彼オア彼女?
葛城山と金剛山に登っていて、投稿が遅れました。
すいません。
《天使》
その存在を知ったのは、夏休みが終わってすぐのことだ。
《熾天使》と呼称された天使 火織と出会い、義妹である青葉からの任務をこなし、気付けば夏休み終了から既に10日間が過ぎていた。
夏休み終了から11日目のその日、火織にとっては入学2日目となるその日は先日の猛暑日が嘘のように、寒かった。
空を舞う白い粉…、いわゆる雪というものが降っていた。
そんな季節外れの雪の日の朝、俺 柊紅葉は2人目の天使と出会った。
そもそも2人目の天使と出会った発端は、俺の自室に居候を始めた元天使と血のつながらない妹の寝起きの悪さだった。
先にも述べた通り、その日は朝から雪が降り、俺達の住んでいる街は銀世界に変わっていた。
まだ3ヶ月は先だと言われていた初雪が降り、一部の交通機関が麻痺していると、ニュースで語られる中、バカな元天使と義妹はソファの上で仲良く惰眠を貪っていた。
「・・・・起きろ。くそ馬鹿シスターズ」
食卓の上に朝食を並べ、昨日家族として正式に迎えられた火織を起こそうと試みるが反応は無い。
完全に熟睡している。
「高校入学2日目で遅刻する気か・・・?」
堪らず、頭を抱えたくなる。
昨日のホームルームの際に放った火織の一言はあっという間に学年中に伝わった。
ーー美人転校生と同棲している男子高校生といった形で…
いや、決めたのは青葉だし…と言い訳できる筈もなく、周囲からの奇々の視線を耐え忍びながら昨日を過ごした。
今日、遅刻して通学した時どんな視線を向けられるのか、考えてみるのも恐ろしい。
「外は雪だぞ〜。早めに学校に着けたら、遊べるぞ〜」
俺は小学生かっ!!
そう自身にツッコミたくなった。
雪で遊べるって…どこの低学年だよ。
「おお、遊べるのか!?」
「雪だ雪だ!!雪合戦だ!!」
いたよ。
いたよ、低学年…。自宅にいたよ…
「当たり前でしょ!!雪は男のロマンよ!!」
義妹よ、お前は女だろ。男の何が分かる。
「おお、マロンか!!美味しそうだな!!」
火織…そのボケは随分と古い。
「馬鹿シスターズ、どっちにしても早めに行かねえと遊べねえ・・・ぞ」
ソファの上には既に誰もいなかった。
机上に置いてあった食事は既にたいらげられ、玄関から扉の開く音が聞こえる。
「おい、外は雪だぞ!!せめて防寒して行け
!!」
俺の制止虚しく、表には既に2人の影は無かった。
湖のほとりに位置する星宮中学、そこに在学している青葉に弁当を届け、俺は湖をぐるりと囲んでいる道を歩いていた。
湖は表面が凍りつき、スケート場のようになっていた。
「何でこんなに寒いのかな〜」
今朝がた箪笥の奥から取り出した白のマフラーに顔をうずめると、ため息をこぼす。
バカな天使とバカな義妹によるバカな行動によって、弁当をわざわざ中学に届ける羽目になるとは…
「しかし、誰もいないな。やっぱ寒くて家にこもってんのか?」
携帯の画面で時刻を確認する。
登校時間まであと30分程度、火織は既に高校の敷地内で仲良くなった友達と遊んでいるらしく心配する必要はない。
つか、遊んでる友達って誰だ?
クラスにいる人間に火織と同程度の精神年齢の奴を脳内で検索していると、視界に何とも奇妙なものが映った。
黒い三角帽子に黒いマントを装備した小学生ぐらいの少女(もしくは少年)が湖の表面を滑っていた。
一見、魔女を連想させる姿で滑る彼女(もしくは彼)は颯爽と滑る。
「すげぇ・・・・」
プロ顔負けの速さで滑る少女(もしくは少年)は湖の表面を蹴ると、空中で5回転する。
そして、バキィ!!バシャアァァァァン!!
着氷した瞬間、氷が割れ湖に沈んでいった。
「・・・・・・・」
その割れ目を見るが、少女(しつこいようだが、もしくは少年)が浮上してくる気配はない。
やがて水面にスケートブーツが浮上してきた。
「って、おい!!」
極寒の中、服を脱ぎ捨てると湖に飛び込む。
皮膚がピリリと痺れるが、気にしている暇はない。
沈んでいく黒い魔女(?)の細い腕を掴むと、水面に向けて浮上する。
「ぷはっ!?寒っ!?」
水面に顔を出すと、痺れていた感覚が戻り、容赦無く体温を奪っていく。
とりあえず魔女(?)を引き揚げると、びしょ濡れになった白のカッターシャツを脱ぐ。
魔女は意識を失っているようで、ぐったりとしている。
三角帽子から覗くその顔は青葉よりも幼い、おそらく小学生だろう。女性特有の柔らかさから、女の子だと推察される。青い髪で目元が隠れているが、顔色は青ざめている。
まあ、極寒の湖にダイブしたんだから当然か…
「ぶえっくしょん!!さ、さふい」
俺も寒中水泳したんだったな…
とりあえず、身体を温めなければならないが、そこで手首に装している腕時計からアラームが鳴る。
登校時間まで、残り5分の合図だ。
「と、とりあへず、学校、いほ・・」
水を吸ったカッターシャツを折りたたみ、体操着に着替える。
もちろん、タオルなど持っている筈も無く、濡れた身体の上から着用したため、所々でシミが見られるがずぶ濡れのカッターシャツを着るよりはマシだ。
魔女のようななりの幼女には、脱ぎ捨てていたブレザーを被せる。
横抱き…つまりはお姫様抱っこで彼女を抱えると間に合うかどうか微妙な学校へ向けて走りだした。
これが、2人目の天使…後に《能天使》と呼称されていると知る天使との出会いだった。
教師の点呼に応えながら、火織は次に呼ばれる少年…紅葉の席に目を向ける。
今朝、雪合戦とやらをするために青葉と家を出てから、紅葉とは会っていない。
「紅葉・・・遅いのだ・・・」
今日の昼食はどうすればいいのだ?
机に突っ伏しながら、教師の点呼に応える声を聞く。
・・・・・・へっ!?
「遅くなり・・まし・・た。紅葉で・・す」
今にも倒れそうになりながら、扉を支えにしながら、今しがた脳内を占拠していた少年がいた。
「こーうーよーうー!!」
「ちょっ、待っ!?」
飛びかかるように突進してくる火織の身体を避ける体力を残していない紅葉は、そのダイブをもろに受け、吹き飛ばされる。
「こーうーよーう」
頬ずりしてくる火織から距離をとりながら、紅葉は本日2度目のため息をついた。
遅刻ギリギリで学校に滑り込んだはいいが、そこから保健室で魔女(?)の幼女を預け、カッターシャツを貸してもらい、教室に着いた時には点呼が始まっていた。
というのが、これまでの経緯である。
既に体力は0に近く、火織の突進によって吹き飛ばされた。
「火織・・・、そこどけ」
「何をしていたのだ!?心配したのだぞ」
「・・・悪い。よく分からん女の子を助けてた」
火織が女の子という単語に反応し、頬をピクリと動かす。
「女の子・・・だと、私にキスとやらをしたというのに、紅葉は他の女にうつつを抜かしていたのか!?」
「おいっ!?」
その口を塞ごうとしたが、遅かった。
周囲で生徒達が呆然と口を開けた姿が目に入る。
「怒ってます?」
「別に!!」
そっぽを向く火織に土下座すると、
「火織さん。謝りますからそれ以上、言わないでください!!」
このままでは社会的に抹消されそうなので、人生初の土下座をした。
ああ、不倫がばれた夫はこんな惨めな気持ちになるのか・・と頭の片隅で思考しながら、授業が始まるまで延々と土下座を続けた。
まだ、1日は始まったばかりだ。