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初めてのお使い Side R
ルチル視点第2回。
人付き合いが苦手なはずの彼が、ものすごく頑張ってます。
ある意味今回最大のミッションである買取を頼まんと、冒険者ギルドを訪れる。
これができねば、買い物も出来はしないのだし。
ポウに聞いたところ、クエストと呼ばれる様々な依頼を受けたり報告したりする他に、冒険には必須の雑貨などの販売、依頼と被ることもあるが素材の買取をしており、さらに酒場に宿屋まで兼ねているらしい。
何やら随分と多機能であるようだ。
建物に入って、内部を見回す。我には充分な明るさではあるが、明るい外から入って来ると、窓が少ない分薄暗い。
カウンターの向こうに、受付と思しき者が2人。奥で事務仕事らしきことをしている者が数人。
壁に大きな掲示板のようなものがあり、何かが張り出されている。
おそらく織葉殿のおかげであろうが、我にも文字が理解できる。どうやら買取はあちらの窓口らしい。
「失礼する。買い取ってもらいたいものがあるのだが」
「はい、買取ですね! では、あちらのカウンターにお願いします!」
ウサギのような耳の獣人女性が、ハキハキと窓口の端、L字型に曲がった向こう側を指さす。
一段低くなったそこは、受付窓口より広いテーブルになっているようだ。
織葉殿から預かった、大イノシシモドキの牙と角、砕いた魔晶石のカケラを1つ、カウンターに置く。
その途端、受付してくれた女性が硬直した。そんな彼女を訝しんだらしきもう1人の女性が手元を覗き込み、同じく硬直する。
「……どうかされたか?」
声をかけると、2人揃ってハッとしたように身震いして
「しっ、失礼いたしました! はい、買取はどれも可能でございます。ファングボアの牙と角は普通に査定に回せる物ですが、その……『こちら』は、マスターに確認の上で鑑定に回しますので、しばらくお待ちいただけますでしょうか?」
大イノシシもどきはファングボアと言うのか。
また1つ覚えながら頷くと、キツネっぽい耳の女性が窓口を閉めて、奥の扉の向こうへ消えた。
ウサギ耳の女性がチラチラと視線を向けてくるのに気付いてはいるが、知らぬふりを決め込む。
表情があまり変わらぬというのも、こういう
便利であるな。
……しかし、これは少々厄介かもしれぬ。シディル殿も、どうやら買取品の扱いについてまではご存じなかったとみえる。
だが、もうどうしようもない。ここで引っ込めると、『後ろ暗い物である』と思われてしまう可能性がある。
いくらも待たず、バァンッとけたたましい音を立ててその扉が開かれる。
驚いたあまり、危うく本性に戻るところだった。
「あんたか! 『アレ』持って来たってのは!」
……声がでかい。
そしてナリもでかい。熊か。
我も小柄ではないと思うのだが、我よりも頭一つ分はある。横幅に至っては倍ほどあるのではないだろうか。我らの中で一番大きいシディル殿と同じくらいか……?
「俺はこのホルト冒険者ギルドでマスターをしているバーナだ! あんたそんな細っこいのにソロか?」
「マスター?!」
受付嬢の慌てた声に被せるように
「……それは、どういう意味だ?」
若干、低くなった声で問う。
ついでに睨みつけると、流石に不味いとでも思ったのか、ぶんぶんと首と両手を振った。
「すまん、他意はない。アレはどんなカケラと言えども貴重でな、滅多なところでは手に入らない。それを持ち込んだのが初めて見る奴だというから驚いただけだ。……魔法士なら不思議でもないか?」
……何かを疑われたような気がしなくもないが、盗人の疑いをかけられたわけではなさそうだ。この際細かいことには目を瞑ろう。
魔法を使う者は魔法士と呼ぶのだな。覚えていくことが多い。
「使うのは魔法だけではないが、まぁそんなところだ。それで、買い取ってもらえるのか?」
「魔法剣士か! もちろんだ! さっき言ったとおり、これは貴重品でな、しかもかなり質がいい。鑑定に回すから少し時間がかかるが、待ってもらえるか? ボアも大きくて状態がいいから、高値で買い取らせてもらうぞ!」
……だから声がでかい。
目の前のウサギ耳の女性は、伏せた耳をさらに手で押さえている。さもありなん。
「わかった。ところで時間がかかるというのであれば、先にボアの買取だけでも済ませてもらう訳にはいかぬだろうか。情けない話だが、所持品を無くしてしまってな。昨夜から何も口にしておらんのだ」
「あんた、ポケット持ってなかったのか」
「……破損した」
これはシディル殿の受け売りである。
異次元ポケットは、その名の通り異次元につながるポケットや鞄で、容量や能力は形や質によって異なるが、共通点として、破損すると使えなくなり、中身も消滅するという。そのため、手ぶらを不審に思われたとしても、こう言えば大抵通るとのこと。
果たして。バーナと名乗った、ギルドマスターだという男が、盛大に顔を顰めた。
「あんた不運だなぁ」
「我もそう思う。こちらは連れの鞄に入っていて無事であったのが、不幸中の幸いだ」
「なるほど、そういうことなら、先にボアの清算だけしよう。牙の基本価格が2アズロ、両方揃いで5アズロ、角は1テルム。全て大きさで1.5倍、さらに状態が完璧なので2倍、締めて4テルムと5アズロだな」
……しまった。適正価格がわからない。
だが、正規の買取所で、嘘や誤魔化しが発生するわけがない、と信じたい。
頷こうとしたところに、1つの声が割り込んだ。
「マスター、違いますよ」
少し高い声の方に視線を向けると、尖った長い耳の少年が立っていた。
「ウィド? 何か間違えたか?」
「確かに価格と掛け率そのものは間違っちゃいません。でも、それは基本数値であって、この場合は当てはまりません。まぁ、今その金額で買い取っていたとしても、後で清算すればいいだけなので、構いませんけど」
ウィドと呼ばれた少年の、緑の瞳が我に向けられる。
「とはいえ、きちんと鑑定できるまでお待たせするのも、問題がありそうですね。では、先に5テルムお渡しするのはいかかでしよう。それでご用事は済まされている間に、『これ』ともども鑑定させていただいて、精算時に先払い分を差し引いた金額をお支払いします」
見た目に似合わない落ち着いた声に頷いてみせる。
「そうしてもらえると助かる」
「では、カードをお願いします」
あぁ、我を冒険者だと思っているのだな。確かにそれを装ってはいるのだが……。
「我は冒険者ではない」
「え?!」
「我はとある御方にお仕えして居る故、登録はしていない。……冒険者でないと買取はできぬか?」
「いえ、そんなことはありません。それではこれはおひとりで?」
「そうではない。だが、それ故にこういったところを利用したことも無くてだな……正直、勝手がわからぬ」
しつこいようだが、この世界にも来たばかりだからな。
「……色々と突っ込みたいところはありますが、ルール上、細かいことはお聞きできませんし、このまま買取を進めさせていただきます。……お名前をお聞きしても?」
「そうしてもらえると助かる。我の名はルチルと言う」
「ルチルさんですね。鑑定は1刻ほどかかるかと思います。それ以降なら、いつお戻りになってもかまいません」
「わかった。よろしく頼む」
銀貨1枚分は崩してもらい、小袋に入れた銀貨4枚と鉄貨10枚を手渡され、ギルドを後にする。
まずは腹ごしらえだ。
川の水以外、飲まず食わずで3日はそろそろ辛い。人化だけではなく、本性の外見を偽ったりと、地味に消耗したこともあるしな。
主と離れていることもあるかもしれない。だが、力が戻り辛いというだけで、断じて寂しいというわけではない。……恐らく。
屋台と露店で埋め尽くされた広場へ向かい、匂いを頼りに、店を物色する。
一番いい匂いをさせていた屋台で、鳥らしき物の串焼きと酒を買い、広場の端、やや高くなった場所へ移動した。
ここだと、全体を見渡せる。
……この串焼き、味付けはほぼ塩だけなのに、旨味がしっかりしている。コカトリスと書いてあったか? 織葉殿が好みそうであるし、覚えておこう。
それにこの酒。酒とはいえ酒精はほとんど含まれておらず、飲みやすい。恐らく水代わりであるのだろう。そういえば、織葉殿は酒が飲めるのであろうか。飲めぬというのであれば、酒精の含まれていない物を探さねば。子供の買っている物ならば大丈夫であろう。
腹ごしらえを済ませ一息つくと、今度は露店を物色する。
まずは異次元ポケットを探さなければ。身一つでいるのだから、持っていなければ逆に怪しまれるし、何より不便だ。
有ればの話だが、猫の姿の時にも持っていられる物が欲しい。もしくは服の一部と認識させられるような物。
露店を覗いていると、ちらちら見られているような視線を感じる。かといって見回すと、逸らされるのか感じられなくなる。……なんだというのだ。
微妙な気疲れを感じながら、広場に出ている露店を片端から覗いていくと、大小さまざまなクリップポケットやポーチを取り扱っている店がいくつかあった。
そのうちのひとつ、しっかりしたタープを張った店にあたりをつける。
「店主、異次元ポケットを探しているのだが」
声をかけると、品物の手入れをしていた男が顔を上げた。人間に似ているが、耳の先が僅かに尖っている。黒い瞳が、楽し気に煌めいた。
「うちのは全部そうだよ。どれくらいのをお探しだい?」
「……主流は?」
「駆け出し冒険者なら1~2テルムくらいのものかな。そこからランクが上がるにつれて、上質の物に買い替えていくよ」
見た目のわりに、軽い話口だ。若干、ティンの口調に似ている。
「では、3テルム程度の物を見せてもらえるか」
「こだわりはある?」
「言うほどのものはないが、両手が空けられて、かつ走るのに邪魔にならぬ物がいい」
「それならこの太ももで支えるタイプのベルトポーチはどうかな? 少し値は張るけどね」
「……いくらだ?」
「5テルム。中級に上がってきた奴らが買うレベルだね」
「それでどれくらい入るのだ?」
「『どれくらい』か。うーん……。3日かかるクエストに出かけても大丈夫なくらい?」
……なんだその微妙な例えは。
「わかり辛いな。ファングボアは入るか?」
「なんだ、あんた冒険者じゃないのか。死んでりゃよっぽどでかいんじゃなきゃ入るよ」
生物は入れられない、と。先日のあのサイズは微妙かもしれぬが、今回の買い物では、あのような質量にはならぬはずだ。
「わかった。だが、今はギルドの鑑定待ちで、手持ちが足りない。3テルム預けるので、取っておいて貰えないだろうか」
「良いぞ」
「感謝する」
「……なぁ、あんた店で買うの初めてだろ」
「なぜだ?」
「主流を聞いてきたり、価格を聞いて容量がわからなかったりするんだ。持っていたけど買ったわけではないって思うのが普通だろ?」
「確かに買うのは初めてだ」
持つのも初めてだが。
「あと値切らなかったし、露天商に前金渡したりな。前のはどうしたよ」
「……破損した」
そう言うと、店主はものすごい憐みの視線を向けてきた。不快ではないが、居た堪れない。
「次からは、破損する前に補修するか買い替えるかしなよ?」
「そうだな」
「そんな不運で値切ることもしない馬鹿正直な兄ちゃんには、もう少しだけ金を出せるなら水袋2つと布袋大小取り混ぜで10枚つけてやるよ。どうだい?」
「いくらだ」
「1アズロ」
ちらりと目をやると、水袋が3ステラしている。鞄の中がどうなっているのかはわからないが、何であれむき出しのまま入れるよりは、袋に入れたり布で包んだりして入れる方がいいだろう。
「わかった。それで頼む」
懐から金の入った小袋を出すと
「……財布もつけてやるよ。次から金だけは身に着けときな」
店主がため息を吐いた。
試着していけという店主の言葉に従って、腰のベルトに本体を取り付け、縦長のポーチの下の方に付いたベルトを太ももに回す。なるほど、揺れないだけ動きやすい。
「どうだい?」
「意外に馴染むものだな」
「身体に沿うように作ったからね」
「これは店主が?」
「ハーフリングは手先の器用さがウリだからね。空間魔法は他の奴にかけてもらってるけど、鞄やポーチは俺が作ってる。だから補修も受け付けてるよ」
「なるほど」
頷いて店主に前金を渡す。
「じゃ、待ってるからな」
にかっと笑った店主に、ふと思い立ち
「時に店主。布屋でいい店を知らぬだろうか」
と尋ねてみる。
「布? 服でなく?」
「主が欲しがっている」
「なるほど。……だったら、この道をまっすぐ行って、二つ目の路地を右手に入った所に有る店がおすすめだよ。露店じゃなくてちゃんと店構えてるから、質のいい物が揃ってる」
「なるほど。感謝する」
「俺はジャスパー。店に入ったら、俺の紹介だって言えばいいよ」
この街に長く居るのだろうとは思ったが、顔も広いようだ。
ポウといいジャスパーといい、人脈(と言っていいのか?)を持つ者と当たるのは、運がいいと言えばそうなのかも知れないが、この引きの強さは、織葉殿や神の影響だろうか。
教えられた通りの道を辿ると、確かにかなり立派な構えの店があった。扉を押し開けると、僅かに埃っぽい、独特の臭いが漂った。
店内を見回すと、奥から長身の女性が現れる。彼女はギルドで出会った少年と同じ、細く先の尖った耳をしている。
「どなた?」
「ジャスパーと言う露天商の店主の紹介で来たのだが、布を売ってもらいたい」
そう言うと、彼女はぱち、と目を瞬かせた。
「珍しいこともあるものね」
その言葉に首を傾げる。
「あの子が私の店を紹介することなんて今までなかったもの。貴方何したの?」
「なにした……」
特に何をしたという覚えはない。
「持っていたポケットを破損してしまったので、彼の店で新しい物を買っただけだが」
「ふぅん。布なんて買って何するの? 服なら露店の方が安いし種類も多いわよ」
……商売する気はないのか?
「主が欲しがっている」
「あら、士官なの?」
「貴族に仕えているわけではない」
「あ、そ。まぁいいわ。どんな布をお求め?」
……しまった、そこまで聞いてない。
色々とツメの甘さが露呈するな。
「……普段着を作るのではないかと思う」
「思うって、貴方」
「何を作るかは聞いていない」
そう言うと、彼女は一瞬沈黙した後、盛大に吹き出した。
「なぁにそれ!」
そのまま大笑いする彼女を前に、非常に居た堪れない思いを味わう。
しばらくして
「あー苦しい。笑ったりしてごめんなさいね」
笑いすぎて目元に滲んだ涙を指先で拭き取りながら顔を上げた。
「主様は男性? 女性?」
「女性だ。かなり小柄で体型が特殊な方である故……」
「なるほど、子供服じゃ、いろいろ無理があるのね」
うんうんと納得するように頷く。さすがに理解が速い。
「ちなみに予算は?」
「布の相場がわからぬのだが、3~……」
「ねぇ」
答える最中に、いきなり話を遮られる。
「なんだ」
「それ」
そう言って彼女は我の胸元……おそらく正確には懐を指さしてから、手のひらを返した。
「見せて頂戴な」
……魔晶石のカケラか。
「なぜわかった?」
「とても澄んだ力を感じたの。エルフはもとより魔力と親和性の高い種族だけど、私は特に感知力が高いの」
ここまで確信されているなら、隠す方が不自然であろうな。
懐に入れていたカケラをつまみだすと、彼女が息を飲んだ。
「入手経路は言えぬが、誓って盗品ではない。それと、我がこれを持っていることは他言無用としてもらいたい」
「客商売は信用第一だから安心して。相手が犯罪者でもない限り、お客様の情報を漏らすなんてありえないわ」
そう言いながら、目はカケラに釘付けだ。
「こんな純度の高い……。ねえ、もしかしてこれをギルドに持ち込んだの?」
「もっと小さい物だが。あとファングボアの牙と角」
「……貴方ホントに何者なのよ」
ため息のような言葉に、沈黙を返す。
「まあいいわ。こんなもの持ってるなら踏み倒されるなんてないでしょうし、見繕ってあげる」
「頼む。正直に言うと、我にはどのような物がいいのかわからぬ」
「でしょうね」
肩をすくめた彼女は、楽しそうに反物を引き出していく。
それを見ながら、ふと先ほど鐘の音がしていたことを思いだした。
「すまぬが鑑定がそろそろ終わっているはずなのでギルドに戻ろうと思う。あまり長く待たせてしまうのもどうかと思うのでな」
「そう。まあ、ここに居ても退屈なだけでしょうし、いってらっしゃいな。次の鐘が鳴るころまでには選んでおくわね」
「よろしく頼む。担保としてこれを置いて行こう」
先ほど彼女に見せたカケラを反物の山の隣に転がす。
「別にいいのに。ところで主様の髪と瞳の色は?」
「……なぜ?」
「普段着用の布なんて生成りか灰色しかないもの。何か差し色があった方がいいでしょう?」
「そうなのか?」
「女性なんでしょう? だったらそれくらいしてあげなきゃ。で?」
「銀と……青紫、だろうか。夕暮れの空の青に似ているやもしれぬ」
「なるほど、なんとなくわかったわ。じゃあ、また後でね」
頷いて、店を出た。
空を見上げると、まだ日は高い。この時間を使って買い物を済ませて、布を受け取ったら帰ろう。
先程の会話で織葉殿を思い浮かべたら、無性に会いたくなってしまった。
真珠色の光沢を纏わせた銀の髪、烟る桔梗色の瞳。豪快にして繊細な我が主。
離れてすでに3日目。帰り道にまた1日半はかかる。
ため息をついて頭を振ると、いくつかの露店に目星をつけながらギルドへ向かった。
到着すると、鑑定は既に終わっていて、その提示された金額に目を瞬かせた。口頭ではなく文書で提示されたせいでもある。
「……こんなに?」
「おう。実は俺も驚いた」
「マスターは黙っててください。では確認お願いしますね。こちらがボアの牙の金額、これが角、こちらがカケラの金額です」
……牙が2本合わせて3テルム、角が5テルムに値上がりしたのも驚きだが、何だこの30テルムとは。
持ってる中でも一番小さかったあのカケラでこの金額になるなど、さっき布屋に預けたやや大きめのカケラだとどうなるのかなんて、考えるだに恐ろしい。
「それでな、申し訳ないんだが、うちのギルドじゃ、これだけの金を一括では渡せないんだ。というか、今渡しちまうと、他のモンが金を下ろせなくなる。前もってわかってたら用意もできるんだがな」
銀行業務もやっているとは、本当に多機能だな。
「どうすれば?」
「手形を発行することもできるが、それだと下ろすたびに新しい手形を発行しなきゃいけなくなるんだよ。一番手っ取り早くて今後の面倒が少ないのが、あんたが冒険者登録をして口座を持つことなんだが」
「手間を減らしたいが為に言うのはどうかとも思いますけど、確かにそちらにとっても悪いことではないと思います」
なるほど。言いたいことはよくわかった。
「申し訳ないが、我の一存では決めかねる。現金は10テルムなら受け取っても大丈夫だろうか」
「それくらいなら問題ないな」
「ならば、残りは手形を発行してもらいたい。持ち帰って主と相談してくる」
「ああ、そういや誰かに仕えてるとか言ってたっけな。貴族か?」
「違う。だが、女神にも等しいお方だ」
我にとってだけでなく、この世界にとっても。
「はー。そこまで堂々と惚気られるとなんも言えんなぁ」
「惚気るなど恐れ多い」
きっぱりと言い切ると、バーナは黙ったまま肩を竦めた。
「まぁ、俺にゃ関係のない話だからな。じゃあ、その主サマとやらと話し合ってきてくれ。じゃあこれ、現金10テルムと、23テルムの手形だ。手形に有効期限なんぞないからいつでもいいが、あんたみたいに腕のよさそうな奴が登録してくれると嬉しい」
「なぜ腕がいいと?」
「運も絡むが、魔晶石のカケラなんてここらじゃ不帰の森くらいしか採れるところはない。あのサイズだとそれなりに深部まで行かないと採れないし、そうするとそこへ行って帰ってこれるってことだ。加えてあのサイズのボアの角や牙を完璧な状態で持ち込んでくるってことは、さほど手こずること無く倒して、かつ完璧に解体できるってことだろう? 腕がよくなきゃそんなことはできんよ」
……不帰の森の最深部が住処であるし、ボアは我ではなく織葉殿とティンの仕事なのだが、まぁいい。そんなことは彼らの知る由も無いところだし、ここでそれを言っても更に困惑させるだけだろう。
「検討する」
短く答えると、代金と手形を預かってギルドを後にした。
さぁ、帰る準備を始めよう。
通貨と暦の概念を、序章ラストに上げました。
書き直し以前からはかなり変更しましたので、よろしければご覧ください。




