出発初日です
遂に出発の朝が来た。
俺たちは、身支度を整えて集合場所の西門前に移動する。
昨日ジルの部屋で依頼書と一緒に渡された書類の中に入っていた紙に集合場所は西門前だと書いてあったからだ。
俺たちが西門前に着くと、そこにはお通夜に参列する様な顔で騎士達が並んで立っていた。
「なんでそんな辛気臭い顔してるんだ?」
俺は列の一番前に居るケビンと呼ばれていた騎士に問い掛ける。
すると、ケビンは。
「なんでって…このまま帰ってもどの道、騎士団はクビだし、恥の上塗りになるよりはいっそこのまま…」
ケビンは更に沈んだ顔になる。
「なるほどな……お前達はそれで良いのか?」
俺は挑発する様に問い掛ける。
「いい訳ない!けど…けど、どうしようも無いじゃないか!一番隊に勝てる訳ない!」
ケビンは拳を握り締めながら叫ぶ。
「何故やる前から諦めている?やってみないと分からないだろう?」
するとケビンは、歯を食いしばりながら。
「あんたには分からんさ!そんなに強いんだ!一番隊にだって勝てるだろうさ!だが、俺たちは奴等とは何度も模擬戦で戦ったんだ!結果はわかるか?50戦だ!50戦全敗!惨敗さ!」
俺は不敵に笑いケビンの目を見ながら。
「次も負けるとは限らんだろう?悔しくは無いのか?」
ケビンはキッ!と俺を睨みつけて。
「悔しいに決まっている!でも……」
「ならば、付いて来い!お前達が強くなれる様に俺が鍛えてやる!」
ケビンや他の騎士達がハッ!と顔を上げる。
「ただし、俺の訓練は厳しいぞ!それで良いなら俺の後に付いて来い!」
「「「はい!!」」」
ケビンや他の騎士達の目に光が戻ったのを確認した俺は満足気に頷き西門から外に歩き出した。
門を出て、まず俺は【無限収納】から先日作った馬車を出す。
「よし!グラ、元の大きさに戻ってくれ」
「クー」と一鳴きしてグラが元の大きさにもどる、騎士達は驚いていたが気にしない。
そして、グラに馬車を取り付けて騎士達に向かって上下関係をハッキリさせる為に命令する。
「貴様ら!馬車に乗車せよ!駆け足!」
騎士達が乗車したのを確認して。
「よし!全員乗ったな!グラ、頼むよ…出発!」
グラがゆっくり歩を進め馬車が動き出す。
暫くそのまま進み、街が見えなくなるあたりで馬車を止める。
ここで止めたのは、訓練を始める為だ。
「貴様ら!全員馬車から降りろ!」
騎士達が全員降りたのを見計らいマリアが作ったオークの皮の服とオークの剣を渡す。
「その服に着替えろ!モタモタするな!」
騎士達は急いで着替えている。
「その服が貴様らの訓練用の装備だ、大事に使え!もし無くしたら裸で訓練させるからそのつもりで居ろ!」
すると、騎士の一人が反論してきた。
「黙って聞いていれば…貴族の我々に裸でいろだと!ふざけるな!」
「ふん!ふざけるなだと?貴様こそ調子に乗るな!」
俺は反論してきた騎士にビンタを打った。
パ〜ンといい音が鳴り騎士が倒れる。
「な…殴ったな!親父にも打たれた事無いのに!!」
「豚に掘られた貴様らは貴族でもなんでも無い!唯の豚だ!豚を殴って何がいけ無い!」
騎士達は全員が親の仇を見る様に俺を睨みつけた。
「なんだ?文句があるなら掛かって来い!」
俺は右手を前に出しクイックイッと手招きして挑発する。
「クッソ〜〜!!舐めるな〜〜!!」
さっきビンタを打たれた騎士が殴りかかって来る。
一発、二発とパンチを撃ち出すが俺は余裕で躱し、さっきビンタを打った反対側の頬にさっきより強めにビンタを打った。
打たれた騎士は衝撃でその場で一回転し、崩れ落ちる。
「どうした貴様ら!ほら、どんどん掛かって来い!」
「「「うお〜〜!!」」」
騎士達は全員で掛かって来たが、俺には触れることもできず、全員ビンタ二発で崩れ落ちた。
それから、全員が復活する迄暫く掛かり、復活する頃には昼になっていた。
「全員整列!これより、訓練を開始する!」
騎士達は全員囚人の様な顔で整列する。
「貴様らがまず行う訓練は、コレだ!」
俺は馬車を指差す。
「この馬車を貴様ら全員で動かし王都へ向かう!わかったか!」
「「「はい!!」」」
「これからは、俺の事は教官と呼べ!そして返事はサーイエスサーだそれ以外は罰を与える!わかったか!」
「「「サーイエスサー」」」
「では、行動開始!!」
「「「サーイエスサー」」」
騎士達は馬車に取り付き、前から引き後ろから押して馬車を動かそうとするが、馬車はピクリとも動か無い。
「ぐ〜〜」「が〜〜」「ん〜〜」
騎士達が顔を真っ赤にさせながら叫ぶ。
「この豚共が!ブヒブヒ鳴いてないでもっと気合いを入れろ!」
「「「サーイエスサー」」」
掛け声で気合いが入ったのか馬車がゆっくり動き出した。
それから、夕方まで馬車を引かせて、夕食を嫁達が作り焚き火を囲んで座らせる。
メニューは、街の買った野菜や肉の炒め物にパン、それとあっさりしたスープ。
「さぁ!食え!だが、まずは貴様らの食事を作ってくれたものに感謝しろ!」
「「「マリアさんカレンさんいただきます!」」」
「よし!食べろ!」
騎士達はガツガツとがっつきながら食べていた。
そして、騎士達は馬車の中で泥の様に眠っていた。
こうして、騎士達の出発初日が終わった。
俺たちは3人で夜の見張りをする為ここからが本番だ。




