ギルドマスター、ジルとのお話
オーガ達を倒した俺たちは、何事もなかったかの様に森を進んで行く。
途中でゴブリン等の魔獣が出たがマリアが率先して倒していた。
森を抜けてジョージの街の門でカレンの入場料を払い街に入る。
「ん〜、久しぶりの街や!」
背伸びをしながらカレンは街をぐるりと見回す。
「なんや、けったいな目で見られてるんやけど…」
周りの人が変な視線を向けて来るのも無理も無い。
今のカレンの格好はマリアの青い薄手のワンピースに俺が着ていた黒い革ジャンを羽織っているという何ともアンバランスな格好だ。
「しょうが無いだろう、先に服屋に寄って行くか?」
「ええよ、ギルドに先に行こう、ウチも登録したいし」
「あぁ、わかった」
俺たちはそのままギルドにむかった。
着いたのが夕方だったからか、ギルド内は芋洗状態まではいかないが、かなり混雑していた。
俺たちは、受け付けの列に並ぶ。
それから30分程待つと、順番が回って来た。
「依頼の報告とこの娘の新規登録をお願いしたい」
「かしこまりました、ギルドカードを提示してくださ、そちらの方はこちらの書類に記入をお願いします」
「了解や!これやな、どれどれ〜」
俺はカレンが書き始めてからカレンに向いていた視線を戻し牙狼の頭を30個程出してカウンターに並べる。
「これで、大丈夫か?」
「…っ!報告されていた数より多いですね…これを3人で、ですか?」
受付嬢は驚きながら獣人族のカレンの方を見る。
獣人族は力が強く俊敏だからだろう、カレンの様に小さくても冒険者になる者もいる様だ。
「いや、コレはこの娘と2人で狩ったよ」
「え!これを2人で…」
どうやら虚偽の申告をしていると疑われている様だ。
俺はジルから貰ったタグを懐から取り出し受付嬢に見せる。
「そ、それは…わかりました!では、依頼達成でギルドカードの更新を行いますので、ギルドカードの提出をお願いします」
「どうぞ」
俺とマリアが受付にギルドカードを提出していると、カレンが書類を書き終えたようだ。
俺たちが受付の横にある椅子に3人で座り待っていると、一人の職員が俺たちの所まで歩いて来た。
「ユウ・シンドー様ですか?」
「はい、そうですけど」
「ギルドマスターがお呼びです、ギルドマスター室にお越し下さい」
「ギルドマスター?……あぁ、ジルか。行くのはいいがギルドマスター室って何処?」
「私がお連れ致しますのでついてきてください」
俺がギルドマスターを名前で呼ぶとピクッと少し反応したが何事も無かった様に微笑む。
「2人も一緒でいいか?」
「えぇ、お連れ様もどうぞ」
その後俺たち職員に連れられてギルドの二階のギルドマスター室の前に来ていた。
職員がコンコンとノックをして確認をとる。
「ギルドマスター、ユウ・シンドー様をお連れしました」
「おう!入れ!」
俺たちは職員に促され部屋の中に入る。
部屋の中は執務室の様な作りで真ん中に高価そうなテーブルが置いてありその周りにソファーが置いてある。
奥に大きな机が置いてありそこにジルが座っている。
「すまんな、ユウ!急に呼び付けて!」
「いや、気にするな。それで?なんか用なのか?」
「まあ、そう急ぐなよ。先に椅子に座れ」
俺たちは、ジルに促されてソファーの様な椅子に座る。
「おい!なんか、飲み物持って来てくれ!」
ジルは、一緒に来た職員に指示を出す。
指示された職員は部屋を出て行き、人数分の木のカップに何か飲み物を入れて持って来た。
俺はそれを一口含み味わう。
どうやら、中身は紅茶の様だ、この世界では紅茶は一般的でお茶の木は魔物の領域の近くに沢山自生している為材料に事欠かないただ、魔素を吸収する特性があるので発酵させないと人間には毒になるらしい。
「うん…なかなか美味いな」
「だろ〜この辺は辺境で魔物の領域が近いから上質な茶葉が取れるんだよ!」
ジルが自慢気に語るが俺はここにお茶しに来た訳じゃない。
だから、俺は切り出す。
「で?なんか依頼か?」
「……あぁ、それもあるんだが…まずは、お前達が倒した牙狼の素材を全部売ってくれないか?」
「全部?」
「あぁ、ギルドカードにはギルド側しか見られないが倒した魔物の種類と数を表示する機能があるんだが……お前達狩った牙狼は50超えてるだろう?」
「なるほど…通りで受付嬢が変な反応した訳だ」
「すまねぇな、あの娘には俺から言っとく」
「別にいいよ。それで?なんでそんなに大量に素材が必要なんだ?」
「実はな…20日後に前回失敗したオーク集落の殲滅作戦が始まるんだと!」
「で!今回は奴隷の代わりに冒険者を使うんだと!だから牙狼の素材を使って防具や武器回復アイテムを作って出す!それぐらいしかギルドが出来る事は無いしな」
どうやら、オークの集落殲滅はかなり難易度が高い様だ。
詳しく話を聞くとオーク自体はCランクの魔物でDランク冒険者が5人位集まれば討伐出来るくらいで、魔物には珍しく食用になるらしく冒険者に人気が高い魔物らしい。
「話を聞く限りだと、余り難しくはなさそうだが?」
「いや、数が問題でね…少なく見積もっても500以上の数がいる様なんだよ!」
「でも、こっちの数はこの街の冒険者を全員集めてめも300人位だ、これだけではどう考えても無理だろ!しかも王都から騎士が派遣されるんだがその数は200人いないときてやがる!」
「だが、同数だろう?何とかなるんじないか?」
「お前達も今回の依頼で分かっただろう?目撃証言があてにならん事を」
「確かに……」
今回の依頼で俺たちが戦った牙狼も目撃証言は20頭で実際は50頭を超えていた。
「なら分かるだろう?多分オークは1000体はいる…しかもジョージの街の守りもあるからDランク以下の奴等は街の守りをさせないといかん、そうすると200人位しか居ないから多く見積もっても400人位で1000を相手にしなければならん」
「騎士の強さは?」
「マチマチだがだいたいCランクくらいだ」
「一対一なら何とかなるレベルか…」
「しかも、今回来るやつらは貴族の次男や三男で集めているらしいから、実質もっと弱いだろう…」
「絶望的だな」
「そうなんだよ…それで俺も冒険者達の指揮官として同行しろだとさ!」
「ヤバくない?まぁ、ジルなら生きて帰って来れると思うが」
「俺だけならな……」
「で?俺に何して欲しいんだ?」
「お前達には街の守りもを任せたいんだが、多分俺たちが逃げるのを奴等は追いかけて
来るだろうから俺たちが街に入るまでの時間稼ぎを頼みたい!」
ジルが頭を下げて頼んでくる。
まぁ良いか、オーク程度なら何体来ようと敵じゃないし。
「了解した、ならそれまでの間は自由にして良いんだろう?」
「すまんな……恩にきる!」
「恩に着てくれ、それじゃあその日まで例の部屋に籠って準備をするよ」
「あぁ、好きなだけ使ってくれ!」
「そういえば、コレを渡しとくよ」
俺は【無限収納】から前作って使ってなかった《亜竜のポールアックス》を渡した。
「こ、こりゃ〜魔斧じゃね〜か!」
「俺がこの間打ったもんだ、餞別にやるよ」
「ありがとよ!こいつでオーク共を殺しまくってやるぜ!」
「じゃあ、俺たちはこれで失礼するよ」
「あぁ、たのんだぜ!」
俺たちは職員の人に挨拶をして部屋を後にした。




