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俺と天使の最前線  作者: 魔法司書
2/8

義務だといわれて押し付けられる仕事の大半は理不尽なものである

目の前の義妹の発言に紅葉はしばし思考が停止した。

何を言ってる?目の前のこいつはバカなのか?

やっとの思いで出た言葉は、


「そうか。それじゃあ、寿司は他の船員クルーと行ってくれ。暗くなる前に帰って来いよ」


軽く手を振って、山本唯に案内された道を逆走しようと試みるが、失敗に終わった。

理由は簡単。背を向けた俺に義妹がドロップキックをかましたからだ。


「何するんだっ!?」

「何を言ってるんだっ!?」


背中に柔らかい感触があることから、義妹もとい青葉は俺の背中に跨るような形で見下ろしているのだと推測される。


「お兄ちゃん。あんたには話さなきゃならないことがあるのよ。それにお寿司はお兄ちゃんと2人で行くと決めてるの!!」


そんなにも俺の財布をスッカラカンにしたいのか!!と喉まで出かかった言葉を飲み下しながら、青葉を背負う形で立ち上がる。


「分かった。話だけでも聞くから。まず身なりを整えろ。スカートの中身丸見えだぞ」


直後に俺の頭に強烈なGと共にスパァァァンと漫画のような効果音が響いた。




「それじゃあ説明を始めるわよ」


制服のミニスカートから長めのジャージに着替えた青葉は、艦長椅子(?)にゆったりと腰掛け、俺を見下ろした。

現在の俺は床に正座させられ、身長差10センチ近くある筈の青葉を見上げていた。


「まず、お兄ちゃんが遭遇したのは『天使』と呼ばれる存在よ」


後ろに控えていた山本唯から手のひら大のリモコンを受け取ると、青葉は画面に無数の写真を表示させた。

所々クレーターらしきものが確認できる。


「これは、《磁場台風》の起こった地域か?」

「さすが!!《磁場台風》とはね、『天使』という存在が現れることで発生する災害なのよ」


画面が切り替わり、紅葉が出会った『天使』の姿が映し出される。


「こいつは…!?」

「個体名称《熾天使セラフィム》。私達が観測している中でも比較的強力な天使よ」


あれで比較的なのか…。ビル群を一瞬で破片へと変えた一撃を思い出し、背中を冷たい汗が流れる。


「そんでもって、『天使』という存在を保護・・するために設立されたのが私達、《ガーリック》ってわけ」

「それ、母艦の名前じゃなかったのか…?」


再びスパァァァンと頭を叩かれ、額を床に強打する。青葉からの視点で見るなら、俺が土下座しているように見えるはずだ。

もう義兄としての威厳もない。まぁ、元々なかったが…。


「この組織を設立したのはご存知の通り、我が父 柊 源内げんないだ」

「・・・・やっぱりあのバカ義父か」


半ば予想していた答えに頭を抱えたくなる。

柊 源内。彼は俺を拾ってくれた命の恩人である。ただ胡散臭い仕事をしているようで世界各地を飛び回っているらしく、時々電話をかけてくるが、現地の言葉で会話してくるため新手のキャッチセールスかと思い、電話を切ることが多々ある。


「驚かないんだぁ?」

「あのバカ親父ならやりそうなことだ」


それ程までに彼は大雑把で、破天荒な性格の持ち主なのである。


「で、何で俺をここに転送させたんだ?何か理由があるんだろ」

「さすがお兄ちゃん。鋭いね〜」


ニンマリと笑いながらこちらを見る青葉の顔を見ると、嫌な予感しかしなくなる。


「『天使』を倒す方法は二つあるの。一つはお兄ちゃんも見たように力で圧倒し、退却させる。

二つ目は、『天使』に似た体質を持つ人間にその力を封じ込めることよ」


ここに来てようやく青葉の言いたいことが分かった。

『天使』に似た体質を持つ者。それは…


「もしかして、俺か?」

「YES!!」


若干、というかかなりのテンションの差はあるが、紅葉は理解した。

つまり、柊源内は自分という存在の価値が分かっていたからこそ、養子として引き取ったのだ。


「・・・・で、俺は何をすればいい?」

「あら、意外とすんなり認めるのね」


わざとらしく驚く青葉にため息をつきたくなるが、堪える。

面倒な事は早く終わらせるに限る、というのが紅葉の持論だ。


「『天使』の力を封じる方法は、その唇を奪うことよ」

「・・・・・・・Pardon?」

「唇を奪うことよ」


思わず英語で返答してしまったが、どうやら聞き間違いではなかったようだ。

その返答が耳に届いた瞬間、俺は背後にある扉に向けて走り出した。

だが、またもやそれは阻止された。青葉のドロップキックではなく、何処からともなく現れたスーツ姿の屈強な肉体を持つ男達にだ。

両脇に腕を絡められる形で拘束され、足が床に届かない。


「何逃げようとしてんのよ、お兄ちゃん」

「この人達、何処でスカウトした?」

「地下闘技場」


嘘か本当か判別しづらい答えを返した青葉はモニターに向き直り、画面に表示されていた《セラフィム》の画像をアップさせる。


「お兄ちゃんの初仕事はこの天使の唇を奪うことよ」

「難易度高すぎだろぉぉぉぉっ!!」


叫ばずにはいられなかった。

初めて会った奴に平気で剣を突きつけてくる奴からどうやって唇を奪えと?


「近付く前に真っ二つにされるわ!!」

「大丈夫。できる限りのフォローはするわ。それに…」


次に青葉の発した言葉を聞き、俺の脳内にある上下関係グラフで青葉という存在はダントツトップに躍り出た。


「これは柊という苗字を名乗っている以上、当然の義務・・よ」

「・・・・・はい」


ならこんな名前名乗るのやめてやる!!という言葉は絶対零度の視線を向ける青葉によって阻まれ、そう答えることしかできなかった。


「分かった、できる限りのことはする。だけど、一つ聞きたいことがあるんだが…」

「何?」

「今日現れた天使は《セラフィム》だけか?」




自宅に転送された紅葉は最後の質問に対する青葉の答えを思い出していた。


「《セラフィム》だけよ」


ならば自分が屋上で出会った少女(幼女)は何者だったのだろう。

背中にはえた銀翼は間違いなく《セラフィム》と呼称された少女と同一のものだったはずだ。


「お前は一体何者なんだ…」


夢で出会い、屋上で出会った彼女。

自分と酷似した声を持った彼女。

無理矢理、自分を《磁場台風》の内部に送った彼女。

どう考えても、無関係とは思えなかった。


そんなことを考えていようと時間は進んでいく。

紅葉は時間という波に飲み込まれ、気付けば眠っていた。




「お兄ちゃ〜ん!!」


青葉の声が紅葉の意識を微睡みからすくい上げたと同時に、腹部に激しい衝撃がはしった。


「青葉…、てめぇ…」


腹部に青葉の足があり、蹴られたと悟った時には再び紅葉の意識はとんでいた。



「さぁ〜、初任務だぞー」

「・・・・・・・・・・」


再び意識が覚醒した時、紅葉の身体は母船 《ガーリック》にあった。

青葉が地下闘技場からスカウトしたと言う屈強なスーツ姿の男に運ばせたのだろう。

そこで今日の任務とやらを説明され、テンションは既にどん底まで下がっていた。


「簡単だって、《セラフィム》の唇を奪うだけなんだから」

「青葉、お前あとで小一時間ほど説教してやるから自宅で待ってろ」


現在時刻は午前10時、いつもなら高校で授業を受けている時間だ。

サボったわけではなく、《磁場台風》の影響で施設の殆どの機能が損なわれたため、休校となっただけだ。


今日は夏がぶり返してきたように暑かった。

本来なら自宅で自習するなり、時間を有効に使わなければならないのだが、紅葉は猛暑の中、青葉と並んで歩いていた。

アスファルトから放出される熱気が、紅葉の体内にある水分を否応無く奪っていく。


「本当にこんなところにいんのか?」

「間違いないわ。《ゼクス》の連中はこの辺りで《セラフィム》をロストしたって言ってたもの」


アイス片手に端末を操作しながら歩く義妹を見ていると、改めて夢ではないのだと実感させられる。


「いい。《セラフィム》を見つけたら、何でもいいから会話して仲良くなりなさい。そんでもってキスしたら終わりよ」


「唇を奪う」という表現に飽きたのか、キスという単語を連呼する彼女の目は端末に釘付けになっている。

絶対にこけるな、という自分の予測を裏切らず青葉は盛大にずっこけた。


「・・・・・・・・・」

「・・・・うわっぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


大丈夫かと声をかける間も無く、青葉は泣き出した。

着ていたワンピースはアイスがべたぁっと付着しており、片手に持っていた端末は画面が見事に砕け散っていた。


「山本さん。このバカを拾ってやってください」


耳たぶを挟む形で取り付けられた小型の無線機で母船内で見ている唯に指示を出す。


「1人で大丈夫かい?」

「こいつといた方がかえって危険な目にあう予感がします」


正論だなと無線機から声が聞こえた時には、隣に青葉の姿はなかった。

砕け散った端末を残して、母船に帰投したのだろう。


「さあ、さがしますか」


再び坂を上がっていく。

紅葉が住んでいる家は街全体が見通せるほど高い位置に築かれているが、さらにその上に展望台が存在する。

何でも、星を見るために造られたそうだが、場所が場所なため足を運ぶ者はいなかったようだ。今では廃れている。

その近辺で《セラフィム》はロストしたらしい。

そう言えば、天使らしき幼女は星を見たことがないと言っていた。


「星を見るために展望台にいたりしてな」


持参したスポーツドリンクを口に含みながら、軽口を叩いてみる。

そうだったら簡単だろうなぁと淡い希望を抱いて登りきれば、そこには街全体(紅葉の家を含む)を見渡せた。


「・・・・・・はっ?」


見渡せるのだが、備えつけられたベンチがどこかで見たような大剣に押し潰されている。


そして、全壊したベンチの端からレースのついたスカートが見えた。


「・・・まさかな」


覗き込むようにして、大剣の裏側を覗く。

予想通り、そこには昨日出会った天使…《セラフィム》の姿があった。


「最悪だ…」


それが自分の呟いた言葉だと気付くにはしばしの時間を要した。















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