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43/reboot  作者: 煌洲 桜子
43/reboot
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43/終わりの始まり

 イトマキは土曜日にでも真駒に内緒で苺花に面会して事の真相を聞こうと、苺花のいる施設にナースセンターから電話をかけてみた。すると、電話に出た職員から驚くべきことを聞かされた。


 『高田苺花さんは、現在肺結核で別の病院に入院しております。容態も悪化しているらしく、面会はできないそうです。』


 イトマキは職員に礼を述べ、力なく受話器を置いた。肝心な時に苺花が面会できないということに、イトマキは落胆を隠せなかった。


―どうしたらいいの・・・お父さん。


 イトマキは苦しみの中で養父を思った。養父のメッセージを信じるべきか、それとも中島遥香が何かの罠なのか・・・。

 肩を落として考えこんでいると、周りがだんだんと慌ただしくなっているのに気がついた。

 看護師たちや、内科・神経内科の医師達が皆忙しそうに病室を出たり入ったりしている。


 「おいおい、マジかよ・・・。」


 ナースセンターの横を通りがかった岩見は唖然として、その光景を見ていた。イトマキはナースセンターから出て、岩見の元へ向かった。


 「どうしたんですか?」

 「どうしたもこうしたもねえよ・・・。次から次に患者が目、覚ましてんだ。」

 「え?!」


 岩見の言葉にイトマキは驚いた。それで内科と神経内科の医師が慌ただしくしている理由がようやくわかった。

 そして、各病室をヒィヒィと息を切らしながら腹を揺らして走る豊平の姿があった。


 「・・・豊平にはいいダイエットになるかもな。」


 岩見は遠くにいる豊平を見て言った。岩見もイトマキも驚いてみたものの、何かいまいち実感がわかなかった。


 「なんでだろうな・・・。」

 「どうしてでしょうね・・・?」

 「あ、まさか『百匹目の猿がどうたら』なんて言い出さねぇだろうな?!」

 「ああ、そういうのありましたね!」


 岩見の言葉に、イトマキはうろ覚えの記憶でタブレット端末で検索をする。


 「『百匹目の猿現象』だそうですよ。なんでも『ある行動、考えなどが、ある一定数を超えると、これが接触のない同類の仲間にも伝播する』って書いてあります。ということは、三沢くんの目覚めが一定数を超えて、PUCSの患者さんの目が覚めるってことになったんでしょうか?」

 「さぁ・・・どうだかなぁ・・・。それもオカルトな話だけどな。」

 「でもどうして岩見先生がそんなことご存知なんですか?」


 イトマキは珍しく岩見らしくもない発言が気になっていた。


 「親戚がその『百匹目の猿現象』の起きた近所に住んでてさ、その猿の島を見に行った時に教えてもらったんだ。猿見るだけのために丸一日時間潰れのはいい思い出だなぁ。お前も一度オカルト精神科医として行ってみろよ。楽しいぞー・・・、田んぼと山しかなくて。」


 岩見は野生の猿の住む島を見にいくだけのために丸一日車に乗って疲れ果てたことを思い出して力なく笑った。


 「じ、時間があればぜひ・・・。」


 イトマキも岩見の意図を感じ取ったのか、遠慮がちに言った。

 二人がのんびりと廊下で話していると、後ろから大勢の足音が聞こえてきた。そしてイトマキと岩見達の横を通りすぎて行った。

 やがてその集団は真駒の部屋へ行き、しばらくしてPUCSの患者の病室へ各々走って向かっていった。

 その集団が真駒の部屋から出てきた後、部屋から真駒が出てきた。どうやら呆然と立ち尽くすイトマキと岩見を見つけたらしく、真駒は二人を手招きする。

 二人は真駒の元まで向かった。


 「伊東先生、申し訳ないが、患者が次々と目覚めているから、しばらくは一般病棟の精神科の先生たちにヘルプを頼みました。もちろん島松先生からも許可は頂いております。」

 「そうなんですか。手伝っていただける方がいれば大変助かります。」


 予想外の患者の目覚めに真駒も慌てていたらしく、なんとか一般病棟の精神科の医師数名に手伝ってもらうよう要請していたようだった。つまり先程の集団は一般病棟の精神科医ということになるだろう。


 「伊東先生、三沢くんの件の会議についてですが、一般病棟の先生方にも一応概要を知っていただきたいので、明日の会議までに資料の取りまとめをお願いします。」

 「わかりました。」


 イトマキは真剣な面持ちで真駒の言葉に応えていたが、岩見は一般病棟の精神科医達は今までのことを見てどう思うだろうと考えただけで軽いめまいがした。


 「そういえば、こんなに患者さんが目を覚ましてるってことは、岩見先生のお仕事も忙しくなりそうですね。」


 そう言われて岩見は思わずハッとする。ようやく念願だった、目を覚ました子供たちから胃ろうを除去できるのだ。


 「患者が目覚めて嬉しいに越したことはないけどさ・・・もう少し目が覚める数は手加減してもらいてぇなぁ・・・。」


 今後目覚めた患者の胃ろうの除去手術の数を考え、岩見は大きなため息をついた。


 そして数日後、軽度から重度までのPUCSの患者が突然大勢で自然に目覚めたのは京帝大学病院だけではなく、全国規模で起きていることがニュースで明らかになった。

 ただ、一つ、全国的に次々と目覚めてゆくPUCSの患者たちが稲村米子や三沢裕也と違うのは、気を失ってから目覚めるまでのことを全く覚えていないということだった。

 

参照

百匹目の猿現象(wiki)

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BE%E5%8C%B9%E7%9B%AE%E3%81%AE%E7%8C%BF%E7%8F%BE%E8%B1%A1


知り合いの職場で肺結核に罹った人がいたそうです。現代でも肺結核にかかることがあるんですねぇ・・・。


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