことはないと思っていた妹だったのだ。


 っとここまで話の展開が早いけれど、アイドル部門は彼女の宣材写真だとかとったりHPの写真などやオーディション告知の写真も撮らないといけないし、各事務所の挨拶回りに行くこととなっていた。

 お兄ちゃん発言したのはその後の今後の予定の打ち合わせの時だった。

「麻実ちゃん、からかうのはやめてくれないかな?一応これ仕事で打ち合わせ中なんだから」

「いえ、もう打ち合わせはほとんど終わったはずです。それにからかっていません。本当です」

「いやでもな、確かに俺に妹はいたけれど、名前が違う」

「いろいろあって麻実はハンドルネームです。ほら履歴書にも名前書いてるじゃないですか」

 俺は恐る恐る面接の時に渡された履歴書のコピーをみた。

 斎藤美月、母の旧姓が斎藤で間違いないし、妹の名前が美月であるのもあっている。だがこんな偶然ありえるのだろうか。母の旧姓を思い出すまで麻実が俺の妹なんて気づきもしなかった。

「なんで俺が麻実ちゃんの兄だと分かったんだ?俺の記憶なんて小さすぎてないに等しいだろ」

「昔の兄の写真と名前が一緒だったからです。私も半信半疑だったんですが、確信だったのはやはり顔ですね」

「顔ね~」

「だって母そっくりなんですもん。初めて面接でお会いした時、びっくりしました」

 ここ数年は見ていないけれど、確かに小さい頃の写真を見せてもらった時には似ていたような気がする。父さんからも母親に似ているって言われたっけ

「だが、麻実ちゃんが妹としても今までと変わらないでしょ」

「確かにそうですね」

 その一言が余計だったのかわからないが、そこでお開きとなってしまった。

 だが、話はこれでは終わらなかった。俺は妹発言をした日の翌日、俺は一本の電話でとんでもないことを耳にした。それは母が亡くなったとの電話だった。麻実いや美月は母と一緒に暮らしていて、母にいつかアイドルになってステージに立って母に見せたいと言っていたと俺は葬儀の後に知った。俺は就職のために地元を離れ、この原田市のアパートに一人で住んでいた。だがまさか同じ町に家族がいる事なんて知る由もなかった。亡くなった母の死因は事故死、交通事故によるものだった。

 打ち合わせを終えた後、美月は普通に家に帰ったらしいが、何時になっても帰ってこない母を心配し、仕事先に電話したら交通事故にあったということを聞いたそうだ。母は不運にも飲酒運転の車に接触してしまったらしい。葬儀には父も出席し涙に「離婚なんてしなければこんなことにはならずにすんだのに」と後悔しながら裏で母が大好きだったレモンティーを飲んでいた。

 葬儀はあっけなくすぐ終わってしまった。俺はというと涙は出なかった。突然のことだったのですこしパニック状態にあったからだ。

 葬儀の後、美月の引き取り先の話をしていた。優先的に高校生である美月は祖父母の家に引き取られることになるだろうと思っていたが、祖父母の家は田舎も田舎の奥にあるためか、美月の通っている高校からは電車で3時間往復しないといけないほどだった。もちろん美月は別の高校に転校は考えてなかったそうだ。これ以上、悲しい思いをしたくないとのことだった。そう母は再婚はしていなかったのだ。美月を女手一つで育てていたのだそうだ。

 そこで美月の家の付近に住んでいるのをあげると、俺のアパートになってしまったというわけだ。父が提案したらしい。

 そんなこんなで美月は俺のアパートに引っ越してきたのだった。俺のアパートは事務所まで30分ほどの場所にある。実家からだと車でも2時間かかるからここにしたのだ。いまどき駐車場付きで木造2LDKで家賃そこそこの場所はないと思う。何か出やしないかいつもビクビクしている。不動産屋さんは怪しくなかったけど。そこまで都会じゃないからそうなのかと思っている自分がいる。

「今日からお世話になります。お兄ちゃん」

「お、おう。よろしくな、っていうか仕事するときも同じなのによろしくっていうのはどうなんだ?」

「新生活なんだから言ってもおかしくないでしょ」

「そうだな、そういえば会社の履歴書とか住所こっちだとまずくないか?」

「そうだね、学校にも住所変更のこと伝えないといけないし」

 でも、考えてみれば、別に身内がアイドルやってますと言ってもおかしい話ではないはずだ。

「学校とかは普通に変更して、会社には俺から伝えとくよ」

「わかった。お願いします。てかそれ普通じゃん」

「だな」と初めて二人で笑った気がした。

 その後荷物を一通り片付ける作業が待っていた。美月の家からは生活に必要なものを持ってはきたが、俺のアパートには全部は入りきらず、どこかスペースを借りるにはお金がかかるとのことで、必要ないものは処分することとなった。

「てか、美月の家と俺の家、あんまり広さや中身変わらないとこだったんだな」

「そうなんだよね、それはびっくりした」

 美月たちは一軒家ではなく、俺と似たアパートを借りていたのだ。先ほど引き払ったけれど。

「美月のものはあれで全部でいいのか?」

「うん、そうだね、いろいろ思い出の品はあったけど全部は持ってこれないし、それにこれから何かといるかもしれないから売れそうなものは全部売ってしまうことにしてるから」

「そうか」と俺はそれ以上は言えなかった。

 あまりにも寂しそうな顔をしたので、まだ母さんといたあの部屋が名残惜しいのだろう。あまりにも似ているこの部屋はある意味美月にとっては苦であるということである。

「あのさ美月、美味しいものでも食べに行くか?」

「いいの?だってお兄ちゃんお金は」

「心配するなって、妹に美味しいもの食べさせられないくらい貧乏じゃないさ、まあファミレスとかしか行かせられんが」

 フフと笑った美月は少しは笑顔を取り戻したようだった。情緒不安定なのかもしれんけどな。それでも俺は今美月が笑顔でいられるように頑張るしかないのである。

 一通り荷物の片づけを終えた俺たちは家から車で10分のところにあるファミレスに来ていた。

「引っ越しのあいさつとかしなくても大丈夫だったかな?」

「いや、元から俺が住んでいたんだからそんなのいらんだろ」

「だって~、私が新しく住むんだから兄がご迷惑おかけしてますってご挨拶しないとダメかなって」

「俺は別に迷惑かけてないと思うぞ、たぶん」

「どうだかね~」とニヒヒと笑った。ちょっとかわいいなって思った。いや妹としてだよ。

 注文が決まったところで店員さんを呼んだ。

「お帰りなさいませご主人様♪」

「「え?」」美月とハモってしまった。

 店員さんは確かにかわいいウエイトレス姿だし、そういうお店にいなくはないが、ここは普通の健全なファミレスだ。最近来ていなかったが、最近はそういう使用に変わりつつあるのか?

 いやいやそんなことはないだろ!

「お兄ちゃん!なんでにやけてるの!!」

「いや、にやけてたわけじゃないぞ!」

 そしたら自分が何を言ったのか分かったらしく

「リコちゃん!もう!前の職場の挨拶はやめなさいっていつも言ってるでしょ!ったく、お客様申し訳ございません。ご注文はお決まりでしょうか?」

「えっと、彼女の前の職場って」

「申し訳ございません、そういったことは個人情報ですので、お答えすることは」とリコっていう店員さんの先輩なのだろう人が焦っていると

「お兄ちゃん、こんな子の個人情報なんて知りたいの?まあいいや、私ハンバーグ&ステーキセットのドリンクバー付きね」

「メイドカフェ...」とさっきのとんでもない店員がボソッと言った。

「え?」

「っちょリコちゃんは他のお客様のオーダー聞いてきて、申し訳ございません」

「いえいいですよ。大変ですね。俺はからあげ定食ごはん大盛りで、あとドリンクバーで」

「かしこまりました。少々お待ちください」

 店員さんは注文を聞いて、奥へ引っ込んでいった。俺はさっきのリコちゃんの様子を見ていた。

「あの子また、メイドみたいな事言ってるね、おもしろ~、SNSにあげとこ」

「おいおい、あんまり人の個人情報とかあまりあげるなよ、それに仕事用のアカウントにはあげるんじゃないぞ」

「わかってるって、これでもアイドルなんです~」

「アイドル!?」

 ぐいっとリコ店員が迫ってきた。咄嗟に俺たちはびっくりして変な声が出てしまった。

「リコちゃん?そこで何してるのかな?お客様の注文は取れたのかな~?」

「まだですけど?」

「ならさっさと注文聞いてきて!」

「かしこまりました」

「大変失礼いたしました」

 トボトボと去っていった。店員さんたちだった。だが何か美月が気づいたようで

「さっきのリコって子さ、もしかしてアイドル志望だったりするのかな?」

「どうだろうな、単に好きなだけだろ」

「なんか近々会いそうな予感」

「そんな馬鹿な、あまりここには来れないと思うぞ」

「え~」

 そんな美月を見ながら、ドリンクを飲んでいると注文したものが来て、食事を済ませ、ファミレスを後にした。

 だが美月の予感は当たっていたのだった。

 俺が翌日、本社に呼び出され、何事かと思ったら

「なんだかね、アイドル志望らしくて、麻実ちゃんのSNSからここを知ったらしいんだ、是非この子もアイドルになれるように君に任せたよ」

 なんと昨日会った。リコちゃんだったのだった。



 

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