魂の重さ
GM達とメリッサはチャットできるようになったが、肝心の例の男と連絡できなくなっていた。
GM達は全ての子供たちを元の世界へ戻したが、これからどうすればいいのかとメリッサに指示を仰ぐ。
ここまで壮大な裏切りをしたにも関わらず、男からは何の連絡も、現れることもなかった。
もしかしたら、男は本当はあらかじめメリッサの裏切りを予想してこの世界をメリッサ達GMごと処分しようとしているのかもしれないと、メリッサは思いつめた表情で考えていた。
そんなメリッサの顔をリータは心配そうに覗きこむ。
「どうしたの?大丈夫よ、心配しなくて。」
そうメリッサがリータを抱きかかえながら微笑みかけると、リータも弱々しいながらも嬉しそうに無垢な笑顔で微笑む。
今のメリッサにとって、この冷たい牢獄の中でリータの体の重さ、魂の重さがメリッサにとっての希望だった。
再び絶望のどん底の中で、今は唯一、リータがメリッサの心の支えになっていた。
メリッサは優しくリータの髪を撫でる。
牢屋の中ではメリッサの力は十二分に発揮できなかったものの、それでもメリッサはリータの心の痛みを引き受け、出来る限り心の苦しみを取り除いた。
ふと、リータが何かもの言いたげにメリッサを見つめ、メリッサの服の裾を握ろうとしたその時だった。
リータの動きが止まっては動き、止まっては動きを繰り返している。
―まさか・・・。
メリッサはこの時、リータのラグを見て、とうとうその時が訪れたことに気がついた。メリッサ自身、分かっていたのに、リータの魂がこの手から去ってしまうことに恐れと悲しみを抱いた。
ここでリータを死なせ、幸せな最後をおくらせてあげたいと考えていたのに、いざとなるとリータと別れることが苦しくてたまらなくなっていた。
メリッサは涙を流し、叫ぶ。
「お願い、リータ、死なないで!」
数々の子供たちの魂を犠牲にして幻の世界で生き、この世界でのログアウト・切断という名の死は子供たちにとって幸せな死だとメリッサは思っていた。
けれども、この手で自分の希望の光であるリータを失う事を恐れ、思わずメリッサはリータを励ました。
メリッサはずっと自分が自分勝手だと言うことを分かってはいたが、それでも、この生命だけは本当に守りたいと心から強く思った。
「ダメよ、死んじゃだめ、お願いだから生きて!」
メリッサは涙を流しながらリータを強く抱きしめる。だが、メリッサの言葉に反してリータの体は徐々に動きが無くなり始める。
「いや、リータ、行かないで!」
尚一層、メリッサはリータを強く抱きしめる。この仮の肉体が、本当の魂が遠くへ行ってしまわないよう、必死で抱きしめて繋ぎとめようとしている。メリッサにもそんなことをしたところで無意味なことは分かっていたが、それでもメリッサの心は最後まで諦めきれなかった。忘れていた『奇跡』という言葉を、希望を信じていた。
ふいに、リータがメリッサの耳に顔を寄せた。
「ありがとう、メリッサ。」
リータは最後の力を振り絞り、自分の口から言葉を発し、メリッサに感謝の言葉を伝えた。
「リータ・・・。」
そう言ってメリッサがリータの方を向こうとした瞬間、リータは消えていた。感じていたリータの魂の重さがなくなっていた。
メリッサはリータを抱きしめていたはずの両手を見つめ、その手の軽さを感じながら、消えてしまった魂のぬくもりを思い出し、呆然としながらしばらく静かに涙を流した。




