玉座以外何もない部屋で
痛い、腰とふくらはぎが痛い。
たまにパソコンをいじったまま椅子の上で寝落ちしてしまうときがあり
朝起きると体が痛いのだがその感じにそっくりだ。
「昨日はちゃんと布団に入ったと思ったけどなー?」
頭を振りしょぼしょぼとかすむ目を見開く。
「あー今何時だよ、遅刻はまず…いん…なんじゃこら。」
椅子で寝落ちしたなら目の前にあるはずの中古で買ったパソコンがない。
正確にいうなら机もない、その向こうのタバコで変色した壁紙もない。
あるのは砂を固めたようなザラザラとした灰色の壁だけだ。
慌てて回りを見回してみてもドアも窓もない。
四畳半くらいの狭い部屋に閉じ込められたようだ。
「なんだよこれ?誘拐されてコンクリで生き埋めにでもされたのか?」
少し考えてそんな考えはすぐ否定する。
科学的な知識はまるでないが少なくとも酸欠どころか何も息苦しさがないのだ。
コンクリがどれぐらいで固まるのか知らないがかなりの時間はかかったはずだ。
おまけに天井に明かりひとつないのに前がはっきり見えるのだ。
「おいおいちょーじょうげんしょうてきななにかですか?」
そこらじゅうの壁をなぐりながら呟く、壁が薄そうなところはどこにもない。
「昔のネットにあった脱出するゲームなら
無駄にいろいろおいてあるはずなんだが」
おいてあるのはただ一つ起きたときに座っていた椅子だけだ。
高校生の演劇部員が王様の座る椅子を作れと言われ頑張って作ったような玉座だ。
しかもかなり不器用な高校生だろう。
木でできた椅子にとりあえず金色だろうとばかりにノリづけされた
金色の色紙のかがやきが眩しい背もたれと肘掛け。
座には紫の布が綿も入れずにそのまま張られている。
足は高さが不揃いなうえ木のままだ。せめて布か何かで隠せよ。
なんかどっと疲れた、椅子を少し観察しただけなのに、
パニックになりかけていた気持ちが一気に萎えた。
「あーなんだよこれ?わけわかんねーよ。」
ぼーっと立っていても何もすることがなくせめてまだ少ししびれている足を揉もうと
玉座(?)に座ってみる。
その瞬間一気に何かが頭の中に流れ込んできた。
昨日までの職業工員の俺ではなく今日から俺は職業ダンジョンマスターになったのだ。
先週までネットにあったフリーゲームのダンジョンマスター物
のゲームにはまっていたのだ。
上級ダンジョンになって敵キャラ役の侵入してくる冒険者達が
強くなり多少工夫したくらいではあっさりと
ダンジョンを突破されるようになってしまい別のゲームに逃げ出したのだが。
そのゲームのシステムのようなものが一気に流れ込んできたのだ。
「俺は…ダンジョンマスター…?侵入者からダンジョンコアを守り
魔力を集めて最強のダンジョンを作る者?」
なんとなくだがわかるのだ、ゲーム中ではクリスタルの柱だったはずの
ダンジョンコアが自分の体の中にあることが。
正確にいえば心臓がなくかわりにダンジョンコアが入っていることが。
手首を握り必死に自分の脈を探してみる。だがないのだ。脈が。
窓ひとつない部屋に閉じ込められていても息苦しくないわけだ。
意識して始めて気が付いたのだがそもそも呼吸をしていない。
ダンジョンを作らねばならない。この死体のような体だが
おそらくこの体を動かしているのはダンジョンコアでその燃料は魔力だ。
ゲームでは何をするにも魔力が必要だった。魔力を消費して
ダンジョンを拡張し罠を仕掛け手下となるモンスターを召還するのだ。
そして魔力は時間経過とともにゆっくりと、だが確実に減っていくのだ。
おそらくダンジョンの維持やモンスターのエサの表現だろう。
ゲームのプレイ中は良かった。侵入してくる野良モンスターや
冒険者をどんどん倒していけば中盤ぐらいまでは魔力が減るよりも
増えていくほうが圧倒的に早いのだ。
正直怖い、プレイ中ならダンジョンを突破されコアを奪われても
セーブしたところから始めれば一瞬で元通りだ。
壊された罠も高額な魔力を払い召喚した挙句あっさり殺された手下モンスター
も一瞬で元に戻るのだ。
だが今は現実なのだ。まず間違いなく胸をえぐられてコアを奪われたら俺は死ぬ。
このまま引きこもっていても魔力切れで死に、
ダンジョンを突破されても俺は死ぬのだ。
こんななにもない部屋で干からびて死ねるかよ!俺は生き延びる。
ダンジョンコアが体内にある時点で俺はダンジョンからは出られない。
なら魅力的なダンジョンを作り侵入してくるものを倒して魔力を奪うのだ。
それにゲーム内のお楽しみ要素として一部の冒険者とレア召喚モンスターに、
肩書や称号がついているのだ。
<<美貌の>>女剣士
<<魅力的な>>ハーピーなどだ。
もちろん<<力自慢な>>ドワーフなどもいたがそんなのはどうでもいい。
設置できる罠には牢屋や拷問部屋、洗脳装置などもある。
単なるフリーゲームであり一般向けなのだからエロシーンなど全くなかったが、
童貞の俺にはそれだけで妄想が意外とはかどる感じだった。
魔力を集めながらだが、美人な女冒険者に童貞を捧げたり
モンスター娘でハーレムを作ったりできるかもしれない。
そう考えると少しわくわくしてきた。
まずはしもべになるモンスターの召喚からだ!