どうやら義妹の人を見る目は腐っているらしい
氷花。そう名乗った少女をひとまず家に置き、紅葉は《ガーリック》艦内にいた。
青葉から紹介しておきたい人間がいると言われたからだ。
「青葉〜、来たぞ」
「予定よりも早かったわね。まあ、いいわ座って」
殺風景だったモニタールームは青葉を始めとする数人の人間がいた。
どれも見たことのない人間ばかりだ。
といっても、《ガーリック》艦内に来ること自体、4、5回程度しかないが…
「紹介するわ。紅葉と天使の相性を上昇させるためのチーム、《バジル》よ」
「・・・・・・」
やはり、ネーミングセンスが残念だな…
口には出さず、心の中だけにとどめたその言葉を青葉に悟られないようにしながら、5人いる人間をみる。
男性:女性=3:2の割合で構成された自称 《バジル》。
本当に役に立つのか?はっきり言って不安しかないぞ…
「まずは、自己紹介から!!」
右端にいた神経質そうな男性を指差す。
「恋愛ゲームに人生の半分を費やした男、『恋愛マニア』こと緋村 又吉!!」
「・・・・・何処にでもそういう奴はいるんだな」
同じようなプロフィールを持つ奴を同じクラスに持つ紅葉にとって、なんと相槌を打てば良いのか分からない。
幸いにも、青葉は自分のペースで自己紹介するようで、有無を言わさず次へと進める。
「片想いすること20年。『40代 純粋娘』こと片桐咲!!」
「独身なんだ・・・」
そんなプライベート情報をむやみやたらに触れ回って良いのか?思わず頭をひねる。
「七回の離婚を経験した男。『七転八起』こと馬場式馬!!」
「・・・波乱の人生ですね」
紅葉はこの時点で今更ながら確信した。
義妹 青葉の人選は極端にずれていることを…
「小学生までなら、誰でも恋愛対象。『ロリコン魔王』こと峰方宝玉!!」
「・・・・・・」
「以上4名がお兄ちゃんをサポートするわ。問題ある?」
「大ありだぁっ!!」
「?」と可愛らしく首をかしげる青葉を一瞥すると、最後に自己紹介された『ロリコン魔王』こと峰方宝玉に視線を向ける。
「何だこのメンバーは!?全員何かしらの大問題をかかえてんじゃねぇか!!てか、火織の時こいつらどこにいたんだよ!?」
「全員夏バテでダウンしてた」
「使えねぇ!!」
じゃあ何だ。人が命賭けて天使を救ってる間、こいつらは呑気に寝てたってか。
「人選ミスだろ!!」
「なにおう!?私の目に狂いはないわ。お兄ちゃんの感性がおかしいだけじゃないの!!」
「おかしいのはお前の目だぁぁぁっ!!」
ガーリック艦内で紅葉の叫び声が木霊した。
「ところで、お前の後ろにいる奴は?」
青葉との数分の睨み合いの最中、紅葉は後ろに控える男性に目を向ける。
特徴で言えば、優男だ。
細い目は柔和な光をたたえている。
「申し遅れました。私の名は市道天と申します。青葉司令の婚約っぶへぼぉ!?」
最後まで言い切ることができず、市道と名乗った男は地下闘技場でスカウトしたという男達に袋叩きにされた。
「《ガーリック》副司令よ」
「ってことはお前の次に偉いってことか…」
とてもそうは思えない。
てか、婚約者とかのたまってなかったか?
「あと婚約者ってのは嘘よ」
青葉は付け加えるようにして告げた。
じゃあ、こいつもロリコンじゃん。
床に倒れ伏す副司令から視線を背けると、青葉に向き直る。
「っで、本題に入ろうか」
「ええ。それじゃあ明日の氷花とのデートプランだけど…」
「その前にお前に聞きたいことがある」
画面を切り替えようとしていた青葉の手が止まる。
おそらく彼女も予感していたのだろう。
「率直に聞く。俺は一体何だ?」
先ほどまでの騒がしさが嘘のように艦内は沈黙に包まれた。
「いってくるのだ。留守を任せたぞ、氷花」
「・・・・は、はい」
ソファの陰に隠れる氷花の返事を聞くと、そのまま火織外に飛び出した。
いつもは(といっても入学して2日しか経っていないが)、紅葉と共に通学する火織だが、今日は紅葉は隣にはいなかった。
今朝目を覚ますと、机の上に朝食と昼食が置いてあった。
何でも、今日は用事があるから、1人で学校に行ってくれといったものだった。
高校までの道は知っているが、やはりいうも隣にいてくれる存在がいないというのは寂しいものだ。
「学校に着いたら、説教だな!!」
そう誓いながら、火織は1人で久世高校へと向かった。
「どういう意味かしら?」
「誤魔化すなよ、青葉」
紅葉と青葉はお互いポーカーフェイスを保ちながら、向き合っていた。
紅葉という存在は天使に似た体質を持つらしい。だから、天使の力を封じることができる。
ここまでは、納得できる。ならば、火織を庇い、左腕が吹っ飛んだ時の驚異的な再生力は何だったのか?
トカゲのように生えた左腕に触れながら、しらを切り通すつもりらしい青葉に目を向ける。
「俺には天使と似た体質があるんだよな?でも、それイコール再生能力ていうのは腑に落ちない。そもそも天使は傷を負わないじゃないか」
火織と初めて出会った時、彼女は遊園地での襲撃の際と同様に不意打ちをくらっていた。
しかし、彼女は無傷だったのだ。
まるで、見えない盾があるように。
ならば、そもそも再生能力など必要ないだろう。
「それは少し違うわ。天使は個人差はあるけど、特殊なシールドで身体を覆っているだけ。攻撃し続ければいつか壊れるわ」
「でも、あの時は確実に俺の左腕は吹っ飛んだ。シールドなんかじゃ辻褄が合わない」
「・・・・・」
「・・・・・」
互いに睨み合いが続く中、それを遮ったのは意外にも地面に倒れ伏した市道だった。
「ならば、こういうのはどうでしょう。紅葉さんが《能天使》を含め、あと3人の天使の力を封じれば、真実をお教えするというのは」
青葉と紅葉はポカンと口を開けたまま、条件を提示する副司令を見ていた。
先ほどまでのお調子はどこに行ったのか、その口調は真剣味を帯びていた。
「分かった。あと3人だな」
「・・・・分かったわ。市道、その提案に賛成するわ」
若干の時間差はあったものの、市道の提案は承認された。
あと3人。
紅葉にとって、この条件は絶望的と言っても過言ではないものだった。
天使力を封じるということは、すなわち自身の命を危険に晒すようなものだ。
それは重々承知していた。だが、それでも紅葉は知りたかったのだ
自分という存在を…