くそったれな追加情報と意外なご褒美
結局Tシャツを脱ぎビリビリと細く丁寧に切り裂く。
踊る鉄剣は自分で持ってもそのまま使用できた。だが敵が来たとたん俺の体ごと敵を切り裂いても困る。カッターの代わりに使うのは今回だけにしよう。
上半身裸になったままTシャツの残骸を床に並べる。置いた布辺が通路の代わりだ。別に暑さ寒さも感じない。問題ないが、次の時にズボンを使うのは嫌だ。敵の持ち物はこれから何でも取っておくことにしよう。
そんなことより通路を作るのにも魔力が必要なんだ。闇雲に掘る前に最低限の計画を立てよう。
右手の法則だかであっさり攻略されてしまいそうだが、何とか迷路と言ってもいいだろう設計図もできた。罠の配置予定もまあ有効だろう。罠の方はそれこそ攻略されるの前提だ。トラップピエロももう少し増やしておこう。
出口から少しずつ通路の拡張を始めると門番コボルトが俺のズボンを引っ張る。なんだ遊んでほしいのか、それとも久しぶりに撫でてほしいんだろうか?
いや、これはちがうっぽい。必死に俺のズボンを引っ張ると自分の耳を上にひっぱる。流石に3回も繰り返しジェスチャーされればわかる。音だ。外で何か変わった音がするのだろう。
出口に向かって勢いよく走りながら歯噛みする。モンスターたちは今のところ喋れない。ジェスチャーを自分からしてくれる知能があってよかった。俺も気を付けよう。早速ダンジョン改造に夢中になっていた。
出口についてぎりぎりまで身を乗り出して耳を澄ます。なにも変わった音はしない。だがそのまま静かに待機する。おそらく犬顔なだけあってコボルト達は耳がいい。明らかに正面の森を凝視している。
じっと待っているとようやく、俺の耳にも音が聞こえてきた。距離はかなりあるが人間の大声だ。だれかを探している。間違いない、こないだの農夫たちの仲間か家族だ。
おーいいるかーとのんきそうな声からは危機感などはまったく感じない。昼の森ではハイイロオオカミやそのほかのモンスターは動かないのだろうか?それらをあっさり倒せる戦闘力があったらお手上げだ。その可能性は無視しよう。
そしてこいつらには意識がはっきりとある。以前の操られたような顔の男たちはそのまま殺したが、これなら使い道もあるだろう。出来たら一人二人捕まえてみよう。異世界の田舎の農民でも流石に周囲の地名や森のモンスターの知識くらいあるだろう。
急いで玉座(今日も変わらず安っぽい)に戻り、牢屋の罠を制作する。別に罠でも何でもないが、作れるリストの物はすべて罠だ。最小の五人入る牢屋をボス部屋の横に作り出すと、モンスターたちに命令する。落とし穴か虎ばさみの所に人間が入ってきたらそのまま押し込めと。
こんなところに洞窟なんてあったか?と人間が入ってきたと同時に脳内で映し出された映像で確認する。農民×3だ。レベルすら出ない。だが早速収穫はあった。俺は異世界の言葉は理解できる。偶然異世界語が日本語そっくりなんて落ちじゃなければ。
俺には見えないがおそらくダンジョンの外観は洞窟そのままなのだろう。中に入ってから壁のあからさまな人工物っぷりに茫然としている。
勢いよくコボルトと30匹近くのゴブリンが通路から飛び出て、農民どもを胴上げしながら運び始める。
罠に押し込めってそう言う意味じゃなかったんだが……
気を取り直してそのまま牢屋に入れてくれと頼む。いくら子供サイズとはいえモンスターなんだ、一対十なら農民ごときには何もさせずに牢屋にぶち込むだろう。せっかくなので牢屋の主になるような強力なモンスターを置こう。女冒険者を捕まえた後は逃がさないようにするのだ。
はったりの効く見た目と強さを考えてサイクロプスを呼び出す。3M近い身長と筋骨隆々の体。黒い鋭い角に顔の半分を占める大きな一つ目、つるりとした禿げ頭。こいつが牢屋の前にいたら脱走する気なんて起きないだろう。
戦闘力はジャイアントの方が上だが残念ながらまだ呼び出せなかった。だがサイクロプスが呼べるならハーピーとラミアが呼べるようになったはずだ。いよいよ女型モンスターのお出ましだ。この尋問を終えたらゆっくり呼び出すとしよう。
サイクロプスを引き連れ茫然としながらお互いの心配をしあっている男たちの前に立つ。
ぼろぼろの服に2人は斧、1人はさびた剣を持っていた。ゴブリン達の農民神輿にあきれて武器を取り上げるように言うのを忘れていた。
牢屋の隙間からでも武器が届かない位置に立つとサイクロプスに自分を守らせながらゆっくりと声を掛ける。
「ようこそ、わがダンジョンへ」
「キイキイうるさいぞ。モンスターめ!俺たちをここから早く出せ!」
折角上半身裸のままとはいえ威厳を込めて言ったのにこの言いよう、悲しくなってきた。だがそんなことよりモンスターだと?サイクロプスは喋らずに、無言で俺の前に大きな手のひらを広げガードしてくれている。うるさいのは俺の事のはずだ。キイキイなんて音はどこからもしていない。
「もしかして俺が何を言っているかわからないのか?」
「キイキイキイキイうるさいて言ってんだろーが!ズボンなんかはいて人間の真似事かよ!」
「サイクロプス、全員殺しておけ。俺は玉座に戻る」
扉を開け、悲鳴を上げる農民どもを無造作に殴りつけて始末するサイクロプスをしり目にさっさと移動する。ここに来てからいくつ目の不幸だろうか。あいつらの口の開き方と喋った内容が明らかに違っていた。映画みたいに一方的に俺にだけ翻訳された言葉が聞こえるだろう。そして俺の姿と言葉はモンスターの物に逆変換されているのだ。これではどうせ生かしておいても何一つ役に立たない。食料が一切ないこのダンジョンの奥で餓死するよりは一撃で頭をザクロみたいに潰される方があいつらにとっても幸せだろう。
というか神様っぽいものは俺に一体何をさせたいのかがよくわからない。おそらくは人と会話をさせないのは人間となれ合わせないためだろう。効率よく人から魔力を吸収するためには皆殺しにするマスターが都合がいいのだ。見た目のいい女はキープする気だった俺に、無言で全部殺せと最悪な形で言っているんだろう。
だがここまで無い無い尽くしだと、何度か無理やりテンションを上げてしのいできたがいい加減に限界も近い。逃げ出せないダンジョンの中で自殺するにはやはり胸のダンジョンコアをえぐるべきか?いや侵入者を素通りさせた方が早いか?
いまはまだ自分から死ぬ気はない。だが設計図通りにダンジョンの改良が終わり、一息いれたらそのまま発作的にやってしまいそうだ。女モンスターがご褒美になればいいが。
なりませんでした。ハーピーとラミアはきちんと呼び出せた、呼び出せたのだが。
出来の悪いマネキンの下半身と両腕をどぶ川に沈んでいた鳥とでも合体させたようなハーピー。
砂かけ婆か山姥の下半身を大蛇にしたラミア。
ゴブリン達と一緒に侵入者を待ち構えて殺せ、と命令するとピー、シャーとそれぞれ返事をして去っていくモンスター共。正直言って最後の期待だった。最近の漫画やゲームでは上半身は美女ではないか。マネキンと老婆では近くに置いておく気にもならない。
自然とこぼれそうになる涙をこらえ、ダンジョン改造を再開する。せめて上半身裸で考えて作り上げたこれだけは完成させよう。
いくつか序盤の通路と罠を完成させる。今度は召喚の番だ。いつ侵入者が来るかわからない以上通路だけさきに完成させるより交互にやっていった方がいい。やることが長引いた方が死にたくならないし。
我ながら後ろ向きな姿勢で召喚モンスターを吟味する。俺は単純な強さより追加技能を重視するタイプだ。罠:鍛冶場(小)とサイクロプスたちを纏めて召喚する。ゲームでは何故かドワーフなどいかにもって感じのモンスター以外でも鍛冶でモンスター用の武器が作れるタイプがいる。サイクロプスもその一つだ。完全に鍛冶特化型のドワーフより、戦闘力も高くバランスのいい方がいいだろう。
何も考えずに追加で九匹、足して十だと召喚してしまったが、この部屋はせいぜい四畳半しかない。この召喚が終わった瞬間、ガチムチで身長3Mの腰みのオンリー集団と、裸で押しくらまんじゅうだ。やばい、やっぱりすぐに死んでおくべきだった。せめてもの抵抗で目を固くつぶる。押し寄せるであろう筋肉の祭典からせめて視覚情報を遮断するのだ。
触覚と嗅覚に一気に情報が流れ込む。だが固い筋肉やワセリン臭い汗の情報ではない。
むにゅむにゅとやわらかい何かが両側から俺の顔を挟む。上手くいえないがずっと嗅いでいたいいい匂いがする。覚悟して目を開けてみる。はて、この女は誰だ?
後ろで八人のサイクロプスが狭そうに押し合っている。おそらくこの女はそこから弾き飛ばされて、俺にその豊満なおっぱいでパフパフしてくれたのだ。だがどこから湧いて出たんだ?この女は。
俺の顔からおっぱいを放してゆっくりと立ち上がる女。身長は2M近くありそうだ。皮でできた大きな布を片方の肩でしばっている。すいかみたいな胸が大きすぎてその反対側のおっぱいは上半分がほとんど出ている。
素足だが綺麗な足もと、モデルとは違う筋肉もしっかりついた長い足。黄色っぽい長い髪は無造作に後ろで束ねている。前髪が一房垂れて片目を隠している。見えるほうの目はパッチリと大きい。鼻も高いし、黒い角も額から生えている。白人系の美人バレー選手が原始人のコスプレをするとこんな感じだろうか。俺を見てニコッと笑った口からはギザギザとすべての歯が犬歯みたく鋭くとがって見えた。ニコッとと言うかギバアって感じの口の開き方だった。
そしてダンジョンマスターの感覚を通してわかる燦然と輝く≪おねいちゃん系の≫の称号!
「なんでやねん」
関西系の血は一切流れていないが思わずそう口から出てしまった。




