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43/reboot  作者: 煌洲 桜子
43/reboot
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図書館

 トーマスが一面白い壁で覆われた場所に立っていた。壁はどこまでも果てなく続いている。

 だが、その壁にある扉は高さ2mほどの観音扉だった。扉の両横には警備が二人おり、扉の片方にトーマスと同じ肌の20代ほどの女がいた。女は一見すると坊主のように見えるが、くせ毛が強く、髪の毛がチリチリしているためだ。そして、ゆったりとしたTシャツに短いホットパンツという姿で立っており、体型はアフリカ系で、顔全体が小さく手足がとても長い。8〜9等身といったところだろうか。


 「珍しいわね、あなたが頻繁にここに来るなんて。ママは坊やに会えてとっても嬉しいわ〜。」


 女は腕を組み、トーマスを皮肉って楽しそうにしている。その言葉にトーマスは苛立ちを覚えたが、女の言葉を無視して扉を開いた。


 「あらあら、つれないじゃないの。」


 扉を開けて通り過ぎるトーマスを見て、女はその後を追った。

 扉の中は、先が見えないほどの高い本棚がところ狭しと並んでおり、その本棚には本がぎっしりと詰まっている。そして入りきらなかったものは床に散乱していた。まさに巨大で果てのない図書館のようだった。

 トーマスは床の本を踏まないように慎重に歩く。しかし、女はほんの少しだけ浮いたまま移動している。


 「肉体があるって大変ね。」


 いつの間にかトーマスより女のほうが先を行っており、女は振り返ってトーマスに言った。


 「肉体があった時期よりナビゲーターの時期が長いからそう思うだけだろ。無駄口叩かずさっさと案内しろ。」


 トーマスは女の言葉に思わずきつい言い方をした。女は鼻を鳴らしてそのまま前を向いて進みながら「昔は可愛くて素直な子だったのにねぇ・・・。」などと年寄りや親がいいそうな事をつぶやいている。


 「それにしても男って不憫な生き物よね。」


 女は振り返らずトーマスに語りかける。トーマスは黙って眉間にシワを寄せながら、本を踏まないように必死に歩いている。


 「遺伝子は残せるけど、肝心のミトコンドリアは子供に残せないのよね。だからかしらね、やたらと運命に抗って子供を沢山作ってみたり、権力にすがってみたり、後世に残るような偉大な物を作って自分が居た証を残そうとしてるのかしら?」

 「だとしたら、それはお前のせいだ。」

 「あらやだ、酷いことを言うのねぇ。私が居なかったら、あなたも、誰もいなかったのに。」


 お互い顔も合わせず会話をする。はたから見れば、仲のいい親子喧嘩のように見えなくもない。そして母親のほうが圧倒的に優位で余裕のある立場にあるといったところだろう。

 女はニコニコとしているが、トーマスはふくれっ面をしている。それでもこの女に付き合わなければ肝心の場所までいけないのだ。


 「イヴ、いつまでうろうろする気だ?前はこんなに時間がかからなかっただろう?」


 トーマスはようやくナビゲーターの女の名前を呼んだ。


 「あーん、やっと名前で呼んでくれた〜。嬉しいわー。」


 イヴと呼ばれた女は嬉しそうにしているがトーマスの問には答えていない。


 「だって今度いつ会えるかわからないし、たまには親子水入らずなんていいじゃない♪」

 「何万年も前の女が母親な訳あるか。ばあちゃんと孫に訂正しとけ。」

 「あらひどい、こんなに若くてピチピチしてるのに、おばあちゃんだなんて。」

 「お前が俺を産んだわけじゃないだろ・・・。」


 そうトーマスは言ってしばらく辛い顔をした。


 「あらあらごめんなさいね。」


 イヴは悪ふざけしすぎたことを少し反省した。


 「あなたはなかなか来てくれないから、つい嬉しくなっちゃって・・・。」


 異性に対してというより、なかなか実家に帰ってこない息子に言うような声音でイヴは言った。


 「あ、もうそろそろ例の扉の近くに着くわ。」


 この本で埋め尽くされた場所には、各々専用の扉がある。そして扉には専用のナビゲーターが常駐し、目的の本まで案内する。トーマスの場合はイヴという女がナビゲーターを務める。

 そしてトーマスの特殊な能力として、本の中を見たり書き込みをするだけではなく、他人の扉から出入りができるのだ。だが、トーマス自身の肉体へ帰る時は、自分専用の扉からしか帰ることができない。


 イヴは本棚と本棚の隙間に手を入れ、力いっぱい隙間を開ける。その隙間から扉が現れた。


 「それじゃ行ってくる。帰りも頼んだぞ。」

 「気をつけていってらっしゃい。」


 イヴは息子を送り出すような優しい眼差しでトーマスを送り出す。トーマスは扉に手を掛けた時、イヴのほうを振り返った。


 「しばらくはお前が嫌になるほど来てやるから安心しろ。」


 トーマスは嫌味を言いながら鼻で笑うが、イヴは嬉しそうにしている。


 「もう、素直じゃないんだから〜。」


 そう言ってイヴはトーマスに向かって手を振った。


 

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