領主からの依頼、王宮からの依頼
オークとの戦いが終り1日が経った。今、俺と嫁さん達は、ジョージの街の領主の館に来ていた。
領主の館は石造りのこの街で一番大きな建物で、中に入ると豪華では無いが質素と言うほどでも無くアンティーク系の趣味の良い家具が並んでいた。
建物の中では、白髪をオールバックにして綺麗に顎髭を整えた、いかにも執事と言う人物が待ち構えていた。
「いらっしゃいませ、ユウ・シンドー様でいらっしゃいますね?」
「えぇ、そうですよ」
「私は、当館で執事をさせて頂いているセバスチャンと申します」
「主がお待ちです、こちらにどうぞ」
俺たちは部屋の前まで案内される。
「コン、コン」
セバスチャンがドアをノックすると中から声がした。
「どうぞ」
「失礼します、ユウ・シンドー様とその奥さま方をお連れしました」
セバスチャンがドアを開けて中に入る。
俺たちもその後に続く。
「やぁ、僕がセントジョージ領の領主、レン・セントジョージだ!よろしく!」
部屋に入ると、貴族らしい服を着た爽やかな好青年が握手を求めて来た。
俺は貴族が相手なので、少し改まって。
「私は、冒険者で鍛治師のユウ・シンドーです、よろしく」
と言って手を握る。
すると、後ろに立っている嫁さん達が。
「妻のマリア・シンドーです」
「同じく妻のカレン・シンドーです!」
2人が自己紹介をし終わると、レンが椅子に座る様に促す。
俺たちは椅子にレンと対面で座る。
「まずは、この街を守ってくれた事、領主として礼を言う、ありがとう」
とレンは頭を下げる。
「こちらも仕事だ、気にしないで下さい」
「それでも、ありがとう」
レンはもう一度頭を下げる。
これ以上この話題では不毛だから俺は本題をきりだす。
「それでは、そろそろ何故私達が呼ばれたのか説明して頂けますか?」
「じゃあ、単刀直入に言うよ、実は…あのオーク…オークエンペラーに囚われていた騎士が30人程助けられたんだが、オークに囚われていたのがトラウマになって使い物にならないんだ」
「それで?」
「このままだと、居ても邪魔になるだけだから王都に帰したいんだか、そのままでは多分帰る途中で魔物や盗賊に殺されてしまうんだ」
「つまり、騎士達の護衛をしろと?」
「その通り!話が早くて助かるよ!」
レンは笑顔で手をパン!と鳴らす。
「受ける事で私達のメリットは何でしょう?」
「う〜ん、そうだね〜、金貨100枚でどう?」
「貴族30人の護衛でしかも王都迄の道のりを考えると拘束期間が20日間で考えると…割りに合わない」
「そっか〜、う〜んでもこれ以上は…」
「では他の冒険者を当たって下さい。もう、他に話が無いのならこれで失礼します」
俺が席を立とうとすると、レンが慌てて止める。
「まって!待って!わかった!金貨150出すからさ!」
「200枚!」
「わかった!200枚出す!」
「それでは、お受けしましょう」
俺が依頼を受ける事を伝えるとレンは安堵したようで、表現を柔らかくして。
「良かった、まぁ詳しい事はギルドマスターに聞いてくれ、彼の推薦で君達に決まったんだ」
「わかりました、では失礼させて頂いても?」
「あぁ、もう良いよ。ありがとう!」
「それでは、失礼します」
「「失礼します」」
俺たちは領主の館を後にした。
それから俺たちは、依頼の詳しい内容を聞くためギルドに来ていた。
「済まないが、ジルは居るか?」
俺が受付で聞くと。
「は、はい!今はギルドマスター室にいらっしゃいます!」
すると、周りの人たちがヒソヒソと話している。
「おい!あいつらがあの、オーク達を倒した奴らしいぞ!」
「強いの?」
「バカ!あいつら3人でオーク1000体を虐殺したんだぞ!強いなんてもんじゃね〜よ!」
「なんだそりゃ!バケモンじゃね〜か!」
「だからよ、あんまり関んなよ、命が惜しかったらな」
「あぁ、触らぬ神に祟りなしだな!くわばらくわばら」
概ねこんな感じで俺たちの実力に怯えている者が半数、そしてもう半数は。
「カッコイイ…///」
「強くてカッコイイなんて…///」
「結婚してくれないかな…///」
「あんたじゃ無理よ!」「あんたもね!」
「掘られたい…///」
最後のは聞かなかったことにする…。
こんな感じだ!そんな周りのヒソヒソ話を聞いていると受付嬢が声をかけてきた。
「シンドー様、ギルドマスター室にご案内します、付いてきてください」
「あぁ、ありがとう」
そして俺たちはギルドマスター室に移動する。
「よう!ジル!昨日ぶりだな…大丈夫か?」
部屋に入るとジルが死んだ目をして書類の山と格闘していた。
「あ…あぁ、あの後オークの解体と素材の回収をして更に山積みの書類を片付けていたら今に至る、という事だ…」
「事後処理は面倒くさいよな…まぁ、頑張れ!」
俺はジルを励ましつつ椅子に勝手に座る。
「それで?ここに来たって事は、話は聞いたのか?」
「護衛の話か?聞いたよ、受けて来たし」
それから、領主の館であった出来事を簡単に話した。
「なるほどな…でも、よく受けたな割りに合わないだろ?」
「王都にも行ってみたかったしな…しかし何で俺たちなんだ?」
するとジルは一回大きく溜息を吐いて。
「そりゃ〜あいつらの希望だよ、自分達が全く歯が立たなかったヤツを瞬殺したお前ら以外は信用出来ないからイヤだとダダを捏ねたんだよ」
「はぁ〜、何処まで行ってもアホはアホか…」
今度は逆に俺が励まされる。
「まぁ、頑張れ!五体満足で連れて帰ってくれさえすればいいから!多少怪我をしても薬で治せばいい!」
「なるほど、移動中の”多少”の鉄拳制裁は目を瞑ると言う事か?」
俺とジルがニヤリと笑う。
「そう言う事だ、ついでに王都に着くまでに鍛えてしまえ、って依頼も王宮から出ているらしいから、一緒に受けとくか?」
「そうだな、受けよう。しかし王宮が?そんなに問題児なのか?」
「あぁ、だから今回選ばれたんだよ!コッチはいい迷惑だがな!」
「捨て駒にもならないのか?」
「あぁ、ヤツらの親が貴族だからな」
「なるほど、捨て駒にも出来ないから鍛えろと」
「あぁ…そう言えばお前はこの国の騎士団についてどの位知ってる?」
「いや、特に知らないが?」
「なら、今のうちに教えとくか」
それからの、ジルの話を要約するとこうだった。
この国はパスト王国で騎士団は貴族と平民に別れていて貴族の騎士団が10個師団あり、平民は200個師団ある。
今回来た騎士団は10、9番隊で、騎士団は番号の数が少なくなる程強くなるらしく、1番隊になると、Aランク程の実力があるらしい。
最近、隣接するグラム帝国の動きが不穏で、王都では、緊張が高まっているらしい。
それ故、今回来た騎士団があんなボンボンの塊だったのは仕方がない事だったらしい。
「戦争が始まるのか?」
俺がジルにストレートに聞くと。
「なんとも言えん!まぁ、なっても良い様に準備はするがな!」
「そうか…まぁとりあえず出発はいつになるんだ?」
始まるかわからない戦争の話をしても、仕方がないので、話題を変える。
「1週間後だ」
「1週間後ね、了解。じゃあそれまでに準備するよ」
「そうか、じゃあまたな!ユウ!」
「あぁ、またなジル」
そして俺たちはギルドマスター室を後にした。




