父と娘
43/開かれた懺悔室(http://ncode.syosetu.com/n5410bn/31/)
この話の中でイトマキの考えに影響を与えた人のお話
無事、伊東真木子は昏睡状態から回復し、小学校へ通えるようになった。
しかし、やはり真木子が養女であることがクラスに知れ渡り、真木子はイジメの対象になった。
幸い、クラスの担任の先生がイジメに気づいてちゃんと注意してくれたようだった。
伊藤希は非番の日に養女の真木子を学校まで迎えに行った。学校から出てくる真木子は頭を垂れ、ひどく落ち込んだ様子で周りを見ないようにしていた。
「真木子。」
伊藤希が校門前で待っているのにも気づかず通りすぎていたようで、伊藤希のその声に真木子は驚いて振り向いた。
「たまには一緒に帰ろうや。」
そう言って伊藤希はそのゴツゴツした手を差し出し、真木子は俯いたまま手を繋いだ。
夕暮れの河川敷をのんびりと歩きながら帰っていると、真木子が顔を上げて伊藤希のほうを見た。その目には涙があふれている。真木子は唇を噛んで必死に泣かないよう我慢していた。
「おじさん・・・、おとうさんとおかあさんがいないのは、わるいことなの?」
そういうや否や、真木子は大粒の涙を流して泣きだした。
伊藤希は真木子の頭を撫でながら、どう納得させ、元気付けようか考えていた。
しばらく二人は河川敷に座り、沈む夕日を眺めた。
「おじさん、思うんだけどな、あんまり人の評価とか、周りの奴の言葉を気にしてたら疲れると思うんだ・・・。」
真木子は、夕日を見つめる伊東希を見つめながら不思議そうに首をかしげる。
「おじさんのお仕事はお巡りさんだ。お巡りさんだから、いろんな家のお話を聞いたりするんだよ。そうするとな、本当のお父さんやお母さんが自分の子供をいじめていたり、自分の子供が悪い事してても本当のお父さんとお母さんは知らんふりして放おっておいたりしたりな・・・。本当のお父さんとお母さんがいるから、絶対に幸せになれるってわけじゃない。俺達みたいに、偽物のお父さんと偽物の子供でも、仲良くやってる家族もいる。おじさんもさ、お仕事してて、いろんな人からいろんなこと言われて疲れそうになるんだよ。だけど、自分は自分、あいつはあいつ、って思ってないと、他の奴の意見に振り回されてずっと疲れる人生送ると思うんだ・・・。」
伊藤希はなるだけわかりやすく言ったつもりでも、真木子はポカーンとしている。それを見て、伊藤希は優しく真木子の頭を撫でる。
「悪いな、おじさんのせいでお前がイジメられちまって。」
真木子はただ黙ったまま、伊藤希の服の裾をひっぱった。
「おじちゃん、おんぶして。」
「おう!」
そう言って伊藤希は背中を向けて真木子を背負った。ランドセルのせいもあるかもしれないが、ずっと昔に比べて大きく重たくなったその真木子の成長を思うと、伊東希は思わず目頭が熱くなり、養女の真木子を守れない事に不甲斐なさも感じて複雑な気持ちになった。
「おじちゃん、今日はおじちゃんのハンバーグがいい!」
背中から真木子の威勢のいい声が聞こえた。
「よし、スーパー寄ってくか。」
「うん。」
そう言って二人は夕日が暮れる中、父らしく子供に甘えさせ、子らしく父に甘えた。
「・・・おじちゃんは悪くないよ。いつも、ありがとう。」
そうぽつりと背中からつぶやく真木子の声に、伊藤希は涙を堪えるので精一杯だった。
20数年後、真木子はあの日の夕暮れの河川敷に居た。有りし日の養父との思い出が胸に去来し、切なくて暖かな気持ちになった。
年を重ね社会へ出て、真木子は養父が何を伝えたかったのかようやく分かり、実感できた。
しばらく夕日を眺め、立ち上がって尻についた砂などを払う。
「あー・・・お父さんのハンバーグが食べたいな。」
そう言って大きく背伸びした。




