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私は犬を飼っている。

作者: 藤谷 要
掲載日:2014/11/12

藤谷要は、9RTされたら『猫好き』な『ホスト』と『犬好き』な『マザコン』の組み合わせで、ヤンデレ話を書きます!

http://shindanmaker.com/482075


というツイッターの企画に参加させていただきました!

 私は犬を飼っている。


 名前はケンタロウ。でも、いつもはケンと呼んでいる。ケンは私よりも体格が大きくて、じゃれつかれると押し倒されてしまう。それで顔じゅうに挨拶のキスをされるのは日常茶飯事。社会人二年目の私は多忙のため、頻繁にケンとは遊べない。けれども、たまに会えた時は全身で喜びを表して歓迎してくれるので、仕事で疲れが溜まっていてもケンとの時間はなるべく作るようにしている。


 ケンの毛は赤みがかった茶色だ。短毛のサラサラの毛並みを撫でるのは、とても気持ちが良くて、ケンとのコミュニケーションの定番となっている。

 ケンも撫でられるのは大好きで、うっとりと目を細めて私に身体を預けるのは、信頼の証。

 何しろケンとは長い付き合いで、どこを触って欲しいのか、言葉など無くても私には分かる。


 二週間ぶりに私がケンのいる部屋へ入ると、自分の寝床で横になっていたケンは飛び起きて、私のもとへ駆け寄って来た。

 そして、ケンは前脚を上げて私に抱きついて、大歓迎の挨拶だ。


「会いたかった! ユキ!」


 あら、おかしいわ。犬が日本語を話している。


 ケンは私に抱きついたまま、嬉しそうに私の顔へキスを何度もしてくる。でも、ケンが私の唇にキスをしようとした時、私はケンの顔を避けて彼の身体を引き剥がした。


「どうして逃げるの!?」


 ケンの悲しげな叫びを無視して、私は不満そうな表情を浮かべる。


「……私は犬のケンに用があるの」


 私の言葉で自分の失態に気付いたのか、ケンの口からは「キャウーン……」と切なげな鳴き声が出ていた。


 ケンは私と同い年の人間の男だ。さらに言えば、イケメンで顔も整っている。それでも、”犬”として私のペットとなっている。


「ケン、お座りは?」


 私の指示に素直に従うケンは、私の前で正座をする。そんな彼はTシャツにトランクスと寝る時定番の格好。綺麗なストレートな髪には少し寝ぐせがついている。


「ケン、お手は?」


 私が差し出した手に、ケンは笑顔のまま自分の手を無言で乗せた。




 もともと私とケンは、ごく普通の恋人同士だった。お互いの家が隣同士で、同級生な上に幼馴染同士。異性を意識しはじめた時には、自然に付き合い始めていた。そんな私たちが、何故こんな残念な関係になってしまったのか。


 それは遡ること4年前。ケンの両親が運転していた車が事故を起こしてしまったのが、不幸の発端だった。

 助手席に乗っていたケンの母は亡くなり、運転していた彼の父は事故の後遺症で未だに寝たきりの生活に。

 そう、一気に収入が途絶えてしまったのだ。

 当時大学二年生だったケンには、高校生二年生と中学生二年生の弟二人、そして飼っていた猫がいて、彼らを養うために彼は大学を中退した。

 それから彼は若くてもお金を稼げるホストの道を選んだ。


 そのホストといえば、水商売で接客業だ。客の人気があっての仕事である。ケンは仕事のために色々と変わってしまった。私が好きだった黒髪は流行の明るい髪型へ。服装だって別人みたいに。さらに、いつも私の知らない匂いを纏うようになった。

 スマホを忙しく操作してLINEでメッセージを送ったり、お客さんの誰かと通話したりするケン。私が傍にいる時でも、他の女性へまめに連絡を取るようになった。


 それはもう、とても親しげに――。


 ケンの通話中、彼の部屋から私が無言でいなくなっても、彼は会話に夢中で反応すらなく。一緒にいても、まるで空気のような扱いなった。さらに、彼から漂う香りは苦手で、彼は無意識に私を遠ざけているようだった。


 そんな彼の変化に戸惑いながらも、私は事情が事情だけに仕方がないのだと、自分を納得させようとしていた。


 それでも、もともと私にあった小さな染みは、どんどん広がって黒く胸中を塗りつぶしていった。


 そんなある日。職場の人たちとの飲み会の帰りに目撃してしまった。ケンと見知らぬ若い女性が腕を組んで歩いている姿を――。


 私を襲ったのは、鈍器で頭を殴られたような激しい衝撃。私はその日どうやって自宅へ帰ったのか覚えていない。

 翌朝、目を真っ赤にした私を心配して声を掛けてきた母。それでケンのことを話したところ、母は私に一言告げた。


「ホストと付き合うのは止めなさい」と。


 母の言うことは、いつも正しい。私は自分の答えを得て、ようやく涙が止まった。


 それから私はケンに別れ話を切り出した。何もかも終わらせるために、いつものように彼の部屋を訪ねて。


 ケンは私のことを大事にしてくれたけど、彼はいつも異性に好かれていて、一緒に通っていた学校では他の女子たちに囲まれていた。それに対し、顔立ちも能力もごく普通の私。彼を慕う女子から陰口を叩かれたり、嫌がらせを受けたり。数は少なかったけれど、何も無かった訳じゃない。


 だから常に私の胸中に不安はあったのだ。

 彼に相応しい綺麗な女性が他にいるのでは。幼馴染というだけで、彼の情けを受けているだけでは。いつか飽きられて捨てられるのではないかと――。


 今まで積み重なった感情も一気に爆発して、私は彼と別れる決心をした。


 それなのに、ケンは「嫌だ、ユキと絶対に別れない」と破局を拒絶して、予想外にもこじれてしまった別れ話。


 長時間の話し合いは「別れる、別れない」と平行線のまま。さらに、他の女性と腕を組んでいたのは、アフターというホストの仕事のためで、店の営業が終わった後にお客さんと会って食事をしただけだと説明されてしまった。


「俺にはユキがいるから、色恋営業は絶対にしてないよ」


 ケンを信じたい気持ちと、常に彼に付き纏う女性の影。けれども、揺れる私の脳裏を過ぎったのは、彼と女性の姿だった。睦まじげに歩く二人は、まるで恋人同士のようで――。


 正直なところ、私は疲れていて苦痛から早く逃れたかった。


「ごめん、もうケンと付き合うのは無理……。でも、これからも手伝いは続けるから、もう終わりにして、お願い」


 ケンの家は父親が寝たきりなので、大変な状況だった。だから、時間の無い彼らの為に、庭の手入れや、ご飯の差し入れなどは近所の(よし)みで手助けしていたのだ。


 近所の付き合いまで切るつもりはない。ただの友達に戻るだけ。


 そう言外に告げたら、ケンはボロボロと涙を流して号泣しはじめてしまった。


「ユキまで失うなんて、嫌だよ……」


 私の胸にケンの言葉は突き刺さった。元はと言えば、自分が楽になりたくて彼と縁を切ろうとしていたからだ。本当のことを言えば、彼のことを嫌いになった訳じゃない。


 ケンに対して何も言えず困っていたところ、間の良い事にドアをガリガリと引っ掻く救世主が現れた。

 ドアを開けてみれば、足元には私を見て嬉しそうにしている白い猫が。ケンたちが飼っている雑種の猫で、名前はシロだ。


「ニャーン」


 シロは甘えた声を出して、尻尾をピーンとご機嫌に伸ばしていた。私がいるから遊んでくれると勘違いしていたのだろう。


 まるで沈んだ雰囲気を和ますように、シロは私たちに愛想を振りまく。そんなシロの頭を撫でていると、ケンは暗く呟いた。


「猫は良くて、俺は駄目なのか……?」


 ケンに視線を送ると、彼は縋るように私を見つめていた。


 捨てないでと、訴えるようなケンの瞳。私は罪悪感から動揺してしまう。さらに長い膠着状態に嫌気が差していて、プツンと何かが音を立てて切れた。だから、次の瞬間に口にしていたのは、自分でも驚くくらい滅茶苦茶なことだった。


「そうよ、ペットならいいのよ。貴方がペットなら、何も問題は無かったのよ!」


 ケンの部屋に響いた私の捨て台詞。

 これで私たちの会話は終わるはずだった。少しの沈黙の後に、ケンがあんな返事をしなければ――。


「――じゃあ、俺は今日からユキのペットになるよ」




 私といる間、犬であるケンはスマホに触らなくなり、私と沢山じゃれあうようになった。そんなケンとの時間が私は大好きだ。

 でも、躾が悪いせいか、私を押し倒した挙句、悪さばかりする。


「なんでしばらく来なかったの?」


 ケンが犬でいるのは自室の時だけ。彼は私を玄関まで見送る時に、普通に話しかけてきた。


「だって、同僚が暗がりで誰かに襲われて入院しちゃったから、仕事にしわ寄せが来て忙しかったんだもん」

「ああ、事件になっていたよね。あの男でしょ? ユキに言い寄っていた」


 その同僚から何度断っても遊びに誘うメッセージを送られて困ったことがあり、その対応でケンに相談していた。


「言い寄ってって……、連絡が来ただけでしょ?」


 私がケンの言葉を訂正しても、彼は曖昧に笑うだけ。

 でも、私を見つめるケンの目は、濁った溜め池の水底のように暗くて。私はその視線から逃れるように思わず彼から目線を逸らしてしまった。


 そして、私たちが玄関に着いた時、ケンは私に抱きつくと、彼は私の耳元で囁く。


「俺はユキのペットで、優秀な番犬だから」


 ケンの言葉の意味をすぐに察せず、困惑した私を彼はただ笑みを浮かべて見つめていた。整った彼の顔は、見慣れていても綺麗に思う。でも、彼の目元に落ちる影が怖いと感じるようになったのは、いつからだったか。


「じゃあ、またね」とケンから別れの挨拶を告げられれば、私はそのまま彼の家を出るしかなかった。


 私が隣の自宅へ帰ると、玄関で出迎えてくれたのは犬のクロ。

 ケンの生活リズムに合わせて、私が彼の家を訪れたのは夕方頃。真夜中になった今、両親は既に就寝していて、私の帰宅に気付いていない。

 黒毛のラブラドールであるクロはとてもお利口で、私の匂いを嗅ぐと、「ワン」と小さく吠えて抗議した。


 私が大好きなクロは、別の雄の匂いを感じて面白くないのだろう。全身の汗と匂いを洗い流すために私は風呂場へ向かう。




 私は犬を飼っている。


 とても大きくて、私には手が余るほどの。


 ケンの将来が不安定で、彼に頼れないと分かった時、私は自分の就職先に安定を求めた。

 必死に勉強して、難関を突破した公務員試験。


 配属された部署は忙しいけれど、給料や手当はきちんと支給されるし、産休育休は確実に利用できるようだ。将来ケンがホストを辞めて収入が激減しても、私が彼と彼の父親を養えるだろう。彼に家事育児介護を担ってもらっても、いまどき主夫は珍しくもないはず。


 彼が私のペットになると宣言した時、私も同時に決心したのだ。彼の飼い主になることを。

 飼い主はペットが死ぬまで面倒を看るもの。だから、一生を共にするのは当たり前のことでしょう?



 あんな私の無茶な要求を呑んだ彼。けれども、そうまでして私との関係を守ろうとした彼に心が動かされない訳なかった。





 私は犬を飼っている。


 私か彼のどちらかが死ぬまで、ずっと永遠に。

 もう二度と、彼を手放したりしない。


お読みいただき、ありがとうございましたm(__)m

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― 新着の感想 ―
[良い点] 企画の中の題材からこういった物語にしやがっていることにすごい魅力を感じます!! 筆者様の文章力と構成力に憧れちゃいます… [一言] 男と女のすこし歪な…それでいて彼らの中では無くしたく…
[良い点] 読んでいてあっと驚くような展開が素敵でした。 読み終わりもすっきりとしていて短編の良さみたいなものが出ているのかなと思いました。 上から目線にも取れる内容で申し訳ないです……。 [一言]…
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