僕達の道は春の匂い
「もうすぐで終わりだね」
日が落ちる頃にこの時期、この季節、土手には俺達。
そして何よりも、今日という日。あんたの言わんとしていることは一瞬にして理解で
きた。
わかっていた。だけど、あえて考えないようにしていたことを改めて突き詰められ
た。
「あ〜あの漫画か」
明らかにへたくそな口振りでごまかすどうしようもない俺。
「・・・はぁ」
あんたもそのことにすぐ察知したようで呆れたため息。
ごまかしようがない。
「わかってるってーの」
「そんな辛気臭いこと言うなよ、ただ、別々になるだけだろう」
「それだけかな」
あんたは言う。きっと今までの関係が崩れそう、とでも言いたいのだろう。
「・・・・・・」
俺は返す言葉が見つからなかった。
「君は本当に変わったね」
そうか?俺から見ればあんただってずいぶん変わったように思う。
「そっちだって、そうだろ」
なにか悪いこと言われているようでいい気分ではなかった。
「別に悪い意味で言っているんじゃない、だけど、そういうところは変わっていない
んだね」
「まあ、だからこそ、みんなが君を慕っていたとも思う」
なぜ、こんなにも考えていることが読まれてる。
4年間で、それだけ俺に入ってきているんだな。
そして、こんなにも得たものがあるんだ。
だから、きっとあんたはそんな満足気な顔をしているんだろ。
そして俺は何を得たんだろう。
「よし、お前ら、また来年もこの場所で会うぞ!」
そいつは、長い沈黙に土足で踏み入ってきた。
来年?俺はこのままの気持ちで来年に持ち越していいのだろうか。
「おうよ!!」
しかし考えとは裏腹に最高の笑みで俺は返事をしてしまう。
明らかな作り笑いにみんなが引いてしまうのでは、と心配をしてしまうほど。
だけど、すごいな。
俺たちは作った笑顔なんかではなく、本気で笑っている顔だ。
いつも、なんでもない会話でしていたときの顔だ。
俺の顔の筋肉も自然な造作であった。
気持ちはさっきと同じまま、変わっていない。けど、
「また、来年も・・・悪くないな」
無意識とは恐ろしい。
「いや、おまえさっき、おうよ!っていってたよな?」
ほらきた、思っていた通りの言葉が返ってきた。
「なんか、改めて思ったんだよ」
正直、これしか言えないだろ。
「ワールドカップなんて、あっという間だね」
遠まわしに4年間って言うなよ。
「であれば、その1/4なんてもっとあっという間だな」
だーかーらー。
「十人十色って本当だな」
もういい。今の俺たちに恥ずかしいなんてものは存在しないんだ。
実は俺もなんだかんだで心地いい。
「また、俺たちにかっこいいこと言ってくれよな」
「また、筋肉をみせてくれよな」
「また、体を張って笑わせてくれよな」
「また、お前をいじらせてくれよな」
「また、恋愛を語ってくれよな」
「また、大口を聞かせてくれよな」
「また、なんでもそつなくこなしてくれよな」
「また、子供の写真みせてくれよな」
「また、俺らの家まで送ってくれよな」
全員が俺を見る。
「また、大声で笑ってよね」
あんたはみんなを代弁して言ってくれる。
俺の得たもの、わかった。
みんなから必要とされていること、悪い気分ではない。
あんたはずっと前から、わかっていたのかい?
「お前ら、いつも、お前らでいろ」
早速、そいつはかっこいいこと言っていた。
さて、4年間、一緒に歩いてきた道がここから十本の道に分かれている。
ここからは、一人用の道だ。
そりゃそうだ。この道は俺らが選んで作って道だから。
他人が後ろからついてくることはない。
一人一人が同時に自分の持ち場につく。
「それじゃあ」
最後ではない。
この道はつながろうと思えばいつでもつながれる。
その気になれば明日にでも。
だから、前を向く、みんなが歩き出す。
また来年、道をつなげよう。
みんなを見る景色が歪んで、二重、三重に見える。
おっと、乱視かな。
・・・そんなわけないだろう。こんな自分が嫌になる。
ずっと素直な男ではなかった。
だからせめて最後くらいは素直につぶやくな。
「綺麗な青い春にずっと、ずっと、ひたっていたかったんだ」
入り込めない方もいるかもしれませんが、これは僕が置かれている状況をモチーフにしてみました。共感してくれる方がいると幸いです。