それでは出発です!
家を出て、王宮に向かう道すがら屋台で串焼きなどを軽く摘んで朝食を摂る。
「お兄さん、いい男だからオマケしとくよ!」
屋台の女性が串焼きを一本追加してくれた。
「ありがとう、うん!うまい!」
俺は笑顔でオマケの串焼きを受け取りかぶりつく。
「〜〜///、いい喰いっぷりだねお兄さん///」
屋台の女性はポ〜ッとなって瞳を潤ませ頬を赤らめて俺を見ている。
「ごちそうさま!お代は幾らだい?」
俺は懐に手を入れて尋ねる。
「銅貨3枚でいいよ」
俺は懐から銅貨3枚を出し女性の手を取り握らせながら笑顔で。
「美味かったよ、ありがとう」
そう言ってその場を後にして、王宮に向かった。
「いえ〜♡ どういたしまして〜♡」
屋台の女性は顔を真っ赤にして完全に熱に浮かされた顔をして俺が立ち去るのを眺めていた。
王宮の正門に到着すると既に準備は出来ていたようで、馬車が6台並んでいた。
その中で5台は帆馬車と言う馬車の天井に皮が張ってあり軽い雨なら凌げるようになっている。
最後の一台は白塗りの豪華な箱馬車で多分王族用だと思われる。
馬車は全て3頭の馬で引くらしい、どの馬車も馬が3頭繋がれていた。
「おはようございます!教官殿!」
到着した俺に気付いたのかケビンが近付き挨拶をして来た。
「おう!おはよう、ケビン!出発準備は完了か?」
俺がそう尋ねると、ケビンが答える。
「はっ!後はセリーヌ王女殿下の到着を待つだけであります!」
「ふむ、そうか…そう言えば今回俺はどの馬車に乗れば良い?」
すると、ケビンは申し訳無さそうな顔をして白塗りの箱馬車を指差した。
「…あちらの馬車になります…」
「……あれか?あれは王族用だと思うんだが?」
ケビンは本当に申し訳無さそうな様子で溜息を吐き話し出す。
「はっ!セリーヌ王女と侍女2人、そして教官殿が乗る事になります!」
「……嘘だろ?なあ?冗談はやめろよ?」
「いえ!冗談ではありません!」
俺は空を見上げながらワナワナと震える。
「お前は俺を殺す気か!1週間同じ馬車なんて軽く死ねるわ!!」
俺はケビンの両肩を掴み睨みつけながら叫ぶ。
「も…申し訳ありません!サー!」
ケビンは怯みながらもなんとか返事をする。
「す…すまん、取り乱した。」
俺は冷静になり、ケビンを睨んでも状況が良くならないと思い直してケビンに謝罪する。
「しかし…どうするか…」
俺があの箱馬車を回避する為に考え込んでいるとケビンが。
「恐れながら!進言させていただいてもよろしいでしょうか!」
ケビンが何か思い付いたのか、俺に意見してきた。
「教官殿は乗馬は出来るのでしょうか?」
「ん?あぁ、馬ぐらい乗れるさ……!なるほど!」
何も馬車に拘らなくても馬で併走すればいい。
「お気づきになられましたか!流石です!」
ケビンが我が意を得たりと言う顔で頷く。
「馬はあるのか?」
「はっ!こちらです」
ケビンに案内されて、王宮の裏にある馬舎に向かった。
馬舎には、馬が数十頭程居るが、俺が馬舎の中に入ると一頭の真っ黒な馬が奥から歩いて来た。
その馬は、サラブレッドの様なスマートな体格でしかし、しっかりと肉も付いているとても綺麗な馬だった。
「ん?こら…やめろって」
その馬が俺の顔をペロリと舐めて擦り寄ってくる。
俺はつい可愛くなって鼻筋を撫でる。
「馬の方から来るとは…流石教官殿です!」
ケビンが感慨深気に俺たちを見ているとケビンの背後から1人の男性が出てきた。
「馬の方から進んで出て来るなんて、俺でも初めて見たぞ!」
「ケビン、彼は?」
「はっ!彼はこの馬舎の管理を任されているホース男爵であります!」
ホース男爵と呼ばれた彼は歳の頃二十代前半といったところだ。
身長は160㎝程で顎髭を蓄えて男臭い笑みを浮かべている。
「ホース男爵!こちらは私達の教官殿であられます、ユウ・シンドー殿です!」
「ユウ・シンドーです、よろしく」
俺は右手を出し握手を求める。
すると、ホース男爵は俺の差し出したてを握り握手を交わす。
「しっかし驚いたぞ!馬が自分から初対面の人に寄って行くなんて…この国だと初代国王ぐらいじゃないか?」
「そうなのか?まぁその話は今はいいか…それより馬具を貸してくれないか?」
ホース男爵は、ゴソゴソと倉庫らしき場所を探す。
「あぁ……あったあった、コレだよ付け方は分かるか?」
渡された馬具はベルト2本で固定する様に出来ていて、簡単に取り付けられた。
俺は、ひらりと馬の背に乗ると首筋を撫でてホース男爵に尋ねる。
「こいつの名前はなんて言うんだ?」
「そいつの名前はエヴァだよ」
「そうか…エヴァ、行こうか」
俺はエヴァに外に出るように足でエヴァの腹をトンッと軽く叩き語りかける。
エヴァはトコトコと軽い足取りで、王宮の正門に向かった。
正門には既にセリーヌ王女も到着した様で箱馬車の側で立っていた。
「その馬…どうしたの?」
「馬舎で借りました」
王女は凄く驚いた様な顔をして俺に尋ねて来たので、俺は何でもない様な顔で答えた。
「何で乗ってるの?貴方は私と一緒の馬車に乗る筈なんだけど?」
セリーヌ王女はプルプル震えながら笑顔で話しかけてくる。
「私が受けた依頼は護衛ですので…馬上の方が都合がいいのです。」
ここでセリーヌ王女に癇癪を起こされても面倒なので、俺は笑顔で子供に話す様に優しく諭す。
「〜〜/// もういい!わかったわ…貴方がそれで良いなら何も言わない!」
セリーヌ王女は頬を赤らめプイッと逸らし、箱馬車の中に入って行った。
正直鳥肌がヤバかった…。
「それじゃあ、そろそろ出発するか!」
俺がそう言うとケビン達が馬車の中に乗り込む。
そして、ゆっくりと馬車が走り出した。
王宮から街中に移動すると人々が手を振ってくる、さながらパレードの様だ。
移動の際に家の側を通るとマリアとカレンが二階の窓から手を振っていたので振りかえす。
俺たちはパストの街を出て一路オスカー領を目指した。




