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43/reboot  作者: 煌洲 桜子
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43/restart

 次の日、皆何事もなかったようにPUCS病棟で働いていた。

 イトマキは試しに豊平に、海外から医療視察の人が来ると誰かが噂していたというと、


 「え?そんなの初耳ですよ?どんな人が来るんですか?」


 と逆に興味を持たれてしまった。


 「あくまで噂ですよ、噂!」


 そう言って豊平をなだめるが、トーマスが言っていた事が本当だったことがようやく分かった。トーマスはどうやらイトマキと岩見の記憶だけは消さないで行ってしまったのだろう。


 それから約一年後、京帝大学病院のPUCS病棟は閉鎖の運びとなった。

 患者たちが完治し、あとは一般病棟で半年から一年のスパンで経過を見ることになった。

 プロジェクトチームは解散し、各々一般病棟へ戻るか、それとも別の病院へ行くかという状況になっていた。


 岩見は屋上でぼんやりと青空を見つめながら煙草をふかしていた。


 「トーマスさんが煙草やめたほうがいいって言ってたじゃないですか。」


 ふと気づけばニヤニヤしながらイトマキが岩見を見ていた。


 「うるせーよ。俺は自分の健康を犠牲にして税金払ってんだ。」

 「はいはい。でも禁煙外来で治療した方が煙草代より安くて済みますよ。」

 「大きなお世話だ。」


 岩見は煙草を旨そうに吸いながら、煙を吐き出した。


 「ところで、お前これからどうすんの?」


 岩見がイトマキを見下ろすと、イトマキはもじもじとしていた。


 「実は、個人で小さな病院を開こうと思ってるんです。」

 「そうか・・・。がんばれよ。」

 「ありがとうございます。」


 イトマキはそう言って礼はしたものの、岩見の側からなかなか離れない。


 「今更愛の告白とかやめてくれよ。俺には最愛の嫁さんがいるんだからな。」


 岩見は煙を吐き出しながら、ほんの少し鼻の下を伸ばしていた。


 「違いますー!不倫願望なんてありませんから!」

 「俺もお前みたいな貧乳はお断りだ。」

 「岩見先生、それ何度もいいますがセ・ク・ハ・ラです!」


 しばらくイトマキはそっぽを向くが、依然として岩見の側から立ち去ろうとしない。


 「なんか言いたいことあんのか?」


 そう岩見に言われ、ようやくイトマキは口を開いた。


 「悪魔にあの時言われた『現実の辛い世界で生きるより、幻の世界で生きて死んだほうが子供たちにとって幸せなんだ。』って言葉が今でも・・・。」


 いまだに子供を取り巻く環境はまだまだ厳しい。イジメ・スクールカースト・DV・性的ネグレクト・・・。そして大人を取り巻く環境もいまだに厳しい。

 それを思うとイトマキの胸は辛くて締め付けられる。


 「あんまり人の言葉に惑わされってっと、自分の身が持たないぜ。」


 そう言って岩見は煙草の火を消した。


 「現実で辛い思いしてる奴らを救うのがお前の仕事だろ?何のために開業するつもりなんだ?」


 岩見にそう言ってもらえて、イトマキはようやく踏ん切りがついたようで、目を輝かせて微笑んでいた。


 「・・・ですね。がんばります。よかったら、いつでも来てください。」

 「自分のトラウマも治せない精神科医に誰が頼むかよ。」


 二人はいつものやりとりをして笑った。

 そこに、不穏な空気が流れる。


 「よう、お二方、えらく仲がいいようで。」


 島松が岩見とイトマキの前に現れた。そして、ポケットから見慣れたUSBメモリを取り出す。それは例の稲村米子のUSBメモリだった。


 「お前ら、これ何か知ってるか?PUCSの大事な治療の鍵になるもんが入ってんだぜ。これを発表すりゃ、ノーベル医学賞間違いなしだ。だがな・・・」


 そう言って島松はUSBメモリをコンクリートの床に叩きつけ、何度も何度も踏みつけてUSBメモリを破壊した。


 「お前らには絶対出世させてやらねぇよ。これが俺からのはなむけだ。」


 そう言って得意げに島松はUSBメモリを踏みつける。島松が勘違いした方向でUBSメモリを破壊してくれたおかげで、イトマキと岩見は内心ほっとしていた。


 「ところで餞ってなんですか?」


 岩見が言うと、島松は鼻を鳴らして嬉しそうに言った。


 「もう今日で俺はここを辞める。明日からフランスはパリに行って、いずれは世界中の女達を虜にするんだ。」


 下品な笑い声を上げなら、島松は岩見たちに向かって背を向けて去っていった。


 「あのオッサン、ボケでもはじまったか?」

 「どうしたんでしょうね?」


 イトマキの心配をよそに、岩見は新しい煙草を取り出して火を付けた。 


 それからPUCSプロジェクトのメンバー達は解散し、慌ただしく月日は過ぎ去っていった。

 そして一年後、岩見も豊平も京帝大学病院で働いていた。そんな中、精神科に女医のアルバイトが来るという話が持ち上がり、男たちは色めきたった。

 アルバイトの女医が来るその日、岩見と豊平は高みの見物で1階のロビーが見える二階の廊下の柵に体を預けながら待っていた。

 ロビーの玄関から現れたのは、いつかどこかで見た童顔のおかっぱ頭の貧乳女だった。

 女は岩見と豊平を見つけると大きく手を降る。


 「豊平、他人のふりするぞ。」


 そう言って岩見がそっぽを向くと、イトマキが大声で叫んだ。


 「岩見先生、豊平先生、お久しぶりです!病院経営が苦しいので、しばらくアルバイトさせてもらえることになりましたー!」


 豊平と岩見はその何事も隠さず明るく言うイトマキの天然さに、思わず呆れながらもどこか嬉しくなっていた。

島松先生、ボケが始まった?

いいえ、答えは番外編にて・・・。

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