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イカロスの恋

作者: そら

 思いついて書いたはいいけど、また誤字とかあったらごめんなさい。


 書いた勢いのままポチっと投稿です。


 ありがとうございます、誤字を直し最後に一文つけくわえました。

  東京都に区分されるといえど、橋1つこえれば他県に入るという、都内のその片隅で生まれ育った私、高坂みどりは、どちらかと言えば小学校の低学年までは、子供らしく自由にのびのび育っていたと思う。


 両親が離婚して母とともにその実家である下町に赤ん坊の時に身を寄せた。


 元々住んでいた所も駅1つ先で、生粋の下町っ子だ。


 祖父母も母も働いて、やっと普通に暮らしていける生活で、そのため赤ん坊の頃から私の時間の殆どが保育園の中で埋まっていた。


 早朝から遅くまでいる子供達は、その保育園の規定の時間外の時は1つのクラスに集められ、その年齢に関係なく過ごしていた。


 私は大人しく絵本を読んでいるのが好きで、広い保育室の突き当たりの壁ぎわに座り込んではいつまでもそこの夢の世界で時間をつぶしている子だった。


 その私のお気に入りの場所に同じ月組の女の子、佐渡梨花ちゃんが混じってきたのはいつのころからかは覚えていない。


 いつのまにか梨花ちゃんは、よく私の所にきては一緒に絵本を見るようになっていた。


 梨花ちゃんはふわふわとした可愛い子で、発表会ではいつもお姫様の役をするような子だった。


 お父さんとお母さんが大学の先生で、その為いつも私と同じように早く園にきて同じように遅く帰る子だった。


 その梨花ちゃんには、いつも一緒にいる幼なじみの男の子がいた。


 ヒロ君と呼ばれるその子の親も同じ大学で働いていて,どちらかの親の早くきた方が2人を一緒に引き取って帰るのが日常だった。


 そのヒロ君はいつも梨花ちゃんといることが多いので、梨花ちゃんが私の所にくるとヒロ君もついてくるようになった。


 私はいつも私を睨むように見るヒロ君が初めは苦手だったけど、それにもいつしか慣れた。


 絵本を読むのにすぐ飽きるヒロ君が梨花ちゃんを連れ鬼ごっこやヒーローごっこを皆を巻き込んでするのに、私も自然と梨花ちゃんに手を引かれて仲間に入って参加するようになっていた。


 保育園の時代は本当に無邪気に楽しんで、自分の思いがけず活発な所が外遊びで花ひらいた時でもあった。


 そういう日々を送ってそのまま私たちは同じ公立小学校に入学した。




 ヒロ君、こと鴻上弘道が保育園同様すぐに小学校でもリーダーシップを発揮して、同じ1年生の私と梨花ちゃんはちょっとだけ楽ができた。


 梨花ちゃんが一緒に学校にいこうと誘ってくれて、必然的にヒロ君も一緒に登校するようになって、3人はいつも一緒にいた。


 見た目と違って自己主張もちゃんとでき、私を気遣ってくれる優しさを持つ梨花ちゃんや、俺様だけどその仲間に認識された人間には、とても面倒みのいいヒロ君と3人で楽しく過ごしていた。


 宿題を大きなヒロ君ちや梨花ちゃんの家でして、私の分も置いてくれているおやつを食べて、急いでクラスのみんなが集まる公園に飛び出して、思いっきり遊んだ。


 小さな工場で働く祖父母やスーパーで働く母の帰りが遅い私は、そのままタはんまでご馳走になって帰る事も多かった。


 何も考えないでただただ遊び疲れて寝て、また次の日がはじまる、そんな日々だった。


 けれど4年生も終わる頃には、憧れの王子様とお姫様の2人のそばに1番近くいる平凡な私は、他の子の嫉妬の言葉や非難の言葉にさらされることが多くなった。


 自然と耳に入る周りの大人の言葉にも、私はひどく傷ついた。


 私は「図々しい」という言葉に萎縮するようになった。


 私の様子が少し変になって、ヒロ君や梨花ちゃんがそれを知ると、2人は驚くほど怒ってくれて、梨花ちゃんちのおじさんやおばさんも、気にしないように言ってくれた。


 私はそれらに安心して2人のそばにいてもいいんだと、私は悪くないと自分に言い聞かせていた。




 中学校も地元でとのおじさん達の方針のおかげで、中学校も同じ公立に一緒に3人で通えた。


 私は、気がつけば皆のリーダーで強くて優しいヒロ君にいつしか淡い思いを抱くようになっていた。


 そうして初めて私は今まで見ようとしなかった事に気づいてしまった。


 いつもいつもヒロ君が1番に気をかけているのは梨花ちゃんだということを。


 保育園の時からそうだった。 


 小学校の時もそうだった。


 自分の思いを自覚したのと同時に、「梨花ちゃんのおまけの自分」である私は諦めることを覚えた。


 一緒にいるからこそ、さまざまな場面でヒロ君が梨花ちゃんを大切にしているのを毎日見る。


 例えば梨花ちゃんが忘れものをすれば、すかさず自分が走ってとりにもどり、一緒に休日出かける約束をしても、梨花ちゃんの都合がつかなくなれば自然消滅する、私がいけない時は普通に出かけるくせに。


 私はわかっていてもよく布団に隠れて、それが悲しくて泣いた。




 今でも同じように泣きたくなるけど、ヒロ君の梨花ちゃんへの思いは諦めてるくせに、自分のヒロ君への思いは全然諦める事ができなくて、今もこうしてそばにいる。


 せめて誰にも文句を言われず、堂々とそばにいたいと、勉強も運動も必死に頑張った。


 中学校でヒロ君が生徒会長に、梨花ちゃんが副会長になった時には、私も書記に立候補して同じ生徒会の役員になった。


 もし小学校の時のように2人に釣り合わないと言われても、今の私は胸をはって反論できる。


 だからどうかそばにいさせてと心から願っていた。


 中学校で初めた陸上のハイジャンプでは都大会でもかないいい成績を収めて、勉強もトップクラスまで頑張った。


 今はめんとむかって嫌みを言う人はいなくなった。




 お邪魔虫なのは知ってる。


 だからいつも2人のそばで私は笑ってる。


「笑え、笑え、ピエロのように」心の中でその言葉を何回も呪文のように繰り返す。


 だって離れるなんて耐えられない、誰よりも近くでせめて見ていたい。


 本当はヒロ君と梨花ちゃんの2人で綺麗に完結している世界だってわかっている。


 けれど、私の心が言うことを聞かずに、ただそばにいたいと泣くんだもの。





 そんな関係が劇的に変化したのは同じ高校に入学して、あいもかわらず生徒会長にヒロ君が、副会長に私と梨花ちゃんがなった2年生の時だった。


 進学高のため、6月に体育祭が毎年行われる。


 結構なんやかんやうちの生徒は行事にみな熱くなる。



 そしてそれがおきたのは女子の種目「全クラス対抗むかで競争」の時だった。


 各クラスの女子全員ではちまきを足首につけ、お互いの右足と左足を縛って一列につながり校庭を一周してタイムを競う競技だ。


 1人でもタイミングが狂えば雪崩のように全員倒れてしまう。


 各クラスとも時間を見つけては練習に励んだ。


 二組にわかれスタートして、ゴールまであと少しという時、私の前を走ってる梨花ちゃんの動きがおかしくなった。


 予選タイムをかけてデッドヒートをしていた相手に焦った先頭の方の誰かが乱れて崩れはじめたらしい。


 私はどうしようもなく前に倒れこむ梨花ちゃんの上に、同じようにかぶさるように倒れこみながらも、とっさに梨花ちゃんを庇うように腕に体に力をこめ梨花ちゃんの負担にならないような動きをしながら同じように倒れ込んだ。


 後ろから数えた方が早いのが幸いして何とか梨花ちゃんにあたる圧力を逃したけど自分の右足首に走る鈍痛に眉をしかめた。


 私が梨花ちゃんに大丈夫かと声をかけると、梨花ちゃんは私が庇ってる体勢をみて、私を心配そうに見ながら大丈夫だと答えた。


 私がほっとしながら体をずらして後ろの子とはちまきをもう一度直していると、大きな声で大丈夫かと声をかけながらヒロ君が私達のところに駆けてきた。


 そうして私たちを見ながら、倒れて座り込んでる梨花ちゃんのそばにいき、そのまま抱えて救護テントに向かっていった。


 梨花ちゃんが大丈夫だからと降ろしてと騒いでいる声が遠く聞こえてくる。


 そのままいつもの過保護王子降臨と周囲は笑って、残った私達はまた目の前のゴールに向かって走った。


 この瞬間、すぐそばにあるゴールにむかう一歩ごとに私の中がサラサラと綺麗に崩れていった。


 何だろう?私の中で何かが、このむかで競争の最中に崩れていった。


 今まで通りの2人の光景なのに、心の奥深くがしんしんと凍りついていく。


 凍りついたそれはあっという間に崩れ、それまでの私を壊していく。




 その後、足首にひびが入っていた私は、ハイジャンプへの影響を周囲に心配され、これでも強化選手のはしっこにいたので大事をとって代休をはさんで都合一週間ほど学校を休まされた。


 トレーナーの方の好意に甘えてその間その方の勤める病院に通っていたので、学校を休んだ事のない私は、久々に思える学校はとても新鮮だった。


 教室でクラスメイトとおしゃべりに興じていると、私に声がかかった。


 梨花ちゃんだった。 


「みどり、元気そうで良かったぁ。今日からくるんなら連絡ちょうだいよぉ。もぉ~、いっつも大事なこと言わないんだから!聞いてんの?」


 そう言って可愛くふてくされる梨花ちゃんだった。


「愛いやつじゃ~!」といって私がふざけると、周囲の友人たちはクスクス笑った。


 私も笑い、梨花ちゃんも笑い、とても柔らかい気持ちの良い朝の時間になった。




 梨花ちゃんに「今日の帰りは何時にする?」と聞かれたので、私は普通に「帰らないよ」と答えた。


 冗談だととらえた梨花ちゃんは笑ってそのまま授業のはじまる席についた。


 私はその日から一緒に帰る事はなくなった。


 病院にいくからだと2人は思っていたみたいだけど、足首が直ってからも私は2人とは帰らなくなった。


 いつもなら生徒会や部活の時も、自然と3人合わせて帰っていたのに。


 いぶかしく思った周囲の人間に聞かれると、「さすがにお年頃の2人のお邪魔虫にはねぇ~」と笑いながら言うと、「まさかの親離れか~」「わかる、わかるわ~、やっと気がついたの?それ遅すぎ!」と好意的に受け止めてくれた。




 あれから私はなおいっそう自分1人の力で空を目指す、ハイジャンプの魅力にとりつかれた。


 私は時間の許す限りグラウンドにいる。


 ふわっと浮き視界いっぱいに広がる空は、その瞬間は私だけのもの。


 重力に解き放される錯覚に、その自由さに、空の広さに私は酔いしれる。


 一緒にいるために必要だったそれが、心から夢中になれるものに変わって、自分でも最近の自分はキラキラしていると感じる。


 そのせいか笑っちゃうことに、私のファンクラブなるものが出来たらしく周囲が少しかしましくなった。


 生徒会にも所属し、ハイジャンプをしている姿に憧れていたけど、いつも王子様とお姫様がそばにいて近寄る勇気が持てなかった、そう言われる。


 私はそういう全てが自分にとってまるで膜1つ隔てたところの出来事のように感じていた。


 ハイジャンプをしている時以外、全てはそんな感じだった。


 もちろんそれを周囲には感じさせる事はしないけど。


 初めの頃は梨花ちゃんが私にまとわりつくようにそばにきては納得いかないと言っていた。


 私が「もう1人でも大丈夫だから、今までありがとう」と心から感謝を伝えると、私達ってそんな仲じゃないだろうとひどく怒った。


 私にはその言葉の意味が理解できなかった。


 何かを言い続けているけど、私にはその言葉が入ってこない。


 だから、事実を端的に伝えた。


 もう2人のお邪魔虫は廃業したと、簡潔にわかりやすく。


 梨花ちゃんは驚いたように目を開き「ヒロとは家族みたいなもので、お互いそんな感情なんて地球がひっくり返ってもないから!」


「だいたいあいつは、ずっと昔から好きな子がいるし!」


 そう言いながら、頭に手をやりながらしゃがみこんで、「あのヘタレのせいで!だから早く何とかしろって言ったのに!あ~もう、あったまきた!あいつのせいだ!文句いってやる」そう言って駆けていった。


 それからも生徒会で一緒に仕事をしている時や教室でも、私によく話しかけてくれるけど、あまり現実のように思えなくて、どこかテレビを見てるみたいに遠く感じて反応の薄い私を悔しそうに、悲しそうに最後は見てくる。


 最近、ヒロ君が生徒会室で時々じっと私を見て何か言いたそうにしてくる。


 あんなに欲しかったその視線を、今の私は他人ごとのように感じる。


 だから私は何も知らないふりをする。


 普通の役員同士、可もなく不可もない付き合いだ。





 タッタッタッ、と呼吸を合わせて軽快に走り私はダン!と足を蹴り体を浮かせて空に向かう。


 バーを越える瞬間、のけぞる私の視界は全て空に覆われる。


 あっという間の昇天と堕天。


 シンプルな何ものにもかえられない至福の時。


 マットに横になって大きく伸びをする。


 その視界の隅に映る生徒会室の窓辺に立って、グラウンドをのぞいている背の高いがっしりとした人影がある。


 まるで定点観測みたいに気がつけばいつもそこにいる人。


 いつもは影になってわからないその表情が、揺れるカーテンの隙間から夕日に照らされて見えた。


 ひどく暗いくせに、それ以上に強い眼差しは熱い温度を感じさせる。


 あの穏やかで自信に満ちあふれていた私の記憶にあるそれとは全然違う。


 まるで別人のようなヒロ君を視界にとらえたけど、私はそれをきれいにそのまま流す。


 まだまだ今日も飛びたりない。


 最後の足の踏み込みの角度を脳裏に再現し、私はまた全てをリセットし立ち上がった。


 その時には先ほどの光景はもう頭には残っていなかった。






 




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― 新着の感想 ―
ランキングで目にする度に読んでしまいます!!続きを書く予定がありましたらぜひ読みたい!!!!!です!!!!!!!!!
[気になる点] 最後の方の梨花の発言から判断すると相手の男が主人公の事が好きだったように読める点。思春期特有の素直になれない・すれ違いがあったとして、常に梨花優先&トドメに足にひび入った主人公放置で梨…
[一言] 主人公にとって、長年の友人ふたりに関する最後の記憶といった印象ですね。 「学校を卒業したら縁が切れる」現実でもよくある話です・・・。 同窓会の範囲指定細分化(部活動ごと、当時の友人のみ、現…
2023/05/31 09:52 退会済み
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