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俺と天使の最前線  作者: 魔法司書
5/8

俺には姉(もしくは妹?)ができたらしい

神紙かみがみ てる

彼女は6年前、両親を無くしていた。

そして、と出会い、ある約束をした。

それが全てを失った自分に残された最後の希望だった。

そして、6年たった現在、彼女は自らの手で彼を殺してしまった。


「・・・・嘘だ」


対天使用ライフル《レヴィアタン》が腕から離れ、落下していくのが分かる。

《ゼクス》の装備は一般人には知られてはいけないため、早急に回収しなければならないが、神紙の頭にそんな考えは無かった。


自分が《熾天使セラフィム》に放った弾丸は完全に直撃コースだった。

それを当たる寸前に、紅葉が《セラフィム》を覆いかぶさるようにして庇ったのだ。

その結果、柊紅葉の左腕は吹き飛んだ。


「私の・・・・せい・・」


普段なら冷静に状況判断が可能な自分が明らかに動揺しているのが分かった。

私は、自分で大切な人を殺したのだ。


混濁した意識を呼び戻したのは、天使力エグリゴ反応を感知した《カラミティ》の接近アラームによってだった。


「・・・・やったな。私の大切な人間を、殺したなぁぁぁぁぁっ!!」


怒り狂う怒声とともに紅葉が庇った《セラフィム》の着用していたワンピースが中世のドレスへと変貌していく。

それと同時に背中に眩い光を放つ銀翼が現れる。


召喚コール、《火焔短剣フラベルム》!!」


そして、手元に炎が収束していき、身の丈程もある大剣を召喚させる。


「私はお前を許さない!!」


怒り狂う天使の声が驚くほど遠くで聞こえた気がした。





何故だ。何故、目の前にいる紅葉は血を流し、倒れている?

私のせいか?私という存在とともにいたからか?

混濁する意識が頭を掻き回す。

視界に巨大なライフルを持った少女が映る。


「貴様か…」


抑えていた天使力エグリゴが一気に解放される。

そして、天使の象徴である銀翼が再び、背中に発生する。

抑えていたモノを全て解き放ち、視界に捉えた少女を見据える。


「私の大切な人を殺したなぁぁぁぁぁ!!」


感情の抑えがきかなくなり、自らの怒りの感情を汲み取り、手元に聖獣《火焔短剣フラベルム》を召喚する。


「私はお前を許さない!!」


銀翼をはばたかせ、鎧に身を包んだ少女へ肉迫する。

応戦する気力が無いのか、腕をだらりと下げたまま空中で静止している華奢な身体に大剣を振り下ろす。

しかし、それは少女の身体に達する前に遮られる。


「神紙、退却しなさい!!《セラフィム》は私達で足止めする」


目の前に現れた女の言葉で火織に理解できたのは、紅葉を殺った奴が逃げるということだけだった。


「逃がすかあぁぁぁぁぁ!!」


手元にある《火焔短剣フラベルム》に天使力エグリゴで体現させた炎を纏わせる。


鳳焔舞シャラーク暴嵐テンペスタ!!」


炎が渦を巻き、《火焔短剣フラベルム》の刀身から放たれる。


爆発音と共に、空一帯が赤に染まった。





「っ!?」


爆発音が耳朶を打ち、紅葉は朦朧とする意識のなか目を覚ました。

身体が弛緩し、思うように動かない。

左腕は肘から消滅しており、そこから血が溢れ出ている。


『お兄ちゃん!!お兄ちゃん!!返事をして!!』

「あ、ああ。俺だ」


耳に装着した小型無線機から、青葉の狼狽えた声が聞こえる。

どうやら、神紙の、《ゼクス》の介入は青葉も知りえなかったことらしい。

左腕を失ったことによりバランスが狂うが、右腕で粉砕した窓枠を掴み、強引に立たせる。


「火織は…どうなってる?」


左腕から血が大量に溢れ出て来ていたため、視界がぼやける。


『今、火織は天使になって、《ゼクス》役員と交戦しているわ』

「おい…、それってヤバくないか?」

『かなり、ヤバいわ』


緊迫した様子の青葉の返事を聞きながら、左腕を服でくるむ。

痛みのせいで、痛覚が麻痺しているのか痛みはあまり感じなかった。


「俺は火織を助けてくる」

『・・・・・・・・・・』


足元で爆炎が上がる中、神紙が装備していたものと同様の鎧に身を包んだ女性が火織と戦っているのが、確認できた。


「約束したんだ。側にいてやるって、受け入れてやるってさ」


小型無線機がしばし沈黙する。


「ここで俺が逃げたら、火織は本当に孤独になっちまう。それだけは絶対に嫌だ」


たとえ何と言われようと、これだけは譲れない。

幸いにも高度を落として、戦っているようで下に降りて行けば、火織と会えるはずだ。


『分かったわ。火織のところに飛ばすから、一旦回収するわよ』


青葉が言い終わらないうちに、紅葉の身体を淡い光が包み込む。


次に目を開けた場所はいつもの無機質な床の上、ではなかった。

周囲にフィルターのようなものが何重にも貼られている廊下だった。


「ここは?」

「我が母船 《ガーリック》の自慢の兵器、呼称名称 《バーミリオン》よ。

超電磁砲レールガンの技術を応用して製造した最速の荷物運搬・・・・兵器!!』

「しょぼっ!?」


荷物運搬兵器って…。いや、そもそもそれは兵器と呼んでいいものなのか?

…ていうか、何故俺はそんな最速の荷物運搬兵器の内部にいるんだ?


『よ〜し、ヤロウども準備はいいか!!』

『オオッオオオオオォォォォ!!』


小型無線機からではなく、艦内に設置されたスピーカーから青葉の掛け声と、野太い男どもの声が聞こえる。


「あの〜、青葉さん?俺…いや、僕一応怪我人なんですけど、そこんとこ考慮してます?」

『大丈夫。もう腕は再生してるから』


冷たい汗が流れていると実感できるが、今は他にすべきことがあった。

左腕を見る。

くるんでいた服はほつれ、そこには俺の腕があった。

トカゲの尻尾のように再生したかのように…。


「・・・・・どうなってんだ?」

『細かいことはあとあと!!《バーミリオン》発射用意!!』


ゴウンと音がしたかと思うと、廊下の屋根が開き、朱に染まった空が見える。


「・・・・・・あの〜、本気か?」

『撃てえぇぇぇぇぇぇっ!!』


俺の呼びかけに答えず、無慈悲な命令を下した。気付いたときには身体が宙に浮き上がる感覚と共に俺は下に向かって放たれた。

ものすごい風圧が襲いかかり、呼吸ができない。


「あーほーばー、あほでほぼえてろぉーーっ!!」


訳:青葉、あとで覚えてろぉぉぉっ!!

風圧でまともに喋れず、地面がどんどん近付いてくる。

視界に火織と数人の鎧を包んだ女性が入る。


「火織ーー!!」


一向に減速しないスピードを維持しながら、身体の姿勢を変え、進路を修正する。


大剣を振り下ろそうとしていた火織がこちらを振り返り、目を丸くしてこちらに向かってくる。

当然だ。死んだと思っていたのだから。

いや、実際死んだかどうか紅葉自身も分かっていないのだが…



「ヤケクソだぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


火織が俺の身体を支えた瞬間、その薄く柔らかい唇に自分のものを口付ける。

火織が目を大きく開くのが視界に映るが、気にしているひまはない。

そして、俺と火織の身体は落下・・を始めた。

俺がキスをしたと同時に、火織の背にあった銀翼が崩れたのだ。

これが、天使を封じるということなのか。頭の片隅でそんなことを思考するが、重大な問題が残った。

俺は火織によって宙で受け止められた。

それは火織の背にあった銀翼のおかげだ。

ならば、それが消えればどうなる?


「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!!」


当然、落下する。


地面との距離が狭まっていく。

俺の回復能力(?)が全身打撲を治してくれるかは分からないが、最後のあがきと火織の身体を包み込む。


そして、紅葉の身体は激しく打ち付けられた。


ただし、地面ではなく無機質な床にだが…


「いってぇぇぇ」

「無茶するわねぇ、お兄ちゃん」


いつからいたのか、目の前に青葉が立っている。どうやら、地面に落下する寸前に転送してくれたらしい。

火織は気を失っているのか、俺の腕の中で身じろぎ一つしないが、浅い呼吸音は聞こえる。

ニヤニヤと笑う義妹に取り敢えず苦笑で返すと、お互いの手を取り合った。


「任務完了!!」


俺の初任務は終了した。






「お兄ちゃ〜ん!!」

「ZZZZZZZZ」

「起きろ、こらぁっ!!」

「ぐはっ!?」


肘鉄が俺の脇腹に突き刺さり、俺の意識を覚醒させた。


遊園地による天使騒動から既に1週間が経過していた。

高校生活が再開し、最初の2日間は神紙が何度も謝罪してきた。遊園地で俺の左腕を撃ってしまったことを…、しかし、俺の左腕は健在だ。

周囲は意味が分からないといった視線を向け、本当に居心地が悪かった。

火織は山本唯の養子という形で、《ガーリック》船内に滞在しているらしい。

らしい、というのは遊園地騒動以来、俺は一度も彼女と会っていないからだ。

彼女が目を覚ます前に定期検診だとか、報告書だとか(青葉が押し付けた)をこなしていたため、彼女と会う時間が作れていなかったのだ。


「お兄ちゃん、いってらっしゃい。楽しんで来てね」

「・・・・・・お前、何か変なもの食べたか?」


青葉に見送りなどされたことが無いので、思わず訝しむ。


「別にぃ〜」


意味深な言葉を吐きながら、意気揚々と中学校へと向かって行く青葉の背を見つめながら、俺は嫌な予感がした。


そして。その予感は的中する。


「私の名は、柊 火織だ!!これから宜しく頼む」


ドゴシャアァと音を響かせ、頬杖をついていた俺はずっこけ額を机で強打した。

転校生…柊火織?

目の錯覚だろうか。ついこないだキスした少女が見える。

ていうか、柊って…、今のお前の姓は山本の筈だろう。

目の錯覚ではないと気付いたのと、転校生こと火織がこちらに駆け寄って来るのは同時だった。


「宜しく頼むぞ!!紅葉!!」


俺の額に自分の額をくっつけ、彼女は純粋無垢な笑顔でそう言った。

教室中の視線がこちらに向く。

その中に嫉妬やら殺気やらと負の感情を向けた視線が多数存在したのは言うまでもない。


後になってわかったことだが、山本からの頼みで青葉は養子として彼女を引き取ったらしい。

いや、何頼んでんの?まだ1週間だぞ?

悪意という二文字を感じずにはいられなかった。



・・・俺の騒がしい日常はまだまだ終わらないようだ。









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