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俺と天使の最前線  作者: 魔法司書
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翼というものは消すことができるらしい

天使という存在はどうやら翼を収納できるらしい。

少なくとも、目の前にいる《セラフィム》…火織はそれができた。

いつまでも、俺の白いカッターシャツを着せたままなのはいけないと多大な出費をして買ってやったワンピースに身を包んだ彼女の背に銀翼はなかった。

そんなことが出来るなら、リビングの3分の2の面積を占めている大剣もどうにかしてほしいものだ…


「・・・・・・・フラフラする」


人間3時間の睡眠をとれば、1日過ごせると聞いたことがあるが、それは嘘だ。

2日分の課題に深夜遅くまでかかり、3時間しか寝れていない俺が言うのだから間違いない。

頭はガンガンするし、時折フッと力が抜けることもある。

そんな状態で、テンションMAXの天使と遊園地に遊びに来ている自分が信じられない。

まあ、頭がガンガンする理由は今朝食われそうになったということも関係していると思うが…


「見ろ、紅葉!!大きなコーヒーカップが回っているぞ!!何の飲み物が入ってるのだ?」


テンションMAX状態の天使、火織は目を輝かせながらベンチに腰掛けている俺の方を見た。


「・・・・・・さあ?」


何も入ってないよーと言うのは簡単だが、このお出掛けには立派な目的があるのを忘れてはいなかった。

そう、彼女との相性を上げ唇を奪う。

それが、柊紅葉という特別(?)な存在に課せられた任務ミッションだった。


「それよりも、何に乗りたい?」

「あのコーヒーカップにしよう」

「・・・・マジか」


ヒットポイントが存在するなら、既に数ドットまで削られているであろう紅葉にとってそれは地獄への入口だった。


『お兄ちゃ〜ん。できる限りのことは聞いてあげてね。今相性パラメータは86%よ』


耳たぶに挟む形で取り付けられた小型無線機から楽しんでいること丸分かりな義妹の声が聞こえる。

俺が課題という凶悪かつ無慈悲なボスを攻略している間、惰眠を貪っていたくせに…


「…分かった。行こうか、火織」

「おおぉぉ!!そうかでは早速行こうではないか!!」


テンションに若干の…かなりの差異があるようだが、そんなもの気にしているだけ無駄だった。





「いやー、楽しかったな!!紅葉」

「・・あ、ああ。そうだな・・」


天使特有の身体的能力の高さを目の当たりにした俺はおぼつかない足取りで、コーヒーカップの乗り物から離れた。

途轍もない回転により、俺は寝不足に追い打ちをかけられるような形で酔っていた。


「それでは、次はあれにしようか!!」


指名されたアトラクションは遊園地の定番中の定番、ジェットコースターだった。

俺は本能的に理解した。

彼女は遠慮という二文字を知らないのだと…


ズルズルと引き摺られるような形で、ジェットコースターに乗り込むと、電子音と共に発車した。

俺はジェットコースターが苦手だ。

別に怖いわけではない。ただ、苦手なのだ。

風と一体になったような感覚が、何故だか俺の中にある何かを刺激をするからだ。


「きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「わはははははははははっ!!」


一方は女のような叫び声をあげ、もう一方は常時バカ笑いしている。

最初に言っておくが、女のような悲鳴をあげているのが、俺だ。

何故だがは分からないが、風と一体となるとう特別な環境に置かれた時、俺はいつも怖くなる。

そんな自分が苦手だ。



「いやー、しかし紅葉は女の子のような悲鳴をあげるなぁ〜」

「お前はバカみたいに笑ってたよな」


何というか、「男」ではなく「漢」という感じがした。

本当、つくづく乙女ではないな。


「まあ、こんなのも悪くないか・・」

「何を呟いているのだ?」

「せっかく来たんだから、楽しまなきゃ損だなってことさ」

「・・・うむ!!ではあれに乗ろう!!」


輝くような笑顔をみせながら、手を引いていく彼女は自分達と大差のない人間のように思えた。





「こちら、神紙。目標を確認した。指示を求む」

『座標を教えなさい。パワードスーツを送るわ』


携帯ごしから上司である羽風の声が聞こえる。

神紙は遊園地に来ていた。柊紅葉を街で見かけ、その隣をハイテンションで歩く少女の素性が知りたかっただけだが、よもやそれが自分達が昨日から躍起になって探している個体名称《熾天使セラフィム》だったとは…

ならば、紅葉も彼女に脅されているに違いない。そう考えた神紙は《ゼクス》本部にあるパワードスーツ《カラミティ》の使用を要請した。


もちろん、この場に紅葉がいたならば、誤解だということは解けていただろう。


しかし、彼はそれを知らない。






「このシェイクという飲み物は最高だな!!」


腕いっぱいに抱え込んだシェイクを一心不乱に吸い続けている火織から視線を外さず、紅葉は《ガーリック》自称艦長 柊青葉と通話していた。


「なあ、今相性は何%だ?」

『97%よ。ゴールまであと少し、頑張れお兄ちゃん!!』


無線機ごしから発せられる義妹の声もまた、目の前にいる少女と同様にテンションMAX状態だった。


遊園地へ火織と入り、既に3時間。少し休憩を挟もうと提案し、軽い昼食をとっていた紅葉は火織によって削られたヒットポイントの回復を図っていた。

まあ、ヒットポイントなんて存在しないんだけどさ…


『そろそろ、遊園地の定番中の定番に行ってきなさいよ』

「?。ジェットコースターになら乗ったぞ」


隣の少女が乙女ではないと実感させられた決定的瞬間だった。


『はあ、何言ってんの?遊園地の定番と言ったら観覧車でしょ』

「・・・・・・・・」


いや、お前こそ何言ってんの?

観覧車っていうのは、子供ガキ恋人同士カップルが乗る乗り物じゃん。

確かに定番だけども、高校生にもなって観覧車に乗るというのは、かなりの抵抗がある。


『ついでに、天使についても聞いといてね。じゃっ!!』


反論すると悟ったのだろう。有無を言わさず青葉は通話を終了させた。

やはり、義妹様は俺に全責任を負わせる考えらしい。


「最低だ…」


しかし、それをこなさなければエンドレスで火織とのデート(?)は続くだろう。それだけは避けなければならないことだった。


「火織、次はあれに乗ろう」


火織に提案した場所はやはり観覧車だった。




周囲の視線が痛い。

その言葉は一見使われることの無い言葉のようだが、観覧車の入口付近で並んでいる俺はそれを体験していた。

理由は俺の隣ではしゃいでいるバカ、火織である。

彼女は今さらだが、とても綺麗な容姿をしている。

世間的に言えば綺麗に分類される顔を持ちながら、精神年齢は幼い。精神年齢が幼いということはイコール可愛いということになるらしい。

可愛いと綺麗が混合した彼女が周囲の目をひくのは誰の目にも明らかだった。


「紅葉!!あれは何だ!?でかいドーナツか?」


その上、天然(周りからはそう見える)と思われている。本当は素なのだけれど…


ようやく、順番が回ってきた時には、俺は身体的にも精神的にもボロボロだった。


ガコンと軽い揺れとともに、静かに動き出した部屋はゆらゆらと揺れながら、徐々にその高度を上げていく。


「なあ、火織のいた世界はどんなんだったんだ?」


取り敢えず、青葉に言われた通りのことを問うてみる。

すると窓の外を眺めていた火織の肩がビクンと飛び跳ねた。


「・・・知らない」


その震える声が火織のものだと認識するにはしばしの時間を要した。

彼女の頬にはうっすらと光る軌跡があった。

彼女が泣いているのだと分かった。


「私は何も知らないのだ。いつの間にかこの世界にいて、自分が何のかもわからず、攻撃され続けた」

「・・・・・・・そっか。俺と同じだな」


彼女は自分と同じだ。そう思っている自分に驚いた。

気付けばそう言っていたのだ。

別に嘘ではない。自分もいつの間にかいて、自分という存在が分からなかったことがあったからだ。


「俺はな養子なんだよ」

「ようし?」

「青葉とは本当の兄妹じゃないってことだ」


火織が息をのむのが伝わってくる。

火織だけではない。今までに出会ってきた奴は皆、俺と青葉を血のつながった兄弟だと思っていた。


「俺も最初はさ、自分ていう存在が分からなくて、青葉や親から壁を作ってたんだ。でもさ、俺が柊の家にきて2年目の時、青葉が言ったんだよ」


「あんたは私の本当のアニキだってな」


もちろん、血がつながっているわけでは無い。ただ彼女は俺が孤独でいるのが、見るに耐えなかっただけだったのだろう。

それでも、俺は…


「俺はその言葉に救われたんだ。青葉は俺っていう存在を受け入れてくれたんだよ。それから、自然と親とかとも打ち解けて、今みたいになった」


今でも思い出すことがある。

親の目の前で、俺の頬を叩き、目に涙を浮かべて叫んだ彼女の顔が…

なんか、死んだ人間を思い出しているように聞こえるのはきっと気のせいだ。


「だからさ、青葉に教えられたことをお前に言ってやる。

他人が…世界が、お前を拒んでも俺はお前を受け入れてやる。

お前を絶対に1人にはしない」

「っ!?」


わなわなと身体を震わせる彼女を見て、思わず殴られるか…と身構えてしまうが、硬い拳骨はではなく、柔らかい感触が俺の胸を包んだ。


火織が抱きついていた。



「おい、どうした!?」

「本当か!?本当に受け入れてくれるのか、側にいてくれるのか!?」

「・・・・ああ」


俺の胸に顔をうずめる火織の頭を撫でる。

サラサラとした手触りがし、火織は気持ち良さそうに目を細める。その顔を見つめていると、耳元でかん高いファンファーレが鳴り響いた。


『お兄ちゃん、やったね!!相性が150%オーバー。後はキスしちゃえば任務完了よ!!』

「・・・・・・・・あっ」


本来の目的を完全に忘れていた。

観覧車に乗るところまでは覚えていたが、彼女の身の上話を聞き、言いたいことを勝手に言っちゃて、気付けばキスのことなど微塵も考えていなかった。


「・・・・・・やっべぇ〜」


呟いた瞬間、俺は腕の中にいた火織を押し倒した。

・・・別にいかがわしいことをしようとしたわけではない。

視界の端に捉えた後方の部屋に違和感を感じたからだ。

後方の部屋には誰も乗っていなかった。

俺と火織が順番待ちをしていた時には、長蛇の列を作っていたはずの人間が…誰一人いなかった。


直後に俺の左腕は吹き飛んだ。


肘から上が消失し、紅の鮮血が噴き出す。


一瞬にして、その空間は紅に染まった。


「・・・・っ神紙・・・」


薄れゆく意識の中で、最後に見えたのは身の丈ほどある巨大なライフルを携えた神紙 輝だった。



・・その表情は冷静沈着な彼女には似つかわしく無い、驚愕の色に染まっていた。












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